第6話 ソラリス 日本地区、第一章


 アレスジェネシスは、背に太陽級のドラクエルリオンと、そのドラクエルリオンの片手に握られる地球を睥睨する。

「これで、地球に対する誇示のフェイズは終わったな」

 そこへ、レミエルが来て

「天帝、日本が完全降伏しました」

 アレスジェネシスは頷くと…自身であり力であるドラクエルリオンを、地球から離して、巨大な門の向こうへ収めた。

「では…参ろうか…日本へ凱旋といこう」

「は…」

と、レミエルはお辞儀した。


 天帝とレミエルは、ゆっくりと地球へ、日本へ降り立つ。


 その頃、天帝が降臨する道を、巨大な三十メータの起動兵器巨人、ギガンティス達が、道の両脇に並んで確保する。

 天帝が通る道とは…国会議事堂へ続く直線だ。

 六本木一丁目から特許庁、首相官邸を通り国会議事堂へ向かう道。

 その道の両脇をギガンティスが押さえていた。


 首都高環状線から内閣府下まで続き、国会議事堂まで続く道がギガンティスによって固められている。

 首都高環状線の脇にあるビルから、多くの聴衆の視線と、マスコミがカメラを回している。

 環状線に忠臣であるアークエンジェルと、ネルフェシェルの七人が空から降りてくる。

 同時に、多くのアイオーン達も降りて、環状線の脇に並び、花道を作る。

 600名の女性アイオーン、400名の男性アイオーン。

 彼ら彼女達が交互に並んで花道を作り終えると、最初の始まり七人がいるそこへ、レミエルと共にアレスジェネシスが降臨する。

 ズンと三メータ半の巨体が首都高に降りる。

 アレスジェネシスは、悠然と堂々に、大地を踏みつぶすような威圧と歩みを伴って国会議事堂へ向かう。

 アレスジェネシスを先頭に八人のアイオーン(大天使)が続き、花道となっているアイオーン達も、その八人に加わって、進み度に大きな集団になる。


 日本はおろか、世界中に、この戦争を起こした張本人が堂々と歩み姿が放映される。


 それを見ている者達は畏怖しかない。


 三メータ半の装甲に包まれた巨体、三対の巨大な機械の如き腕達、背中には翡翠色の結晶で出来た多翼を背負い、顔は仮面で隠しているが、第三眼がある三つ目である。

 明らかに人とかけ離れた容姿に、多くの人々が、アレスジェネシスを人外だと思う。

 だが、アレスジェネシスは元人間だ。

 愚昧な愚か者共に絶望し、自身を強大なシステム存在、デウスマギウス(創世神機)へ変貌させた者。

 だが、それを知る者は、この別世界地球にはいない。


 アレスジェネシスを先頭とするソラリスの軍団は、国会議事堂へ向かう。

 そこには、捕まった日本政府の政治家や、高官達がいる。


 アレスジェネシス達が、環状線を降りて、道路を進むと多くの聴衆がアレスジェネシスを、ギガンティスの後ろに隠れるようにして見つめていた。

 その瞳全てが恐れと、畏怖だ。

 そんな中、母親の腕の中にいる幼子が、アレスジェネシスを指さし

「なんで、あの人って大きいの? みんなと違うよ!」

「こ、こら…黙りなさい」

 無邪気な子供の問いかけだった。

 それをアレスジェネシスは耳にして、立ち止まる。

 仮面の三ツ目をその母子に向ける。

 母親は、気付いて逃げようとしたが、道にいたアイオーン達が、上から降り立ち囲んだ。

 アレスジェネシスはゆっくりと母子に近付く。

 母親は思ったここで殺されるかもしれない。

 他の聴衆は、とばっちりを恐れてそこから離れてしまった。

 それを見たラグエルが「チィ」と舌打ちして

「クソな連中だ。自分かわいさに、幼子と母親を見捨てるか…」

 アレスジェネシスが

「口が過ぎるぞラグエル」

 ラグエルが、大きな背の天帝に

「事実でしょう」

 アレスジェネシスが

「仕方なかろう。これが、一般人という薄い皮を被って逃げている日本の性質なのだから」

 サラカエルが皮肉な笑みをして

「天帝も、なかなかに辛辣ですよ」

 ラグエルはそれを聞けてちょっとだけ満足だった。

 

