第37話 自分に合っている武器が好みとは限らない現実

「うお……やっぱ剣って重いな~」


 俺は手近に雑に立てかけてあった一本のロングソードを持ってみて、思っていたより遥かにある重量に驚いてしまう。

 今までも剣を振り回す冒険者は大勢見てきたけど、こんな重たい物を平然と振り回していたと思うと感心するばかりだ。

 特にバルガス爺さんなんて身の丈もある巨大な剣を振り回している……化け物だな。


「触る時は気をつけてよ。ウッカリ刃なんかに触れたらスッパリ行くからね」

「!? りょ、了解で~す」


 サラリとそう言われると途端に怖くなってくる。

 俺は慎重にロングソードを鞘に納めて元の場所に立てかけた。


「しかし、やっぱ武器屋ってなるとテンションが上がるもんがありますね~」


 俺は様々な武器が陳列されている店内を見回して素直な気持ちを述べる。

 現在俺たちはトワイライトでも一番大きい武器の専門店『トマホーク』へと訪れていた。

 基本戦術が徒手空拳、バイクに跨っていても棍棒を手にするリンレイさんには余り必要ない店なのだが、俺の戦力不足に対して“多少でもマシ”にしようと連れて来てくれたのだった。


「おう烈風の、珍しいなお前さんがここに来るのは」


 そう言って店の奥から現れたのは髭面でずんぐりした体格のオッサン、見た目の期待を裏切らないドワーフだった。


「オッス、ガドフ。今日は私じゃなくて彼に持てるような得物を見繕って欲しくて来たんだけれど……」

「よ、よろしくおい願いしま~す」

「お? アンタは運送屋の……」


 おや? この親父さん俺の事を知っているのか。

 俺の表情で言いたい事が分かったのか、ガドフさんは豪快に笑った。


「ガハハ! この町で『烈風の鈴音』と一緒にいる男と言ったら有名だからな。黒龍を倒した『炎の椋鳥』の連中並みによ!!」


 どうやら気さくなオッサンのようで、俺は自分の現状をそのまま伝える事にした。

 武器を前にちょ~っとテンション上がっているのもあるけど、冷静になると武器何て手にした事はほぼ無い。

 そんな自分に合った武器など、自分でまともに選べる気がしない。

 弱っちい俺でも扱える武器何てあるのもなのだろうか?


「お宅らには町を救ってもらったし、何度か宅配でも世話になってるからな……なるほど」


 そう言うとガドフさんは膝を打った。


「だったら実際に試した見た方が早え。ひとまずこっちに来な」

「あ、はい」


 俺はリンレイさんを伴い、武器屋の奥の方に通された。

 そして裏口を出た所にあったのは訓練場のような広場。

 三つほどの的、木人のような人型に無数の傷が付けられていて、それが客が武器を試す用である事は想像が付く。

 そうこうしているとガドフさんが巨大な箱をガチャガチャ言わせながら持って来た。

 その中には大小さまざまな武器が入っていて……やっぱり見るだけでもテンションが上がってくるね!


「う~~む、初心者っつーなら剣はダメだな。使いやすさで言えばやっぱり槍から……」

「出来れば馬上からの攻撃を想定した物が良いんだけど……」


 俺に試させる武器をブツブツ言いながら選んでいたガドフさんだったが、リンレイさんの要望に眉を顰めた。


「馬上!? おいおい初心者がいきなり騎馬戦は無茶だぜ?」


 馬上、つまりリンレイさんはバイクに乗った状態での戦いを想定しているのだろう。

 普通の騎馬も乗れないのに、騎馬戦を想定するような得物って……あんな暴れ馬(バイク)つかまっているだけでも必死なのに……。

 しかし俺の不安を他所にガドフさんは持って来た武器の中から、まるで物干し竿じゃないかと思うくらい長い槍を俺に渡してきた。


「ま、ものは試し……店長さん、とりあえずコイツを振ってみな。騎馬用だから相当に長いけどよ」


 長さは2メートルはあるだろうか?

 俺は促されるままに柄が長い槍をてして……その重さに『材木か!!』と突っ込みを入れたくなった。

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 小一時間後、俺は大量に散乱する槍、斧、弓など様々な武器の中心で膝から崩れ落ちていた。

 ど、どれ一つとしてまともに扱える気がしねぇ……。

 槍は長さに振り回されるし、斧はそもそも重量で持ち上げるのが精一杯、弓は当たらない、ではなくそもそも引き絞れなかった……実用の弓って弦が強い……。


「才能云々言いたかねーがよ、一部の天才以外は地道に訓練するしかねーからな……。いきなり馬上なんて言わずに、まず手元で振り回せる軽めの槍から始めた方が良いと思うがねぇ。足腰は悪くないんだからな」

「う~ん……やっぱりそうなるのか……」


 動く足場、踏ん張りが効きにくい馬上での長柄の武器はどうしても技術がいるもの。

 この辺は本当に修行あるのみ何だろうけど……俺は今はリンレイさんの肩にちょこんと座っているカタナちゃんを見る。

 ……今現在の俺は車霊も含めてリンレイさんにおんぶにだっこ状態だ。

 これで自分の車霊でもあれば違うのだけれど……。


「やっぱり地道に徐々に得物を伸ばして行くしかないのか……先は長そう……」


 しかし俺がそう思っていると、ガドフさんが突然思い出したとばかりに手を打った。


「あ……そう言えば、この前売りに来た客が妙な武器を持って来てたな。軽くてそこそこリーチの長い珍しい武器……」

「そんな武器あるの?」


 怪訝そうなリンレイさんを他所にガドフさんは再び武器を入れた箱をゴソゴソと探りはじめ…………「あった!」の声と同時に細長い鎖のような物をジャラジャラと引っ張り出した。

 それは確かに珍しいし、軽くてリーチが長い……非常に扱いが難しそうな武器だった。


「えっと……もしかしなくてもコレ……鎖鎌……だよな?」

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異世界転移。日本車でパーティーに裏切られた女武闘家を助けてみたら…… 語部マサユキ @katarigatari

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