第2話 パラレル・ワールド

 ネメシスは、全長15万キロの宇宙戦艦の城、ソラリス(天空の城)の王座で、調べに出たアイオーン達の帰還を待つ。

 

 最初に帰って来たのは、金髪で五対の翼を持つ二十代の女性型であるミカエル。

 炎の大天使(アークエンジェル)だった。

「ただいま、戻りました」


 ネメシスは肯き

「どうだった?」


 ミカエルは玉座の前に跪き

「驚くべき事ですが…地球です。わたくしは炎、エネルギーを察知するラマティーア(超知覚)を駆使して、この星で使われているエネルギーの正体を調べましたが…。電磁力で間違いありません」


 ネメシスは顎を擦り

「つまり…同じ物理法則で成り立っていると…」


 ミカエルは顔を上げ

「はい…」


 次に青色の同じく二十代の女性型の水のアークエンジェル、ガブリエルが帰還し、王座の前に跪き 

「ガブリエル…ただいま、戻りました」


 ネメシスが

「生命としては…どうだ?」


 ガブリエルは面を上げ

「地球の生命と全く同じでした。多少、二%以内での誤差はありますが…。同一と言って良いほどです」


 ネメシスが眉間を寄せ

「そうか…」


 次に赤い髪の十代後半の女性型で風のアークエンジェル、ラファエルが帰還し同じく跪き

「ラファエル、帰還しました」


 ネメシスが身を乗り出し

「言語は…どうだった?」


 ラファエルは顔を上げ

「全く同じでした。多くの言語分布も全く同一です」


 ネメシスは閉口する。


 また、緑髪の十代後半の女性型で地のアークエンジェル、ウリエルが帰還し跪き

「ウリエル、帰還しましたーー」


 ネメシスが慎重な姿勢で

「地形と、その鉱物、及び、住居の分布は?」


 ウリエルが微妙な顔をして

「その~ちょっと違いが、ありましゅて~」


 ネメシスが三つの眼を開き

「どんなだ?」


 ウリエルは首を傾げながら

「その~大まかな企業や、組織の配置は同一ですが~。住民がいる住宅が~中堅クラスの住民の住宅の配置が、アタシ達のいた2018年のデータと比べると20%の違いがありました~。地形は全く一緒で、鉱物の分布は10%の誤差くらいで、同じ所にあります~」


 ネメシスは閉口する。


 またしても帰還のアークエンジェルが来る。

 紫髪の二十代後半の男性の雷のアークエンジェルラグエルだ。

 ラグエルは跪き

「ラグエル、帰還しました」

 

 ネメシスが

「どれ程の違いがあった?」


 ラグエルは、先に帰還した女性型アークエンジェルと、ネメシスの反応を見て察した。

 同じだったのだ。

 ラグエルは面を上げ

「人口、戸籍に関しての調査ですが…。2018年当時の地球の戸籍とは、25%の相違点がありました。ですが…地球を動かす政治形態や、重要ポストにいる人物達は、100%の一致でした」


 ネメシスは額を抱える。

 もしかして…本当にタイムスリップをしたのか?

 全てに置いて、25%以内の相違だ。2018年当時とて、正確なデータがあった訳では無い。それを加味すると、同じという事だ。


 ネメシスが悩んでいると、再び帰還する者がいた。


 年齢的に40代の男性、剣のアークエンジェル、髪の色は銀色だ。

「サラカエル、帰還致しました」


 ネメシスが慎重な視線で

「どうだった? 歴史の方は?」


 サラカエルは真摯な目を見て

「全くの同一でした。誤差なぞ存在しません」


 ネメシスは、ふぅ…と息を吐き出し

「そうか…」

と、一言だけだった。


 ソラリスの下にある地球を調査した、アークエンジェル達は、自分達に血肉を分け与え創造してくれた創造主の父が、困惑しているのを察していた。

 ネメシスは目を閉じ

「だが…最後、レミエルの報告を聞くまでは…断定出来ない」


 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 純白の髪を持つ50代の空のアークエンジェルの男性型、レミエルは自身を空間湾曲で作り出した完全ステルス、A・O(絶対客観領域)に身を包んで、とある場所へ向かう。