 アレスジェネシスは、怯える母子の前に来た。

 三メータ半の巨体にスラスターの様な脚部を曲げ

「母親に聞く、この子の名は?」

と、アレスジェネシスは右腕の一つをさし向ける。

 その腕の巨大さは、一握りで人を掴める程だ。

 母親は娘の名前を怯えながら告げる。

「愛香です…」

 アレスジェネシスは肯き

「そうか、愛香ちゃん。なかなかに素直で良い子だ」

と、巨大な指先で愛香の頬を撫でた後、背面にある翡翠の多翼から一本の翡翠の結晶の羽を抓み取り

「おじちゃんね。こういう体だが…人なんだ。人には色んな人がいる。わかるかい?」

 愛香は肯き

「うん。分かった」

と告げると、アレスジェネシスは、摘まんだ水晶の羽を愛香に渡して

「良い子だ。きっと素直で優しい子になるだろう。これをあげるよ」

 後ろにいるレミエルが「んん…」と咳払いして

「天帝、時間が…」

「分かった」とアレスジェネシスは立ち上がり、三つの右腕を全て振って、愛香との別れの挨拶をした。

「また、会ったらな」

 アレスジェネシスが立ち去ると、それにアイオーン達も続いた。

 母親はホッとして、その場に座ってしまった。

 そこへ聴衆達が来て、大丈夫か? ケガはないか?と今更の心配の声を掛ける。

 一連を見ていた男性が、

「もしかして…そんなに冷徹な存在じゃあないのか?」

 そして、無責任にもマスコミが、愛香達親子に取材という強引を押しつけたが、母親は逃げるようにその場から離れる。

 母親の腕にいて、アレスジェネシスから翡翠の羽を貰った愛香は、それを掲げて

「キレイ…」



 ◇◆◇◆◇◆◇


 アレスジェネシス達は国会議事堂に来た。

 そこには、アインゴーレム達に捕まっている阿部総理と、その部下達に自民党の重鎮達が並んでいた。

 アレスジェネシスが阿部総理の前に来る。

 巨大な見上げるアレスジェネシスに、阿部総理は真剣な眼差しで

「我々は、降伏しました。ですが…国民だけには、どうか…手を出さないで頂きたい」

 アレスジェネシスは見下ろし

「少し話をする」

 その背後に、大型のアインゴーレムを王座に改造したそれが来て、アレスジェネシスはその王座に座ると、両脇にアークエンジェル達が並ぶ。

 阿部総理は、いや、元阿部総理は、その場に跪き

「どのようにするつもりですか?」

 これによっては、ここで抵抗する構えにアレスジェネシスは右手の一つで顎乗せを作り頬を置いて

「まずは、天皇家の即時退陣をして貰う。天皇家は、我らの打ち込んだアンカーがある静岡県の熱海に、我らが用意する後宮へ住んで貰い我らの監視下に入って貰う」

 元阿部総理は渋い顔をして

「それで国民が納得するとは、思えません」

 アレスジェネシスは肩を竦めて

「納得するもしないも関係ない。そして、天皇自ら、我に三種の神器を譲渡して貰う。それをテレビ、ネットへ生中継する」

 つまり、古来よりある国譲りの儀式をするのだ。

 元阿部総理は、背筋が凍る。

 アレスジェネシス達は、そういう象徴的な事までも、日本を調べ尽くしているというの…知った。

 元阿部総理は黙っていると、アレスジェネシスが

「別に拒否しても構わんぞ。徹底抗戦として国民が犠牲になり、日本という国から人が消える。それも良しだ」

 元阿部総理の脳裏に第二次世界大戦の日本が過ぎる。

 本土決戦という徹底抗戦を唱えて、原爆が投下された事、多くの国民が犠牲になった事。

 同じ過ちは…繰り返さない。


 そこへ、天皇が来た。

「話は聞きました」

 天皇が、アレスジェネシスの前に来る。

「貴方の提案を受け入れます。ですが…国民に犠牲を出さない事を約束して欲しい」

 アレスジェネシスは顎乗せを止め背筋を伸ばし

「随分、上からの物言いなのだな…」

 天皇は、頭を下げ

「お願いします」

 アレスジェネシスは立ち上がり

「良かろう。その約束、確実に履行しよう。国民を無下に扱う事はしない。出来ない約束はしない主義なのでな」

 元阿部総理は、自分が情けなかった。

 こんな事になってしまい、どう…祖先に顔向けすればいいか…。

 己を恥じているが、その時間は短い。


 アレスジェネシスが

「では、早速、その式典を行う」

 元阿部総理が

「待ってください。そんなに急いでは…」

 アレスジェネシスは淡々と、

「三種の神器が、収まる神社へ私のアイオーン達を向かわせて取りに行かせる。早く連絡しろ」

「しかし…」と元阿部総理が渋る。

「わたしは、気が短いのだ。直ぐに出来ないと、この日本が全て焦土と化すぞ」



 ◇◆◇◆◇◆

 

