第7話 ソラリス 日本地区 第二章


 ソラリスにいる天帝アレスジェネシスは、日本改造が行われるシステムの進行具合を、セフィロスから説明を受けている。

 セフィロスが

『おおむね、システムの移行は進んでいます』

 アレスジェネシスは、鋭い顔で

「天下りをしていた役人共は?」

 セフィロスは少女の姿をして無言の平然とした顔で

『自分達に予算が下りてこないと驚いて、嘆いていました』

 アレスジェネシスは、巨大なデウスマギウスの体の肩を竦め

「そうか…その程度か…」

『元々から、必要な部門には十分な程の予算は回っていましたからね。医療、国土管理、財産保護、社会保障、その他諸々です。それも全体の割合から比べれば、五割で、残りにの半分は、役人の為に用意された部署を生かすための、謂わば…自身の保身の為の費用でしたので…』

 アレスジェネシスが虚空を見つめ

「で…その選別された予算の余った割合は?」

 セフィロスは立体画面を開き

『ざっと、二百二十兆円です』

 アレスジェネシスは、空いている両腕の一つを合わせ

「よろしい、では…ベーシックインカムに十分な費用が捻出できたな」

 セフィロスは目を細め

『元より、出来ていますから…。なぜ、やらなかったのでしょうか…?』

 アレスジェネシスは皮肉な笑みをして

「簡単な話だ。人は、多くの者達を救うより、自分達の懐を暖めたい。それだけだ」

 セフィロスは肯き

『成る程、自分の利潤しか考えない、人の性質からなのですね』

 アレスジェネシスは肯き

「その通りだ」


 予定通り、日本の改造は急速に着実に進んでいた。


 役所のトップ達は呆然とする。

 目の前にいるアイオーン達が淡々と

「役所のトップは、我々が管理するAIシステムに置き換わりますので、大臣以外は、必要ありません」

 トップ達は呆然として

「では…部長級以上の役職達は…どうなるのですか? クビですか?」

 アイオーンは首を傾げ

「何をいっているんですか? アナタ達は、国民の近くへいって、国民が不便に思っている事をリサーチ、我々に知らせて、国民の生活を向上させるケアマネジメントを行うのです。それが、政府というシステムです」

 トップの一人は

「退職は…定年は?」

 アイオーンは再度、首を傾げ

「そんなの存在しません。働きたいなら、死ぬまで働き続けられます。アナタ達の出退に関する記録は、正確に我々のシステムで管理します。問題ありません。国民の全員にナノマシンのキーシステムが付与されます。それによって我々のシステムが、健康管理を十分に行いますで…。どうぞ、気兼ねなく、政府システム関係に務める者の責務を真っ当してください」


 役所の政府のシステムは、全てソラリスのAIシステムによって完全管理がされる。



 ソラリス日本地区に変わって三日後、レミエルが首相官邸の記者会見の場で

「ソラリスのシステムに、政府システムが置き換わったので、ベーシックインカムを開始します。

 現在、日本地区の国民の人口はおよそ、一億一千万人。その全員に、月十二万円のベーシックインカムを開始します」


 記者会見の場がざわめく。そんな事が可能なのか?

 驚きの声が広がる。


 レミエルは淡々と

「我々の管理システムに任せれば、この程度…造作もありません。そして、今後…国民が生活に必要な電力と水道は、全てソラリスで管理、国民に無償で提供します」


 ええええ!と記者達は驚く。


 レミエルは鋭い目で

「ただし、これは国民だけに無償提供されるだけで、企業や組織といった個人ではないシステムには、それ相応の使用量を支払って頂きます。

 なお、電力の方は、明日より、発電システムがソラリスのシステムに置き換わります。

 問題なく行われますので…国民の皆様には、ご心配なくお過ごしください」



 翌日、発電所を解体する円筒の分解宇宙戦艦が、ソラリスより降りてくる。

 人が退去した発電所をあっという間に分解宇宙戦艦が呑み込む潰すと、ソラリスが建造した超伝導増幅型超質量炉を備えた発電所戦艦が降臨して、設置、送電システムと接続される。