 日本、静岡県の、とある農村。

 その農村の畑を耕している人物を見る。年齢的に三十代半ばの男性は、耕運機で家の前にある畑をおこしている。

 その背に、A・Oに包まれたレミエルが来ると、その顔に驚いた。

 鋭い眼光と、清廉で理屈っぽい雰囲気を纏う、その男性に、レミエルは見えなくても跪いた。

 そして、その男性が、背後に気配を感じて凝視する。

 何かの気配を感じていた。


 レミエルは思った。

 間違いない、覚醒間近の昔の自分達の主であると…。


 男の名は、山中 充。

 彼は、後、二年後には、自宅がある裏山にあるゾディファール・セフィール

 高次元接続ゲートに接触、高次元の存在とリンクして覚醒する。

 この四次元世界より、遙か上位の知覚と能力を得た事で、原子サイズのナノマシンを作り出し、人類初のアーベル型原子サイズナノマシン加工機を作り出し、世界を席巻する。

 そして、愚かな人々の行いによって後々に、大切な者達を失って

 デウスマギウス(創世神機)に転生し、ネメシスとなって最終戦争を起こすのだ。


 山中は、静かに絶対に触れる事の出来ないレミエルのいる場所に来る。

 そして、手を伸ばすと、レミエルは立ち上がって下がり、飛翔した。

 飛翔したレミエルを分かっているかの如く、山中はその空を見上げる。

 

 レミエルは名残惜しそうに、亜光速で飛翔し、宇宙にあるソラリスへ帰還した。



 レミエルは、主、ネメシスの前に帰還する。

「レミエル、ここに帰還しました」

 跪くレミエルに、ネメシスが

「どうだった?」

 レミエルは真摯な目で

「居ました。その時のネメシス様がいました。おそらく、近々、ネメシス様と同じく覚醒するでしょう」


 ネメシスは蒼穹がある天井を仰ぎ見て

「そうか…」

 その言葉はどこか、重く苦しそうだった。


 ネメシスは…天井を見上げたまま「セフィロス」と呼ぶと、ミカエルの空いている右に12歳くらいの純白のドレスを纏ったオレンジ髪の少女が現れる。

 実像ではない立体映像だ。

 このソラリスを維持管理するAIを越えたDI、セフィロスにネメシスが

「カバラの演算では、どのように…なった?」


 セフィロスが、ネメシス達の周囲に様々なデータの立体画面を投影し

『この世界は、我々の過去にあった地球の似たパラレルワールドの地球であると…結論付けています』


 ネメシスが額に手を置き

「つまり、我々のいた宇宙と似た平行宇宙という事か?」


 セフィロスが淡々と

『時間とは、前だけに進む一直線ではありません。ありとあらゆる時と場所、時空が様々に絡み合いネットワークのように繋がっています。宇宙の始まりと終わりは同じ場所にあり、それがループして存在しています』


 ネメシスが眉間を寄せ

「オメガ『最終』なりてアルファ『始まり』か…」


 セフィロスは肯き

『終焉と原初は同じです。その間にある時間は無限の確率と変動を繰り返し、無限の方向性を持っています』


 ガブリエルが

「それでは、全てが生き返り、全てが一瞬で死ぬ。死者蘇生まで可能となるぞ」


 セフィロスは肯き

『肯定します。ですが…我々は出来ない。その理由は、天帝様がご存知の筈』


 ネメシスが目を細め

「次元的領域作用か…」


 セフィロスが肯き

『我々は、我々が出来る事が決まっている。極最小の量子力学的の作用を我々のサイズで起こすには、膨大なエネルギーが必要です。その逆もしかり』


 ネメシスが

「我らは、ループ(四次元)に生きる存在故にか…」


 セフィロスが肯き

『故に、我々はその領域から脱出する事は、不可能ですが…。希に飛び越える者がいる。

 それは…天帝様のように』


「そうか…」とネメシスが呟いた後

「セフィロスよ。つまり、ここは、我々の過去と似た宇宙で、我々がいた現実に通じる世界ではないのだな…」


 セフィロスは肯き

『はい。もう…我々がここに存在した瞬間から、全くの別の世界です。似たよな歴史を持つ別の時空です』


 ネメシスは王座から立ち上がり

「分かった。どうして、このようになったかは…後で調査…いや、これも高次元接続ゲートシステムの機能なのだろうな…」


『はい』とセフィロスは頷く。


 ネメシスは王座から去りながら

「皆の者よ。御苦労だった。疲れを癒やすがいい」


 ミカエルが

「天帝様は?」


 ネメシスは背中を向け

「少し、自室で考える事にする」



 ネメシスは、自室へ来る。

 自身の三メータの巨体を支えられる程の反重力ベッドに腰掛け思考する。

 スラスターのような脚部、翡翠色の結晶が並ぶ六対の羽と、機械の如き三対の腕、胸部は損傷したので、滑らかで柔らかい生体金属、顔立ちは、少しだけ昔の雰囲気を残し、超越知覚をもたらす第三の目を額に持つ。髪は、そのままの黒。

 もう、人とはかけ離れてしまった。


 立体画面を展開して、レミエルが持って来たデータから、過去の自分でありつつも違う三十代の己を、上から見つめる。

 亡き父と母もいる。そして、妹が甥っ子を連れて遊びに来た光景だ。


 ネメシスになる寸前まで、幸せだった。


 色々と面倒な事はあった。でも、それで良かった。


 どうして…こうなってしまったのか?

