4. ひとの子の子育て

ひとの子――こはく、と名づけた赤子を育てるにあたり、フィネルと数人の妖精は、西にある人の治める国へ飛んだ。こはくの子育てに必要なものを集めるのと、人への牽制だ。

「――人の王よ。我は東にある森に住まう竜なり。つい先日、人の子が捨てられ、我はそれを喰らったぞ。その不味いことまずいこと。……今度、また人を置いていくようなら、――人の王を喰らいにこようぞ」

 本来、フィネルはほかの竜よりはダントツに温厚な性格だ。例え「今度」があっても、やはり喰らうことはしないだろう。

 だが、こう言うことで、人への牽制となり、森に人が来ることもなくなるだろう。

 その間に、妖精らは子育てに必要な道具、そして「知識」を覚える。

 末に、高らかに翼を広げ――。



 まずこはくが覚えたのは、フィネルたちの使う言葉だった。

『フ……ヒ……』

『フィネル、だよ。こはく』

『……フィ、ネ……ル?』

『……! そうだよ、こはく。私が、おまえの親だ』

『あたしはカテだよ! 呼んでみて』

『カ……フィ?』

『あら、混ざってしまったようで』

 最初こそ警戒していたものの、カテやキキをはじめとし、妖精らもこはくを可愛がった。

 首も据わるなど、体の成長とともに、少しずつ、周りの名前も覚えられるようになっていった。そして最終的には、人の言葉も覚えていった。

 最も、それを使う機会は、そうそうなかったが。

 ……それでも、覚える必要はあった。



 フィネルも、ほかの妖精らも、薄々気づいていたのだ。

 ――老涙竜の寿命が、もうあまり残されていない、ということに。

 

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