 多くのマスコミとネット通信関係者が、皇居に入った。


 それは夕暮れ時だ。日本の黄昏と同時に日本は、ソラリスへ国譲りを行われる。

 皇居宮殿中庭にて、それは全世界へ生中継される。


 熱田神宮から草薙剣、伊勢神宮から八咫鏡、皇居にある八尺瓊勾玉、八咫鏡は鏡の面が紫の神聖な布の下に隠されている。


 アインゴーレムを王座に座るアレスジェネシスが、天皇を前にその後ろには三種の神器を持つ三名がいた。

 生中継する関係者は、周囲をアインゴーレムの壁に囲まれ侵入出来ないも、十分それを捉える事が出来た。


 神衣の天皇が祝詞やお辞儀をアレスジェネシスに捧げ

「ここに、国譲りを致します」

 三種の神器を持っている三人が動かない。

 これを渡すと、本当に国譲りの儀式が終わって、それによって日本は消滅し、ソラリスの一部になってしまう。

 王座に座るアレスジェネシスに8人のアイオーンの一人、ネルフェシェルが「チィ」と舌打ちした次に、フィールド型ナノマシンを放出、三人の精神を乗っ取り

「来い…」とアレスジェネシスが告げると、洗脳状態故に、歩み寄る。

 アレスジェネシスの足下にある白い浮かぶお盆に、三種の神器が乗せられた。

 そう、これによって国譲りの儀式は完了した。


 日本中が愕然とした。天皇の世代から続く国のあり方が終わり、ソラリスの国のあり方に変わった。

 日本という国が象徴的にも、儀式的にも終わった事を示した。


 アレスジェネシスは王座に座ったまま、右手の一つをあげ

「我、ソラリス天帝なり、この国を譲り受けた皇帝なり。この国はソラリスの一つとなった。故に、ここをソラリス日本地区とする。我らソラリスに栄光あれ!」

 周囲にいたアイオーン達が声を張る。

「ソラリスに栄光あれ! 天帝に光あれ! 我らに名誉と栄光の光あれ!」


 それは世界中に放映され、アメリカのドランド大統領が頭を抱え

「なんて事だ…」

 それを部下の一人、テッドは鋭い顔だった。



 生放送は続き、アレスジェネシスは王座から立ち上がって、生中継するマスコミや、ネット報道達に

「我こそが、この地の新たな帝である。新たな民よ、よろしく頼む」

 マスコミの一人が叫ぶ

「こんな事をして! お前達は、何をするつもりだーーーー」

 怒りに興奮している。

 ネルフェシェルが

「黙らせましょうか?」

「よい」とアレスジェネシスは止め

「その問いに答えよう」

 アレスジェネシスは、怒り叫んだ男の前に来る。

 巨大で威圧的なアレスジェネシスに男は怯む、自分が言った事に後悔する。


 アレスジェネシスは右手の一つをあげ

「まず、一つ、我らは国民全てを保護する。生活、治安、財産の保証を行う」

 親指を曲げ

「二つ目、我らはこの日本地区の領土と国民を守る。領土はこの世界の国際法に準じるが…あまりも目に余るなら…強硬な手段も辞さない」

 一差し指を曲げる。

「三つ目、即時、国民の経済活動の再開を約束しよう。数日は混乱するが…諸外国との取引の開始も、何時も通りに始める」

 中指を曲げる。

 この三つの曲げた指を向け

「まずは、この三つを今から行う。以上だ」

 アレスジェネシスは背を向けて歩くも、再び振り向き

「ああ…そうだ。もう日本国は無くなったので、日本国が結んでいた政府間の約束は全て無効であると…言いたいが…人道的と我々が判断できる約束だけは…継承する事にする。諸外国の諸君、慎重に、正しく我らとつき合って欲しい」

 アレスジェネシスは告げ終わり、そこから去って行った。


 世界中が今までの日本とは違うという事を、知るのはこの後からだった。


 国譲りをされて受け取った三種の神器は、再び、各神社の収まる御所へ戻り、皇居の上には逆三角形の巨大なソラリスの宮殿が配置された。


 次の日から、日本は…人々が混乱しているが、何時も通りの…日常が始まった。

 人々は、ムチャな独裁が始まると思っていたが、以外や、治安に関する警察機構はそのままで、日常は何時も通りに開始された。

 だが、変化は、まだ…始まったばかりである。


 それは…加速度的に、見えない所で始まった。


 早朝、アレスジェネシスは、各省庁のトップを国会議事堂に集め

「では、全ての役所システムを、我らソラリスが管理する」

 各省庁のトップ達は、度肝を抜かれた。

 アレスジェネシスはとなりにいるレミエルに

「計画書を渡せ」

 レミエルは肯き、トップ達にペーパー端末を渡し

「これが、置き換わる省庁のシステムです」

 

 総務省と財務省は、そのままだが…内部のシステムはソラリスになる。

 外見が同じで中身は全く別物だった。

 

 新たに教育に力を入れる教育省が立ち上がり、これは全てソラリスが握る。


 厚生労働省と文部科学省、農林水産省は解体。

 医療省、労働管理省、文化省、科学省、国民食料省に再構築。

 1府11省2庁の全てがソラリスの手中になった。

 完全なる日本の改造である。

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