12. 裏の歯車は廻りだす

この日も、彼女は煩悩に向き合っていた。

「ああ、なんて素晴らしいうろこなのかしら! いつ見ても惚れ惚れするわ!」

クルンと巻かれた金髪を揺らしながら、ワルツでも踊るかのように、部屋をクルクルと歩き回る。

いつものことだ。

メイド達も「いつものこと」に、慣れた笑みを貼り付けている。

当の朝奈は、うっとりとしている。まるで、恋する少女のようだ。

温度差が素晴らしく大きい。

こうなると、朝奈は周りに目がいかないのだ。

……「惚れる」相手が「鱗」なのが、嘆かわしい限りだ。

「――お嬢様、そろそろお時間にございます」

そう言い、入ってきたのは。竜学者をしている、リカバだった。

――竜学者。

何処から見つけてきたのやら。朝奈と並んで、竜への情熱が凄まじい。

「え? なんのことかしら」

「その『海竜の鱗』は、レンタル品ですので。本日中に返却する必要がございます」

そう。「レンタル品」のうろこ。この時代には、そんなものがあるのだ。

それを聞いた朝奈は。

「……レンタル? え? 竜のうろこが? レンタルできちゃうというの?」

驚く朝奈に、リカバは満面の笑みだ。

「はい、そうにございます。私ども学者らの中では、常識にございますよ」

「な、な……」

「ロマン」を愛す朝奈にとっては衝撃的な単語が出てきた。それは「ガーン」と、効果音でもくっついてきそうな威力を持つ。

けれど、ふと思い出す。

「……い、いいわ! あたくしには『アオナ』という立派ないいなずけがいるんだもの! しかも彼、聞けば『涙竜』だっていうじゃない!」

そう言い、自慢げに笑うお嬢様に対して、竜学者は苦い顔だ。

そして、伝える。

「お嬢様、御相手のお名前はたしか『アオイ』殿という、半竜の少年だったと、記憶しております」

「……え。」

またまた、「ガーン」という効果音がかかるほどの衝撃。

 だがしかし、彼女のメンタルは素晴らしく強い。

「まぁ、まぁ……、いいわ! 半分でも子供でも、涙竜には変わりないでしょ! むしろ『レア』とも言えるわよね!」

「……左様ですか」

そんなお嬢様に対して。リカバも、その場のメイドたちも、もう笑うしかない。


さて、こちらの歯車も、廻り出すようだ。

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