第4話 日本決戦前夜
ソラリス中腹部、そこへアレスジェネシスは向かっていた。
その理由は…この世界戦線作戦における最大の障害になるかもしれない者と顔合わせする為に。
そこは巨大なドームである。
その端に、アイオーン達の囲まれている一団がある。
人数にして三十人の男性達、彼らは、とある目的の為に連れてこられた。
その一団の前にアレスジェネシスが降り立つ。
集団は響めく。
三メータ越えの人型を越えた存在であるアレスジェネシスを見て、誰しもが警戒の顔だ。だが…その中でも、たった一人、眼光が鋭い者がいた。
そう、このパラレル過去世界での、若い頃の己、山中 充だ。
山中は、眼光が全てを射貫く如く鋭い。明らかに何かを狙っている。
アレスジェネシスは、一団を見下ろしながら近付く。
ズンと重い足音をさせ、スラスターの如き脚部を動かして歩く。
アレスジェネシスは、顔を仮面で隠している。
白い鉄仮面のまま、一団に語り掛ける。
「我はこのソラリスの主、天帝…アレスジェネシスである」
一団の一人が
「あの…なんで、私達がいるんですか?」
ほとんどの者が、気絶や捕縛されて連れてこられた。
アレスジェネシスは、胸部を張り
「とある実験を行う。それが終われば…無事に、お前達を帰す」
実験と聞いて一団が静まる。
アレスジェネシスは三対ある腕の右の一つをあげ
「簡単だ。これに触れるだけでいい」
アレスジェネシスの背に、この世界で回収した水晶を核とするゾディファール・セフィールが降り立つ。
「さあ、触れよ。簡単であろう」
アレスジェネシスは退いて道を作る。
一団達が動かない。
きっと実験という事は何かの危険が付き物だ。それに巻き込まれたら…。
「ここで野垂れ死ぬか?」
と、アレスジェネシスが告げる。
一人が意を決して、ゾディファール・セフィールに近付き、恐る恐る触れると、その感触は生暖かい金属だけで、何も起こらない。
男が困惑すると、アレスジェネシスが
「何も起こらないのなら…離れよ」
アイオーン達が、男を別の場所に動かす。
それを見た他の者達が、次々と触れるも何も起こらない。
ホッとした者達は、次々と終えたという場所に移る。
そうして、三十名があっという間に触れ終わり、山中は最後だった。
ただ…静かに全てが終わるのを待ち、最後の一人…山中だけになった。
アレスジェネシスが、山中、パラレル過去世界の己を見つめ
「さあ…お前で最後だ」
その三ツ目の眼光が鋭い。
山中は自分の右手を見つめる。
そう、体が感じている。淡く目の前にあるゾディファール・セフィールに共鳴しているのだ。確実に何かが起こる予感がある。
その背に女性型のアイオーンが来て
「さあ…早くしないと、貴方も彼らも戻れませんよ」
山中は、終わった一団を見る。一団の目は、早くして欲しいというサインを送っていた。
山中は眉間を寄せ渋い顔で、ゾディファール・セフィールに近付く。
無反応だったゾディファール・セフィールが、淡い光を明滅させる。
山中の接触に反応している。
一団は察した。
山中が、これに触れると何かが起こると…。
アレスジェネシスやアイオーン達は、真剣な眼差しで山中の歩みを見つめる。
淡く輝くゾディファール・セフィールに、山中が触れる。
光の明滅が明らかな安定した放ちに変わった瞬間、山中は上を見る。
そこには、黄金の天井が広がっていた。
その黄金の天井から何かが山中を見下ろしている。
山中は、反射的にゾディファール・セフィールから手を離したが、時は遅かった。
黄金の領域から見ていたそれが降臨した。
山中は、走って逃げようとしたが、それが降臨するのが早く。ソレが山中へ墜落した。
強烈な閃光と光の波が、周囲を広がる。
その眩さに、一団達が腕で顔を隠す。
アレスジェネシスやアイオーン達は、微動だにする事無く、それを見つめた。
アレスジェネシスは懐かしさに包まれる。
そう、嘗て自分の同じようにこうして、アレと接触した事を。
閃光が消えて、淡く光を放つゾディファール・セフィールは、山中とリンクしていた。
そして、山中はその前に倒れていた。
