6. 愛しの子

最近、フィネルはこはくに、「人間」がどのようなものか、彼らの恐ろしさと、脆さを。まるで子守唄のように、教えてくる。

 まず、言うのは。

「……人間は、ずるく、賢いものだ。自分が大切で、『一人ぼっち』を恐れる」

 まるで、なぞなぞだ。

「自分が大切なのに、誰かのそばにいたいの?」

「そうさ」

その話の時は、決まって人の言葉で、話される。だからこはくも、それにならう。

「人間は、寂しがり屋なんだ。だから、他の人といることに、安心するか、警戒するかなのさ」

「……どうして、警戒するの?」

「……そうだねぇ」

 フィネルはそこで、少し遠い目をする。

「こはくが、この森に置き捨てられた時、妖精たちは、すごく困って、少し警戒したんだよ」

「あ……キキから、少し聞いたことがある」

「おや、一番警戒していたのは、あの子なのにかい」

「えっ……そうなの?」

 驚くこはくに、フィネルは柔らかに笑う。

「それだけ、『今』のお前に心を許した、ということだろう」

「……?」

「まあいいさ。……あの頃は、人間はよくにここへ『何か』を置きにくるのが多くなっていた頃なんだ。いわゆる、捨て場所みたいに思われていてね。それはもう、私たちは飽き飽きしていたのさ」

 すぅっと、目を細めてから。

「でも、『赤ん坊』を置いて行かれたのは、お前が初めてでね。初めてだから『未知のもの』に、警戒していた」

「……なんだか、人間と似てる」

「おや、気づいたかい。――そう。生き物は、どこか似たところを持ってるんだ。『未知のもの』相手に、受け入れるか、放り投げて拒否するか、ってね」

 難しい話に、こはくは唸る。

 フィネルは苦笑して、全く違う話をしだした。

「――よくお聞き、こはく。……お前の涙は、『極上の涙』といわれるものだ。我ら『涙竜』にとっては、大いなる『力』を与え、人にとっては『未知のもの』となるだろう」

 その目は、鋭い。

「……どちらにせよ、お前がここからでて、『涙』について知られたら。……利用するな、という方が難しいような。そういう『力』を、お前は持っているんだよ」

「……フィネル?」

 最後に、言われた。

『私たちの、愛しい子。出来ることなら、ここに閉じ込めてしまいたい子よ。――どうか、泣かないでおくれ』

 この時。こはくは、何か言いしれない不安感を抱いた。



 そうして、後に。これらの話は、フィネルからの「遺言」のようなものだったと、知ることになるのだった。

 ――こはくを、まもるための。

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