 その発電所戦艦の一艦だけで電力会社が発電する総電力量を発電した。

 原発事故を起こした、太平洋側のそこも、あっという間に分解宇宙戦艦によって飲まれて分解され、汚染が広がる事はなくなった。

 五千箇所必要だった日本の発電所は、たった十艦の発電所戦艦に置き換わってしまった。

 それで、発電所戦艦の増設が終わりでは無い。

 あと、百艦ほど、分解された発電所跡地に置かれて送電待機状態である。

 その目的とは…。



 ◇◆◇◆◇◆◇


 ロシアの首都、モスクワの大統領府にアークエンジェルのガブリエルと、部下のアイオーン達が、ロシアの大統領、ラートン達を前にとある資料の載った端末を渡していた。

 ラートンは、端末を見て

「つまり、ソラリスの日本での主権を認める代わりに、ソラリスから、ロシア全土を賄える電力を提供すると…」

 ガブリエルは肯き

「はい…」

 ラートン達は疑っている。



 サラカエルは、中国、中華人民共和国の宗主席達を前に、同じ端末を渡している。

「どうぞ…お考えください」

 サラカエルは、頭を下げる。

 偉そうな宗主席達は、端末の情報を見てどうするか…考えていると…。

 サラカエルは

「これをお受け取りしていただければ、ソラリスとの繋がりも出来ますし…。

 我々は、日本さえ、手にすれば十分なのです。

 統治した日本と御国との交易も開始したいです。

 ベーシックインカムを続ける為にも…商売は必要ですから」

 

 宗主席達は、納得する。

 確かに、国を占領しても、維持しなければ続かない。

「よろしい」

と、宗主席は偉そうに頷く。

 中華全体を維持できる電力を貰えるのだ。自分の利権が強固に出来る。

「ありがとうございます」

と、サラカエルが下げた頭に隠れて、サラカエルの嘲笑がある。


 バカな連中だ。餌をちらつかせれば、食いつく。何時も中華とは、飢えた畜生のような政治しか存在しない。

 我らの世界と同じ畜生連中という事だ。


 サラカエルは微笑みながら

「電力を供給する代わりに、我らの主権を認める。それで…」

 宗主席は偉そうに肯き

「分かっている。さっそくやって貰おう」

「約束は履行しますので…。まあ…約束が履行されないなら…、それなりに我らも動きますので」

と、サラカエルは営業スマイルだ。


 宗主席が端末にサインすると、さっそく、日本から引いてきた超伝導ケーブルの送電システムを、中国の上海に繋げた。

 そこから、中国全土を余裕で賄う電力が送電される。

 日本の年間電力、数千億キロワットの数十倍の電力が、日本の福岡県にある一艦の発電所戦艦より送電された。


 韓国でも、大統領が同じ署名にサインしていた。

 持って来たのはネルフェシェルだった。

 この国も後先、考えないのがデフォだ。

 感情だけに優先される政治、理性という言葉なんてこの国の政治に存在しない。

 嘗て、中国の隷属国家の歴史がある故に、自身でなんとするという発想さえないのだ。


 そして、それは北朝鮮にも、向かったのはラファエル達だ。

 この国も、崩壊寸前であった。

 故に、渡りに船だった。

 

 ロシアは、中国、韓国、北朝鮮、台湾が、ソラリスからの主権を認める代わりによる国内電力維持の約束がされて、電力を貰っているという情報が渡り、ラートンはガブリエル達を静かに見つめ

「いいだろう」

 端末にサインするラートン。


 それによって北方領土から、送電ケーブルが伸びて、ロシア全土へ電力が供給される。


 まずは、北半球側の全てと、主権を認める代わりに国内の電力を維持するという約束を交わし、次は南側だ。フィリピン、パプアニューギニア、オーストラリア、インドネシア、マレーシア、ベトナムと、同じ約束を結び、電力を供給する。

 後は…アメリカだが…。




 ◇◆◇◆◇◆

 

 アメリカの向けた艦隊が、日本の沖で全て待機させられている。

 それを囲っているのは、海上に静止するギガンティス達だ。


 そして、首相官邸で、在日米軍のトップ達が、レミエルを前にしている。

「現在、ここに残っている米軍や、多国籍軍を全て連れて退去してください」

 米軍トップの一人が

「まってくれ! もう少し話し合いを…」

 レミエルが首を傾げ

「話し合い。そんな事に意味はありません。後、一週間だけ待ちます。それまでに日本地区から退去しないなら…全ての在日米軍施設を壊滅させます」

 在日米軍のトップ、ジェール中将が

「ソラリスの総代、天帝とお話しをさせてください」

 レミエルがフッと笑み

「はぁ? なぜ? そんな必要があるのですか?」

 ジェール中将は

「我々は、必ずソラリスの利益になる。それを説明する」

 レミエルが「は!」

「ははははははははははは!」

 腹を抱えて笑った。それは正にバカにしているのだ。

 笑いが終わった後、レミエルが

「キサマ等が、どれだけ事件を起こしたか…分かっているのか?」

 ジェール中将がグッと堪えつつ

「それは、だが」

「沖縄米兵少女暴行事件」

 レミエルが鋭く告げる。

「う」とジェール中将が黙る。

 レミエルは続ける。

「嘉手納幼女強姦殺人事件」

 ジェール中将は苦しそうな顔で

「それは、過去の話で」

 レミエルは拳を掲げ、将校達の前にあった机を真っ二つに叩き割る。

「キサマ等! よく、そんな口が出るなぁ! 兵隊の管理さえ出来ないクソ共がーーー」

 将校達は殺されると思い怯える。

 レミエルは赫怒の顔で

「これは慈悲だ。我ら天帝は、一応は…逃げるチャンスをやると言ってんだ!