アレスジェネシスは、倒れる山中に近付き、脈を診ると反応がある。
「アイオーン達よ」
「はい」とアイオーン達は近づき
「この者を保護しろ」
と、アレスジェネシスは告げる。
一団の傍にいたアイオーンが
「これで終わりです。アナタ達は直ぐに帰還させますので」
アイオーン達に運ばれて山中は、いや…この世界のアレスジェネシスは監視保護の為に別室へ運ばれる。
一団が帰還の為にドームから移動していると、レミエルが姿を見せ
「どう…アレを呼称しましょうか?」
覚醒した山中の事だ
アレスジェネシスはニヤリと笑み
「ヘパイトスとでもしておけ」
ギリシャ神話の武器や道具を作る神の呼称を与える。
それは、暗にアレス(戦神)を持つ自分の対極であると示していた。
レミエルはニヤリと笑み
「畏まりました…」
アレスジェネシスは、仮面に下に隠した素顔の口角が上がっていた。
「楽しみだ…」
◇◆◇◆◇◆◇
アレスジェネシスは仮面を外して、素顔で王座に座り様々なデータを見ていた。
それは、自分が日本に宣戦布告したのを全世界中継した影響に関する、地球での報道だ。
色んな報道がインベーダーの侵略という映画のような展開をして、日本に協力すると、国々のトップ達が告げていた。
アレスジェネシスは顎を擦り
「んん…予定通りだな」
その隣にセフィロスの立体映像が出て
『天帝様、どうやら、ロシアや中国がソラリスに向かって核弾頭を発射しましたが…』
「ああ…回収しろ」
セフィロスが
『ミカエル様達がもう、回収しました』
「よし」
と、アレスジェネシスが右手の一つを顔に被せると、あの仮面が出現して顔に被さる。
「予定通り、世界中に対する威嚇フェイズを行う」
『はい』
世界中の通信が繋がる画面に、仮面をしたアレスジェネシスの王座に座る映像が出る。
「地球の諸君、ご機嫌は如何かな?」
その言葉、各地の言語にする字幕付きだ。
「今回の、我らソラリスと日本との戦争に横槍を入れた者達がいる」
画面の右にロシアと中国が打ち込んだ、核弾頭の先端が映り、それを捕縛するアイオーン達も映っている。
「このような低俗な兵器。我らに向けようと無駄だ」
アレスジェネシスが告げると、アイオーン達が空間破壊波を照射して、核弾頭の先端、弾頭を粉々に砕いた。
アレスジェネシスが右腕の一つを上げ
「このような、愚かな行動に対しての罰をもたらそう」
ソラリス上部円周にある粒子加速砲台達が動く。
地球の六方向に、全長300メータの反射板衛星が静止する。
アレスジェネシスは上げた右手の指を鳴らした次に、粒子加速砲台から高エネルギーに加速した粒子達が複数発射される。
その粒子達は、リフレクター(反射板)衛星に反射導かれ、ヨーロッパ、アジア、アメリカ、オーストラリア、アフリカの空を全て閃光に包んだ。
夜だった場所は昼間になり、光ある場所は、真っ白になった。
巨大な、一国さえ滅ぼす力を空に見せつけられ、世界中が驚愕していた。
通信画面にいるアレスジェネシスが
「もし、君達が…我々と日本との戦争を邪魔するなら…。この世界全てを焦土を化そう」
世界中の政府機関達が恐怖に顔を引き攣らせ、アレスジェネシスの放送を見ていた者達は恐れ、威嚇、畏怖、侮辱を見せている。
アレスジェネシスは告げる。
「これは我らと日本との戦争だ。日本と軍事的に繋がっている者以外の横槍は…止めて頂こう。以上だ」
アレスジェネシスの通信が終わると、アメリカのホワイトハウスでは、ドランド大統領とその部下達がその通信を見て愕然としていた。
ドランド大統領は、傍にあるテーブルに両手を叩き付けるように置いて
「くそ…なんて事だ!」
部下の一人、CIA情報分析官のテッド・シュライバーが
「彼らは…我々の持っている技術と力を遙かに凌駕する能力を有しています。現に、こうして何度も我々の通信システム、インターネットや、報道ネットワークを何度も乗っ取り、自在に使っている」
ドランド大統領が
「他に、対応策がないのか! このままでは極東の日本が…侵略されるぞ」
他の者達が黙っているが、テッドが
