16. ニンゲンの音、小さなものの音

 ──火が周るのが速い。

 そう感じながら、こはくは森の中を走った。ただひたすら、妖精の命を目指して。


 けれどもう、遅かった。

 

 生まれてあまり間もない、まだ飛ぶことのできない妖精は、まるごと火に炙られていた。それが焦げて、甘い臭いを周りに漂わせていたのだ。

『そんな……』

 何故、誰が。こんな酷いことをするのか。

 鼻の奥がツンとなったのは、妖精特有の臭いのせいか、それとも。

 絶望に打ちひしがれていた、その時。

「────」

 かすかに音がした。ヒトの音だ。

「…………だ、れ?」

 一泊の間をおき、フィネルに教わっていた人間の音を発してみれば。

「え? にんげんの、子供……?」

 相手は野太い声。とするとたぶん、ニンゲンのオトコという性別だ。フィネルから少し、聞いていた。

 しかし。この時ヒトの声を発していなければよかったかもしれないと、すぐに思うことになる。

「なあ、――じゃ……――か? き――だ」

 覚えているとはいえ、普段はまったく使わない音であるせいと、火の音で、男の言葉がちゃんと聞き取れない。このニンゲンは、なんなのだ。

 戸惑っていると。


 ゆらり、と火の中から大きなニンゲンは出てきた。数は4。その傍に、妖精から羽を失くしたような姿の、しかしなにか妖精とも違う小さなものがいる。こちらも4。

『…………?』

 気になったのは、小さなものが、全員何かに怯えているように感じたことだ。

 ともかく、ニンゲンが火の中から出てきたのは、そのものたちの力だと思う。

 なんて。思っていたら。

『この人間、どうにか逃がせられないかしら。こんなのかわいそうよ』

『きっと無理よ。下手なことしたら、あたしたちはまた、むしられるわ』

 どうやら、小さなものは、自分たちと同じ音を使っているのがわかった。

 ニンゲンの音と、これの音は、響きや伝わり方が違うのもあって、よく聞こえてきた。

 だから、これは賭けになる。


『――あなたたちは、だれ?』

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