創世戦神物語

赤地 鎌

第1話 約束された最終戦争

 それは、約束された最終戦争だった。


 2045年、地球の宇宙圏では、激しい戦闘が繰り広げられていた。


 地球の東側の宇宙には、純白の天使(アイオーン)の如き人型起動兵器が、その武器である鋼の純白の翼を広げ、空間を震動させる波動攻撃を連射する。


 相対する西側では、黒き重厚な騎士(ディアロス)の如き人型起動兵器達が、腕部に備わる、同じ空間波動砲を駆使して、純白のアイオーン達の攻撃を相殺させている。


 その眼下の地球からは、膨大な数の光輪の翼を持つ、戦艦達が上昇していき、地球と月の間にある、全長15万キロの圧倒的巨大さを誇るソラリスへ向かっていた。


 ソラリスの幅は500キロ長さ15万キロの圧倒的存在からは、膨大なアイオーン達が出撃する。

 地球の北極と南極にある巨大な5万キロ級の大陸クラスの円盤からディアロスの軍勢が迎え打って出る。


 地球、太平洋、ハワイの傍にある巨大な軌道エレベーターの最上部、地上から十万キロの宇宙に達した場所にある、軌道エレベーター区画では、激しい戦闘が繰り広げられている。

 全長一キロの最上部区画を戦い合っているのは二つ。


 一方は、黒き鎧に黄金の翼を幾つも広げ、装甲に包まれる男と、その男の左腕には、翡翠色に輝く髪を靡かせる女が、抱き締める男の左手に自分の右手を強く繋ぎ繋がっている。

 その二人一組の彼と彼女から、無数の光線が発射される。


 それを相殺する攻撃が放たれる。

 それを放ったのは、純白の装甲に身を包み、脚部がロケットの如く大きく、背面に虹色の機械の翼を背負い、三対の装甲の腕を持つ中年の男だった。

 男の名は、もう…人としての姿を捨て、現在はネメシス(復讐神)と名乗っている。


 ネメシスと戦う彼と彼女、彼の名はルシエド、彼女の名はアロディア。


 ネメシス、ルシエドにアロディアの戦いはこの地球の全てを決める要である。


 嘗て、人だったネメシスは、2020年に地球でナノマシンの革命を起こし、世界を席巻、驚異的な発展をもたらしたが…急速な発展には必ず落とし穴がある。


 ナノマシンのシステムは、凄まじい力と技術を可能とする。だが、一歩間違えば大局的破滅をもたらす。

 故に、人だったネメシスは、信用がおける場所にしか、ナノマシンのシステムを広げなかった。

 それに取り残された国々があった。

 嘗て第二次世界大戦での戦勝国であったアメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国とそれに追随する国々。

 ナノマシンのシステムは、主に中東と東南アジア、ロシアに中国と韓国を除く東アジアに広がった。

 どうして、アメリカやロシア、イギリスといったヨーロッパ系の国家には広まらなかった理由。それは、信用が出来なかったからだ。

 国連という戦勝国連合という組織で、多くの多数決を無効化できる安保理の国々は、嘗て世界で自分勝手に利権を貪り食った。

 その身勝手さ故に、人だった頃のネメシスは信用出来ず。広めなかったのだ。


 それに取り残されたヨーロッパ、トルコを除く国々と、アメリカ合衆国、ロシア、フランス、イギリス、台湾を除く中国は、有利だった時代が終焉し、圧倒的不利な時代へ突入した。

 無論、この国々もナノマシンの革新を欲して、人だったネメシスに何度も接触するも、一向にネメシスは頷かなかった。


 そうなると、繁栄を享受する国々を妬み。ヨーロッパ諸国、アメリカ諸国が戦争を起こしたが、ネメシスが作り出した空間波動兵器アイオーン達によって圧倒的惨敗になった。


 その後、戦争をふっかけられた国々と、戦争を起こした国との圧倒的格差が広がる。

 その原因である己の身勝手な振る舞いを振り返る事もなく。

 ヨーロッパ諸国、アメリカ諸国の人口が激減。今まで、移民を受け入れていた圧倒的立場は、逆に移民を出してしまうという立場になる。

 

 そうして数年、人類は月を開拓、新たなフロンティアが始まり、ますます、そのナノマシンのシステムを持っている国と無い国との格差が広がり、ヨーロッパ諸国とアメリカ合衆国に連なる国々は、見るも無惨な状態へ変貌する。