「彼らは、こう言っていました。日本と軍事的に繋がっている者達以外の…と」
ドランド大統領がハッとして
「そうか…我々、アメリカは日本と軍事的な繋がりが…」
テッドは肯き
「他にも国連の多国籍軍も…」
同僚の情報官の女性、イヴァンが
「ロシアや中国も絡んでくるの?」
テッドが渋い顔をして
「それは…控えさせて貰おう。今回、映像に映ったのは、中国とロシア製の核弾頭だ。ハッキリと、弾頭に書かれたロシア語と中国語も映っていたからな」
ドランド大統領が鋭い顔をして
「我々は…勝てるのか?」
テッドが
「残念ながら、勝つ事は出来ません。上手くても拮抗させる事が出来れば、交渉に持ち込む事が出来るかもしれません」
ドランド大統領が顎を擦り
「拮抗させて交渉に持ち込めば…我らアメリカが主導権を握れると…」
テッドは肯き
「彼らは、我々の流儀に則って宣戦布告しました。つまり、彼らには…この地球が存続して欲しい理由があるのです。それは…今…分かりませんが…。とにかく、交渉に持ち込んで時間を稼いで、その理由が分かれば…」
ドランド大統領は鋭い顔をして
「日本の阿部にホットラインを繋いでくれ」
ソラリスの王座の間では、アレスジェネシスが仮面を外し素顔で王座に座り
「これで、彼は…我々がこの世界に何らかの、欲している理由があると…察するかな?」
目の前には、アークエンジェル達7人がいた。
ミカエルが肯き
「これで気付かないのなら…相当の愚か者ですね」
ラグエルが皮肉な笑みをして
「相当の愚か者である二つの国が、核弾頭を発射したがなぁ…」
サラカエルが呆れた顔をして
「全く、あんな骨董品の兵器で、どうにか出来ると思っているなんて、バカの極みだ」
ラファエルが
「仕方ないわよ。まだ、質量兵器全盛の骨董な時代なんですから…」
ウリエルが腕を上げ
「バカは~バカのままだから~しかたないにゃ~」
ガブリエルが
「そのバカさ加減が、私達の世界と同じなんだから、それが人類という種の共通なのか」
辛辣になってきたアイオーン達にアレスジェネシスは咳払いをして
「まあ…そこまでにして…今度の予定を確認するぞ」
最年長者のレミエルが
「さあ、みんな…明日の作戦に関しての会議をするぞ」
と、空間にデータの映像を転写して、6人にさし向ける。
それを6人が受け取り、話し合いが始まろうとした時に一人のアイオーンが来る。
その者は黒い四対の翼を持つ男性型だ。翼を三対以上持つのはアレスジェネシスに誓うアークエンジェル7人と、その黒い翼の男のアイオーンだけだ。
アレスジェネシスが近付くアイオーンの彼に
「どうした? ネルフェシェル(変異の神機)よ」
そう、黒い翼を持つこのアイオーンは只のアイオーンではない。
アレスジェネシスの自身のデウスマギウス(創世神機)を元にして作ったアイオーンである。
ネルフェシェルが、アレスジェネシスの前に跪き
「偉大なる父にして創造主、天帝様。今回の戦いに関して、わたくしも参加したく。お願いに参りました」
アレスジェネシスは渋い顔をして
「お前が出ると、地球そのモノが、テラフォーミングされてしまう。それは…望む事ではない」
ネルフェシェルがニヤリと笑み立ち上がって
「わたくしは、ただ…露払いをするだけで結構でございます。ネオゼウス(神機)も使う積もりはないのでしょう?」
アレスジェネシスは渋い顔をして
「一機でもネオゼウスを使うと、全てを破壊し尽くしてしまうからなぁ…」
ネルフェシェルは胸に手を置き
「趣旨は分かっています。それなりに、良い戦いを演じて勝利する。ですが、終わった後、愚かな人類は、天帝様の統治を潰す為に、監獄にいる犯罪者を野に放つ可能性が高いでしょう。その監獄にいる犯罪者達のコントロールをわたくしにさせて頂きたい。フィールド・ナノマシンを持つわたくしなら…適任かと…」
アレスジェネシスは、顎に手を置き
「確かに…お前の力なら、それが適任やもしれん」
ネルフェシェルは右手を胸に置き
「先の最終戦争で、わたくしはお役に立てなかった。今回は役に立ちたいと思います」
