冷戦より冷麺を
「入ってくるな」
何なんだ。いつまで根に持っているんだ?
食い物の恨みは恐ろしいとは言え、そろそろ許してくれてもいいんでないか?
俺は茶の間で、一人でビールを飲む。茹でたソーセージに粗挽きマスタードを付けてかじりながら。
俺が慶太と初めて出会ったのはすすきののゲイバーだった。俺はその日、戦争法案反対デモに参加し、そのついでに店に立ち寄ったのだが、慶太もデモに参加していたというのだ。
俺たちは意気投合し、一緒に暮らすようになった。
そんな慶太が怒ったのは、俺が勝手にあいつのおやつを食っちまったからだ。
慶太は殴り合いの大喧嘩をするような奴ではない。あいつはそんなの徒労だと思っているから、こうして俺を無視しているのだ。
さて、寝るか。俺は自分の寝室に入る。
翌朝、慶太はすでに起きていた。テーブルには食パンがある。奴は俺を無視し続け、テレビを観ている。俺は黙って、オーブントースターでパンを焼き、マーガリンを付けて食う。
「なぁ、真司」
「んがぁ〜!?」
俺は慶太が口をきいたのに驚いた。
「仕事が終わったらさ、あそこの韓国料理屋に行かないか?」
「ん…あの店か?」
風向きが変わったようだ。
「うん、行こう」
慶太は振り向かないが、話しかける。
「俺も大人げなかったよ」
それぞれ出勤し、仕事を終え、待ち合わせ場所に合流する。
「冷麺二人前」
俺たちは冷麺をすする。さっぱりした味が、これから夏らしくなっていく時期にふさわしい。
「そういえば、ネットで面白いフレーズを見たんだけどさ」
「何だ?」
「『冷戦より冷麺を』。うまい事言うね」
「確かにな」
もうすぐビアガーデンの季節だ。今年も俺たちは大通公園のビアガーデンで飲み食いするのだ。
武器ではなく花を、冷戦より冷麺を。
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