5. フィネルの失態

それは、この森にこはくが置き捨てられてから、だいたい十二年がたつ、ある日のこと。



『少し、困ったことになったねえ』

『だいぶ、困ってます』

『……フィネル、失敗したんじゃない?』

 のんびりとしたフィネルに、キキと、流石にカテすら、困り顔だ。

『……どうしたの?』

 こはくは、今ではすっかり、フィネルたちの使う言葉を使えるようになっていた。

『うーん……こはくには、教えたくないねえ』

『……大事な話なの?』

 少しむくれるこはくに、渋々と、言いづらいことを話すことにした。

『こはくを拾った頃に、私がこの森に「居る」のを主張しといたんだが……』

『あ……。わたしを食べたことにしたんだっけ?』

『次に同じことをしたら、人の王を喰らう、とも言ったんだ』

『……フィネル、絶対やらなそう』

『もちろんさ。……しかし、どうしようかねえ』

『実はその件で、ゴタゴタしているようなんだ』

 なんと、人の王を喰らってほしいらしく、この何日で何人か、この森へ向かって来ているのだとか。

 いわゆる、陰謀というやつだ。

『今はまだ、遠くだけど』

『たどり着いたら、どうしよう……?』

 「人」に恐怖する妖精らは、なんとか退きたいのだが。どうすれば退けられるものやら、と。

 

 ふと、こはくは考えた。

『……私が、行こうか?』

『こはく?』

『私が、食べられてないって証明すれば、フィネルがそんなことしないって、みんな分かるでしょう?』

『……それは違うよ、こはく』

 フィネルはそっと、翼でこはくを包み込んだ。妖精たちも、その案には賛同しかねる。

『人間ってのは、ずる賢い生き物なんだ。逆におまえが利用されてしまうかもしれないよ』

『……わたしも、人間なんでしょう?』

『だけど、私の子だ』

 すると、こはくはしょんぼりと項垂れる。

『わたしじゃ、役に立てないの……?』

『それも違うよ』

 そうそう、と、カテたちもこはくを囲む。

『おまえは私の……私達の、愛しい子だ。いきさつはどうあれ、それは変わらない。……大事だからこそ、危ないことをさせたくないんだよ』

 それは、まだこはくには難しい感情だった。しかし、納得はしたらしい。

『……今は、とりあえず。警戒していたほうがいいね、みなのもの』





 こはくは、そして妖精達でも、まだちゃんとは知らなかった。

 ――フィネルの寿命の、タイムリミットを。

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