10. 時の裏では

【こはくを、逃がしておくれ】

 アオイは、「彼」から言い渡されて、フィネルたちのもとへ赴いた。

 フィネルは、アオイとは初対面で、さらに訳ありの竜にしては、あまりに警戒心がなさすぎる。

 アオイの知る竜たちが、殺気立っているとか、そういうよりは。

「……温厚すぎるのって、どうなんだろう」

 今回の「任務」での情報通り。いや、それ以上に。

 なんだか、あまりにも。

 精霊たちも、「こちら」のよりもずいぶん、フィネルの言葉を信じているようだし。

 ――あの空間だけ、まるで別世界のよう。

 これは、思っていたより、やりづらいというか。重要な仕事のようだ。

 そんなことを思いながら、寄り道に「あれ」に相談しに行く。

 きっと今回のことも。どこからか見ていて、ただただ他人事として、面白がっているのだろう。

 ――「狭間の番人は、いつでもどこでも傍観者」――。

 それが、「あれ」というやつだ。

 その一方で。

「……どうしよっかな、報告」

 「彼」の性格からして、老涙竜の子どもたちを――竜に育てられた人間を、ただ逃がすだけで、納得するとも思えない。けれど、あまり時間がない。となると。

「まあ、事後報告でいっかな」

 すぅっと、息を吐き、気を取り直して、「あれ」のいるところへ行くアオイだった。

 ――この時はまだ、こはくが「極上の涙」の者とは知らずに。

ゴミ箱(2)空ける


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