 嘗ての栄華は消え、残るは荒野だけ。


 そんな国々を憂いて、彼女アロディアが接触する。

 アロディアは、ナノマシンのシステムを身に宿すガイヤシステム人種だった。

 アロディアは、その国々で必死にがんばる、ルシエドに心惹かれ、恋に落ちた。


 そして、アロディアはルシエドをガイヤシステム人種へ導き、人々を引き連れネメシスに戦いを挑んだ。

 それにネメシスの力を欲する欲深き者達や、本当に滅ぶ人々を憂う人々まで加わり。

 世界終末戦争が始まった。



 ◇◆◇◆その最終局面◇◆◇◆


 軌道エレベーター頂上で、ルシエドにアロディアの二人の合わさった攻撃と戦うネメシス。

 

 アロディアが叫ぶ

「どうして! アナタは、そんなになってしまったの?」


 無数の光線と、空間波動攻撃が乱舞するそこでネメシスが


「決まっている。お前達、UAE連合共が! 私の大事な者達を奪ったからだーーーー」


 ネメシスの虹色結晶の翼達より、光線と、その結晶がミサイルとなった波状攻撃が放たれる。


 ルシエドが叫ぶ

「アナタは! もっと人を信用するべきだった! でなければ…こんな、最悪な事態には、ならなかった!」


 ネメシスは、第三の目がある眉間を怒りに歪め

「信じたさーーー」

 ネメシスの三対の装甲腕から巨大な光線を放ち、ルシエドとアロディアに向ける。


 巨大光線の嵐を回避し続けるルシエドとアロディア。


 その攻撃を続けるネメシス

「信じていたからこそ、何度も、託す事をしたが! 結果は、どれも裏切られ、結局!

 私がいつもその、尻ぬぐいをしたのだ!

 お前達だって分かっている筈だ。

 どこまでも、愚かな連中は、その愚かさに際限がない!

 思慮が浅いのに、十分に考えたといって、その場の勢いと見栄だけで物事を行う!

 高慢!

 人の為、世の為、正義と振り翳し、自分の欲と悪意を、正義という薄い面の皮で覆う!

 愚昧!

 何も先を考えようともしない。立ち止まってみようともしない!

 浅慮!

 その結果、私の大事な子達や、親族、友の全てを奪った。

 まさに救えない愚か者達! 罪人共だーーーーーー」

 ネメシスの怒りは頂点だった。

 だからこそ、ネメシスは人を捨てた。

 人である己を全く別の存在、デウスマギウス(創世神機)に変えたのだ。


 それ程までに、ネメシスは人類に絶望したのだ。


 ネメシスは、地球ごと、全てを滅ぼす力を発動させる。

 胸部、腕部、鎧の肩当てが開き、巨大な砲口となる。


 空間の圧縮がその砲口で始まる。

 圧倒的破壊、空間そのモノを破壊する相転移砲が地球に向かって放たれようとしていた。


「止めろーーーーーーーー」

 ルシエドが叫び、アロディアと共に光線の巨剣となって疾走する。


 ネメシスは放つ

”インドラ(空間破壊砲)”


 インドラの光が地球へ向かうが、それを切り裂くルシエドとアロディアの光線巨剣。

 インドラの光が裂けて消え、地球は破壊されない。

 ルシエドとアロディアの特攻が、ネメシスの胸部に突き刺さる。


 その剣先をネメシスが掴み自嘲する。

「ふふ…そうか…これが、神の選んだ結論か…

 (運命は、軽薄である 運命は、与えたものをすぐに返すよう求める)

 Levis est fortuna id cito reposcit quod dedit 」


 ネメシスは突き刺さった光の剣を抜き、それであったルシエドとアロディアが悲壮な顔を向けている。


 ネメシスは自嘲したまま

「コレは、老婆心だ。

 人は、変わる。良くも悪くも、変わる。

 悪い部分は、永遠に人の中に残る。それが人故にだ。

 良い部分は、その時代で様々な輝きを放って美しい。

 気をつけるがいい、人は己の得になるなら、悪意でさえ、善に変える。

 愚かで、崇高な存在だ。

 この戦争も、決して差別から来るのでは無い。

 己が得があるから、戦争を始める。その後に差別が始まる。

 己の間違いをひた隠し、蓋をするためになぁ」


「天帝様ーーーーーーー」

 ネメシスが創造した、ネメシスの守護親衛隊のアイオーン達が接近する。

 

 純白の輝く光輪と装甲の鎧に翼を背負う守護親衛隊のアイオーン達は、ルシエドとアロディアに攻撃を放ち、ネメシスから遠ざけると、アイオーン達はネメシスを抱え、亜光速で、ネメシスの全てを持って創造した超巨大な存在ソラリス(天空の城)へ回収した。