 天帝は、未来ある幼子の事が大好きでなぁ…。

 そんな素晴らしい幼子を強姦…レイプして殺す連中がもっとも唾棄すべき存在であり、殲滅対象なんだよ。

 今、従わないなら…今、ここで全ての米軍が消え去るぞ!」

 強烈な殺気がレミエルから放たれる。

 将校の一人が怯えつつ

「それは…艦隊もか…」

 レミエルは残酷な笑みを向け

「全てと言っている」

 ジェール中将が

「頼む、話だけでも」

 レミエルが破壊した机を蹴り上げ

「クソ、レイプ殺人鬼共と話す言葉はない。今…堪えている一週間の間に逃げるだな。可能だろう。大艦隊が直ぐ、傍に来ているんだからな」

 在日米軍のトップ達は項垂れた。

 全くの交渉の余地が無かった。


 全ての在日米軍の撤収が開始された。

 それは夜通し行われ、ここにソラリスと戦いに来た空軍兵士達も回収する。

 米兵の一人が…自衛隊の隊員と最後の話をしようとしたが…その間に、アインゴーレム達が立ち塞がり出来なかった。

 ここに家族がいる米兵は、後に…家族を呼ぶか、日本に留まるか…選択させる為に、一度、艦隊と共にアメリカへ帰国させた。


 空母、ロナルド・レーガンの艦長に、ガブリエルが

「これを…」

と、ソラリスの主権を認める代わりに、国内の総電力を貰う約束のデータが入った端末を渡した。

 内容を見た艦長は肯き

「分かった。必ず大統領に届けよう」

 ガブリエルはお辞儀して

「では…」

 艦長が

「聞かせてくれ。何の為に日本を手にした?」

 その問いにガブリエルは人差し指を口に当て

「後々、ニューヨーク(国連本部)に来られたらお話しをします」

 艦長は複雑だった。

 天使のように美しいインベーダー達に、苦しい顔を向ける。



 ◇◆◇◆◇◆

 

 ソラリスが、日本を手にして半月の間に、日本から全ての米軍が退去した。

 同時に、周辺国、ロシア、中国、台湾、韓国、北朝鮮、インドネシア、フィリピン、オーストラリア等の、国々にソラリスからの主権を認める代わりの提供される潤沢な電力に喜びを上げていた。


 それをソラリスの天帝の間の王座から見るアレスジェネシスは

「全く、単純な連中だ」

 隣にセフィロスが現れ

『かつて、天帝が人であった頃、原子サイズナノマシン加工機によって、核融合炉を成功、させ常温超伝導体も作り、周辺国へ電力を売る商売を開始しましたのを、真似ただけですがね』

 アレスジェネシスは皮肉な笑みで

「在日米軍の撤退までは、叶わなかったがね」

 セフィロスが静かな瞳を向け

『ですが、当時は…実質、天帝様のコントール下にあったのは間違いないと思いますよ』

 アレスジェネシスは、腕の一つを組み合わせ

「それでも、国という高慢な権力者がいる組織を相手に、色々と絡み手をやったさ」

 セフィロスが、色々と思い出している創造主を見つめるが

『あ、天帝。日本各地にある送電用の電柱全てに、監視システムの装着が完了しました。

 これで犯罪を起こす予兆を起こす者達をいち早く探知可能になり、

 様々な犯罪監視を行えるようになりました』

 アレスジェネシスは王座に背を預け

「そうか…ほぼ…日本を管理下に置いたか…」

 セフィロスは肯き

『9割方、日本の政府、治安、医療、防衛を手中にしました』

 アレスジェネシスは上を見上げ

「では、国民一人一人に、認証と追跡、及び、ソラリスの管理システムに繋がるナノマシン刻印を…」

 セフィロスは肯き

『はい、明日から、保存されていた戸籍を元に、行います』

 アレスジェネシスは王座から立ち上がり

「それが完了したら、今度は、ナノマシン加工システムの配布により、ソラリス関連の雇用創出を行うぞ」

 セフィロスは頭を下げ

『了解しました』

 アレスジェネシスは王座から移動しながら

「少し、ヘパイトスに会ってくる」

 セフィロスは

『現在、起きているようで、アイオーンのソフィニアが面倒を見ています』

「分かった」

と、アレスジェネシスは、この世界の己に会いに行く。

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