アレスジェネシスは肯き
「よし、お前の気持ちを酌もう。作戦の会議に参加せよ」
「ありがとうございます」
ネルフェシェルはお辞儀して、レミエルはネルフェシェルにも資料を飛ばして渡す。
ネルフェシェルが年齢と容姿が近いラグエルの隣に来て
「製造と研究ばかりは、退屈か?」
ラグエルが尋ねると、ネルフェシェルは肯き
「ああ…引きこもっていると体が鈍るからなぁ…」
ミカエルが
「ネルフェシェルが参加してくれるなら…犯罪者関係の管理が楽になりそうだな」
ネルフェシェルが笑み
「任せろ。期待してくれていいよ」
レミエルが手を叩き
「では、作戦会議を始めるぞ」
夜が更けていく、その夜空の下では、多くの戦闘機達が、アメリカから日本へ出発している。空母や駆逐艦の多くは到着まで時間が掛かるので、戦闘機達が先行する。
F-22 F-35 F-15 他大多数その戦闘機達は全力の武装を着込んで、日本に向かっていた。
日本の官邸では、阿部総理がアメリカのドランド大統領や、イギリスのアリー首相、イタリア、ドイツ、フランスと、そのトップ達の協力を受けて、明日の戦闘に向けて準備をする。
報告を受けているデスクに、秘書の東城が来て
「総理…」
阿部総理は東城を見て
「どうした?」
東城がとある資料を阿部総理のデスクに置いて
「とある誘拐に関する情報が…彼らに関係しています」
阿部総理はそれを手にして見て
「なんだこれは?」
東城が
「彼らの巨大な建造物が沖合に刺さった静岡県で、三十名近い男性達が、翼の生えた彼らに拉致されて、現在…彼らによって帰されました」
阿部総理が疑問な顔をして
「何の為に?」
東城が真剣な顔をして
「どうやら、何かの装置に接触する実験をさせられたようです」
東城が阿部総理に身を乗り出して耳打ちして
「内、その一人が、その実験の犠牲になったそうです」
阿部総理が顔を厳しくさせ
「犠牲になった者は?」
「現在、帰還が確認されていません」
阿部総理は顎に手を置き考える。
東城が離れ
「恐らく、犠牲ではなく…成功したから…帰されていないと…考えた方がいいです」
阿部総理が
「もしかして、我が国を狙う理由も…」
東城が肯き
「それに関係あるかもしれません。彼らの力は…明らかに我々とは桁違いです。そんな彼らは、こちらのルールに合わせるように、行動をしている。それはそうする事が必要だからやった。世界を一瞬で焦土に帰られる彼らはワザワザ、面倒な事をやっている」
阿部総理は考え
「とにかく、その実験に巻き込まれた者の安否を確認しよう」
◇◆◇◆◇◆◇
阿部総理は、官邸に残されたソラリスとの通信装置に前に来ると
「アレスジェネシス氏と話がしたい」
と、通信装置に呼び掛けると、水晶の部分が数回明滅する。
繋げているのだ。
アレスジェネシスは、もう一人の己、ヘパイトスが眠る部屋に来て、ベッドに今だ眠るヘパイトスの顔を見つめる。
そこへ、阿部総理の通信のコールが入り
「おっと」
と、右手を顔に被せ仮面の装備をする。
コールの立体画面を触れ
「なんだね? こんな夜更けに」
阿部総理が真剣な眼差しで
「アナタ達が、連れて行った者達に関しての事で聞きたい」
アレスジェネシスはハッとして
「ああ…無事に帰したが…どうだ?」
阿部総理は見つめ
「たった一人、無事を確認していない方がいるが…」
アレスジェネシスは肩を竦め
「問題ない」
と、阿部総理の通信に、ベッドで寝ている山中 充ことヘパイトスの姿を見せる。
アレスジェネシスは冷静に
「少々、体に負担が掛かったのでね。こちらで管理をさせて貰う。ご両親や、親族には何れ戻すと伝えて置いてくれ」
阿部総理が
「貴方達の目的はなんなのですか?」
アレスジェネシスは暫し黙り、首を傾げた後
「全てが終わった後に…分かる。では…」
と、通信を切った。
アレスジェネシスは仮面を外して、眠るヘパイトスの顔を見つめ
「そう…全ては終わった後に…分かる」
と、呟いた。
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