 ネメシスは、ソラリスの玉座にて、アイオーン達による治療を受けていた。

 

 玉座で治療されるネメシスの前に、アイオーン達が跪く。

 7人のセラフィム(幟天使)が跪く、四人は女性型、三人は男性型だ。

 女性型の一人が

「天帝様」

と、彼らが呼ぶネメシスの呼び名を告げ

「この後は…どのように?」

 赤髪の男性セラフィムが

「今、現在、ネオゼウス(機神)達が完成しています。一気にここで放ち、ディアロスの軍勢を破壊、地球を破壊し尽くす事も…」


 ネメシスは額にもある第三の目と双眸を閉じて、思いを巡らせる。


 過ぎるのは、地球での思い出だ。

 弟ともにナノマシンのシステムを広める事をした。

 欲深い連中にも多数遭遇したが…友も出来た。

 愛おしい子達もいた。


 その全ては失った。


 弟が

「結婚して、子を持って、人としての幸せを持ってみろって!」

 そう言って、無理矢理のお見合いまでセッティングしたのも思い出した。


 その全ては、もう…存在しない。

 全くの未練さえ湧いてこない。


「もう…よい」

 ネメシスが告げる。


 セラフィム達が

「これは勝てる戦争です!」

「愚か者達に偉大なる天帝の力を示しましょう!」

「このまま、負けて良いのですか? それで満足なのですか!」

 納得していない。


 そこへ、ソラリスのメインAI、セフィロスが

『天帝。UAEの者達が、パラダイムシフト・ナノマシンのミサイルをソラリスへ突撃させました』


 ネメシスが三つの瞳を開け

「状態は?」


『戦いに置いて、支障はありませんが…。ネメシス様をリンクしているゾディファール・セフィール(高次元とのゲートシステム)に接続。

 どうやら、このソラリスを何処かへ強制転移させるつもりです。現在、防壁と駆除を』


「よい」とネメシスは告げ

「このまま、ここより消える事にしよう。戦っている全部隊のアイオーン達を下げよ」


 紫髪の女性セラフィムが

「本当にそれで満足なのですか!」

 悔しそうだった。


 ネメシスはセラフィム達に微笑み

「お前達がいれば、どこでも良い。お前達は私が作った子だ。どこぞとなりと…お前達と共に暮らそうぞ」


 ネメシスのアイオーン達が撤収を開始、あっという間にソラリスへ戻り、地球では勝利した雄叫びが響く。


 ソラリスに突貫したシステムを浸食するパラダイムシフト・ナノマシンによってソラリスが消え去ると、思っていた。


 それを月のフロンティア都市の者達は複雑な表情で見つめていた。


 宇宙空間で、ルシエドとアロディアは、苦悶する顔で、空間転移するソラリスを見つめる。


 ソラリスの周囲の空間が歪み、七色の光を放つ。

 七色の光に包まれる全長15万キロのソラリスは、月軌道に来て、空間の余波エネルギーを放って空間転移した。

 その残滓として、通過した空間転移の穴が残った。大きさとして十キロ程度の星のような穴だった。




 ソラリスは、空間転移する廻廊を進み、別の宇宙へ出た。


 ネメシスは、王座にて別の宇宙を見た。

「ほう…対して、変わっていないなぁ…。地球と同じ暗い宙とは…」


 ソラリスのAIセフィロスが

『天帝、これを…』

 映し出されたそこには地球があった。


 ネメシスは眉間を寄せ

「あああ? もしかして、傍の宙域に転移しただけか?

 セフィロスが

『これを!』

 と、音声を告げる。


「ハロー、エブリバディ、2018年、3月5日月曜日の朝だよーーー

 皆、元気している! 今日もじゃんじゃん楽しんで行こうーーーーー」


 ネメシスが渋い顔で

「どういう事だ?」


 セフィロスが

『この音声が確認出来たのは、日本です。そして、ネットワークに接続した所…

 ここは2018年の地球のようです』


 ネメシスは顔に三対の腕の一つを被せ

「まさか…タイムスリップをしたのか? そんな事が可能なのか?」


 セフィロスが

『現在では、分かりませんが…調査が必要です』


 ネメシスが右腕の一つを上げ

「警戒の為にステルスモードにしろ!」


 そう、ネメシスがいるソラリスは、2018年の地球へ来た。

 ただし、そこは…。

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