 これも、神が決めた事か?

 そして、逃れた先に、再び同じになる己がいる。

 呪われた先を黙って見ていろという事か?


 ネメシスは額を抱える。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 王座では、アークエンジェル達7人が集まって輪になって話し合っていた。

 ミカエルが

「まさか…天帝様は、自殺を…」

 ウリエルがショックを受けて

「なんでーーーーー」

 ラグエルが

「ウリエルは脳天気だからなぁ…」

 ガブリエルが

「ラグエル。それはウリエルに失礼よ」

 ウリエルが頬を膨らませ

「ぷーーー ラグエル嫌い」

「はいはい」とラグエルは雑に扱う。

 サラカエルが

「しかし…どうしたモノか…」

『んんん…』とウリエル以外の6人は悩むと、ウリエルが

「そんなのどうでも良いじゃん」

『はぁ?』と六人はウリエルを見て

 ウリエルが

「ここは、あたし達の生まれた世界じゃあないんでしゅお~。だったら、好きにすればいいじゃん」

 ラファエルが

「いや、好きにしろってどうやって?」

 ウリエルが両腕で枕を作り、頭を乗せ

「そのまま、あの星に移住しちゃえばいいじゃん! 別にこのまま、宇宙空間にいても何にも問題ないけど、どうせなら、綺麗な大地で暮らした方が楽しいじゃん」

 レミエルが渋い顔をして

「ちょっと、所々では汚染があるぞ」

 ウリエルが口を尖らせ

「いいじゃん! あたし等の力で綺麗にすれば! 天帝様だって前に同じようにやったんでしゅうお」

 ミカエルが

「まあ、確かに可能だけど、っていうか…なんで移住する話になっているの?」

 ウリエルが

「じゃあ、このまま宇宙空間にいる?」

 ウリエル以外の6人は顔を見合わせる。確かに…このままでも、問題ないが…味気ない。

 レミエルが

「私が、少し…天帝様にお話をしてくる」


 ネメシスは、落ち込んでいると、ドアがノックされ、立体映像にレミエルが姿が出た。

「入れ」とネメシスは通す。

 レミエルが、ネメシスの元へ来て

「天帝様…ご提案なのですが…。あの別時空の地球に移住しませんか?」

 ネメシスは首を傾げ

「移住だと…」

 レミエルが

「多分、問題はないでしょう。軍事的にも技術や力でも、我々より劣っている。移住した際のもめ事の問題も難なくクリアー出来るでしょうし…」

 ネメシスは思う。

 確かに、このまま宇宙空間にいても問題はないが…意味もない。

「分かった。そうしよう」

 レミエルが

「ありがとうございます。きっと、転移した元の世界のような事にはならないでしょう」

 ネメシスはフッと笑み

「そうだな…」

と、思った瞬間。

 そうだ、確かに問題にはならない。

 いや、この平行別宇宙には、別ではあるが…自分の失った家族や、友が生きている。

 そこへ自分が来たとして…は!

「セフィロス」

『はい』と右にセフィロスの立体映像が出る。

「もし、このまま…我々があの、別世界の地球に移住したとして…その後の歴史は?」

 セフィロスがお辞儀して

『少々、お待ちを…今、カバラ(十越高次元演算器)に演算させます』


 数秒後


『でました。我々が移住しても、恐らくこの世界の天帝様の方が覚醒は間違いありません。そして、我らが来た事で、それが加速、私達の地球であった最終戦争のような局面が早まるかもしれません』


 ネメシスは驚きにつつまれ、顎に手を置き

「それは、我々が受動的に動いた場合にか!」 

『はい』


 ネメシスは目を鋭くさせる。

 また、あの大切な者達が失われるの見るのか!

 今度は、別の視点で、己が絶望する姿を見させられるのか…!


 セフィロスが

『ですが…これは、あくまでも我々が世界に対して受動的に動いた場合にです』


 ネメシスは第三の目がある三つの瞳を大きく開き

「我々が…能動的に動いた場合は…」


 セフィロスは

『ここは、我々の過去ではありません。我々の過去と似た別の宇宙。我々が能動的に動いた場合には、如何様にでも未来は変えられます』


 ネメシスは、ゆっくりと反重力ベッドより立ち上がる。

 その目には、強い光が宿っていた。


 させるか! 二度と同じ事を起こさせない!


「セフィロス、作戦級のアイオーン達を招集せよ」

 セフィロスはお辞儀して

『畏まりました』


 レミエルが心配げに

「天帝様、何を…」


 ネメシスが意を込めて

「もう…二度と、あの悲劇なんぞ見たくない。いや…起こさせない!」

 決意を固めた。

 故に、この別宇宙の地球の大魔王にでも、征服者にでもなろうぞ。

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