11. 腹をくくれ

【……来るとは思ってたが、ねえ】

 そんな、ケケの言葉のすぐ後。

【――ねえ、ちょっと】

 すぅっと、アオイが目の前に現れた。

 そして、唐突とも言えるようなことを言ってくる。

【西の森の、老涙竜フィネルについては、知ってるよね?】

【……さぁて?】

【知ってる、知ってる!】

 横から声を上げるはケケの話し相手。

【ああ、まったくおしゃべりだねえ、お前たちは】

【だって、さっき視てたじゃんよ】


 ――ケケこと「狭間の番人」


それは、老いた人のような形をとっているが、もちろん人間ではない。

しょうがないねえ、と、それは語りだす。

【――老涙竜、フィネル。そやつは、争いをやたらと嫌う竜でね。だからこそ、争いの火種となりえるヒトの子を――極上の涙の子を、ずっと隠していたのさ】

【……え】

極上の涙。それはつまり。

【それって。……「涙巫女るいみこ」なの?】

ニィッと、それは笑う。

【そうさ】

アオイにとっては、ちょっとした「おつかい」のような気持ちでいたのだが。これは、ずいぶんな大役だ。

つい、ため息がでるが。


『――こはくを、逃がしておくれ』


(……)

どうにもその言葉が、耳に引っかかって離れてくれない。

【アオの、腹をくくれ】

【……言われずとも】

そのまま、アオイはそこを後にした。


――さあ、物語のはじまりだ。

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