7. 半竜からの警告

人間の動きに警戒していたなか、「彼」は現れた。

 それを察知したのは、フィネル。

『……ん? この気配は……同胞か?』

『同胞?』

『フィネルと同じ「涙竜」なの?』

「……気配は消してたつもりなんだけどなあ」

ひとの「音」のあと、銀髪が見えた、とぼんやり思っていたら。

『――老涙竜フィネルと、その子どもたち。よく聞いて』

 ふわりと、白い、竜と見られる者が現れた。こはくにとって、フィネルの次に初めて見た「竜」だ。


 ざわざわ、困惑する妖精らに、フィネルは笑いかける。

『大丈夫さ。この子に敵意は感じられない』

『……よく、聞いてほしい。人間がここに近づいてきているのは、わかってると思うけど』

『! まさか、あなたの仕業?』

『違う。……彼らは――そこの人の子を、ここに置き捨てた奴らだよ』

『…………なぜ、それを知っているのかい』

『申し訳ないけど、それは言えない。……とにかく聞いて』

『……なんだい?』

『――今夜、よく気をつけて、老涙竜。奴らはあなたを殺すつもりでいる』

『……なんだって?』

『そこの、人の子を取り戻すつもりで、ここへ向かっている』

 「殺す」という単語は、こはくにはいまいちピンとこない。けれど、周りのざわめきから、とんでもないことなんだろうと、察する。

『……ここから逃げて』

 それは。

『……わざわざ忠告してくれてるのに悪いけども。それは無理だね。私は、もう飛べなくなったんだ』

 そう。ここ何年のうちに、フィネルの翼は、形だけのものになってしまったのだ。

『飛べない? それって、もう……?』

『ああ、そうさ』

『……すまない』

 ふふっと、フィネルは笑ってみせた。

『そちらが謝ることじゃないさ。……ありがとうよ、半竜の子よ』

 こはくには、分かるような、そうでもないような。如何せん、この森の「外」を知らないせいか、言葉の中身を、あまり理解できない。


『……頼みができた。半竜の――』

『僕は、アオイ』

『……アオイ、か。海の色の目だね』

『うん。……頼みってその子のこと? 何を言いたいのか、予想はつくけど』

【こはくを、逃がしておくれ】

『……なんだ。「その」音も知ってるの』

『こちらのセリフさ』

 こはくや、妖精らには聞こえない「音」で、会話は成立した。

『……それしかできなくて、ごめん。奴らの狙いは、あなた「だけ」だから』

『ああ、ありがとうよ。……後を、頼むよ、アオイ』

『……?』

 

 こはくたちが、不思議そうにしていたら。

 さぁっと、風が強くなって、とっさに目をつぶり。次に目を開ける、と――。

『……いない?』


 そうして、こはくは「何か」を知らないまま、夜になるのだが――。

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