第27話 お姉ちゃんは心配性

「ほ、本当ですか店長さん! 私にそんな力が!?」


 事情を把握した途端、ミフィさんは目を輝かせて食い付いてきた。

 どうやら彼女も『車霊』の存在は知っていたけど、まさか自分にそんな可能性があるとは考えてもいなかったようだ。


「氷雪の群狼ですら突破できるスピードとパワー……話には聞いていましたけど」

「まだ何が貴女に備わっているかは分かりませんけどね。コレばかりは発現してみないことには」


 この辺も俺の能力の厄介なところだ。

 宿主の発現前にどんな車なのか判断が出来ない、いわゆるガチャやくじ引きみたいな感じなのだ。

 前もって分かれば、事前対応も違ってくるんだけど……。


「て、店長さん! ぜひお願いします。私に……」

「ダメよ」


 しかし目を輝かせて俺の契約を求めるミフィさんの言葉は、温度を感じないソフィさんの言葉に断ち切られた。


「ね、姉さん……」

「え、でもソフィさん」

「店長、悪いけどミフィに『車霊』の能力は必要ないわ」


 正直俺はソフィさんからこんな冷酷とも思える声を聞くとは思っても見なかった。立った一言で身が竦んでしまう。

 それ程までに今の彼女は普段からは想像できないくらいに怖い。


「でも姉さん! そんな力さえあれば私だって……」

「前線に立てる……とでも言うつもり?」

「!?」


 ソフィさんの言葉にミフィさんは口をつぐんだ。


「自惚れるんじゃないわよ。喩えスピードやパワーが手に入っても、魔法使いとして初級の攻撃魔法しか使えない貴女が前線に出て、何が出来ると言うの?」

「そ、それは……」

「私たち『炎の椋鳥』が相手取るのはA級相当の魔獣ばかり……足手まといのお守りをする余裕なんて無い」


 リーダーの言葉に他のメンバーたちは『厳しすぎ』『言い過ぎ』とばかりに表情を歪めるが、誰も口を挟もうとしない。

 多分それは真実だから。死と隣り合わせで戦って来た彼女たちだからこそ力のない者は付いてくる事が出来無い。

 出来なかった時訪れるのは平等に残酷な死、なのだから。


「パーティーの財政、拠点の管理担当。それが不満だと言うのならいつでも『炎の椋鳥』を抜けてもらっても構わないわ」


 そう言い残してソフィさんは仲間たちを引き連れて店を出て行った。

 他の仲間たちは各々俺に手を合わせて気を使いつつ、申し訳無さそうにだが……。

 そして取り残された眼鏡っ娘の妹さんは……今にも泣きそうな顔で俯いていた。


「すみませんでした店長さん……見苦しい所を」

「あ、いやその……こちらこそすみませんでした。どうやら“今のも”余計な一言だったようで……」


 と言うより多分さっきよりも格段にヤバイ地雷だったようだ。

『車霊』を持つ事は単純に戦力アップに繋がり、戦闘職で無い者でも移動手段や運搬方法などにも使え、更に場所も取らない。

 個人的には“あって困る物じゃない”と、本当に勝手に思い込んでいたのだが……。

 俺は何とか落ち込む妹さんを宥める事は出来ないか試行錯誤をしていると、当の本人がポツポツと語り始めた。 


「私たち姉妹は、ある有名な冒険者の両親の間に生まれました。冒険者であれば誰もが名を知る相当な実力者でした」


“でした”それだけで残念な事に次に続く言葉が予想できてしまう。


「しかし当然夕方には帰ってくると思っていた両親は……あの日を境に二度と帰って来ませんでした……」


 凶悪魔獣の討伐依頼、それで命を落とす者は珍しくも無いらしいけど……それが身内、ましてや両親だったとすればそのショックはどれ程のものだったのか、想像も出来ない。


「でも、たった二人になった私たちでしたが、幼き日から魔力に恵まれていた姉は早くから母に魔法を教えられていて、その実力で冒険者として生計を立ててくれたんです。何も出来ない私が今まで生きていられたのは姉さんのおかげなんです」


 姉の事を語る彼女に虚偽の光りは一切無い。

 純粋に姉を慕い、恩を感じて憧れる一人の妹がそこにいた。


「姉さんは私にとって最大の目標であり、そして最高の魔導師……私もいつかは姉のように……」


 しかし、そこまで言ったところでミフィさんの表情が再び沈んで行く。


「でも……人一倍膨大な魔力を持ち、最強の炎を操る姉さんに対して、私にはどんな属性魔法であっても初級の攻撃魔法しか使役出来ませんでした……。姉の言う通り、私は魔導師として役立たずですから」

「いや……でも同じパーティーを組んでいるなら、役立たずって事は無いんじゃ……」


 俺が何とかフォローしようとすると、ミフィさんは悲しげに首を振る。


「姉さんは当初『炎の椋鳥』に私が加盟する事に反対でした。他の皆さんの口ぞえで何とか仲間に入れてもらいましたが、パーティーの財政、依頼の管理をするのみで、未だに戦闘を含む依頼の際には連れて行ってもらえません。当然ですよね……彼女たちが相手にするのは常に上級の魔獣……初級魔法に出番があるワケも無い。いつしか冒険者の間では“炎の椋鳥には役に立たない雛がいる”と揶揄されるようになって…………私は最強の魔導師である彼女たちの恥にしかなっていません」


 ミフィさんは自嘲気味に笑う……それは諦観を含めた、何とも痛ましい笑顔。

 同時にさっき俺の発言のどこに問題があったのか、ようやく理解出来た。

 普段そんな風に馬鹿にされているのなら、『4人パーティーと思っていた』なんて言われれば、そりゃあムカ付くだろうよ……。

 知らなかったで済ませて良い事じゃない。


「そうとも知らずに……先程は大変申し訳ありませんでした。デリカシーの無い事を……」

「そんな……店長さんが謝る事なんてありませんよ」


 俺が謝罪の為に頭を下げるとミフィさんは困ったようにやんわりと手で制した。


「私が……『炎の椋鳥』の真の仲間足り得て無いのは……本当の事ですから……」


                *


 そろそろ日も落ちてきた夕刻、本日の晩飯当番である俺は商店街を歩いていた。

 こっちの世界では食については結構発展しているようで、食材は勿論のこと、塩や香辛料なんかも一般に出回っている。

 おかげで基本が西洋料理と似た料理が多いけど中々美味しく、食生活のギャップで苦しむ事が少ないのが救いだ。

 俺自身、コッテリした肉料理が嫌いじゃないってのもあるけど……。


「今日はキャベツとひき肉が安かったからな……ロールキャベツでも作るか」


 閉店間際だった時間帯も手伝って、結構値引きしてもらった食材で本日の献立を考える。

 そして商業都市トワイライトの名物でもある大広場の噴水前を通りがかった俺は、見知った人物が勢い良く吹き上がる噴水を遠い目で眺める人物に気が付いた。


「ソフィさん?」


 それは昼間に妹にキツイ一言を言い残して店から出て行ったセクシー魔法使いのソフィさんである。

 しかし昼間とは打って変わって、噴水を眺めたままボーっとしてベンチに腰掛けている彼女からは覇気と言うものを全く感じない。

 どう見ても落ち込んでいるようにしか見えねぇな。

 美女であれば物憂げな振る舞いすら絵になる……なんてのたまう輩もいるが、ガチで落ち込んだその様は絵になるどころか、絵に出来ない程に見ていられない。

 彼女から湧き上がる負のオーラに当てられて、近所の老夫婦が避けて通るくらいだ。

 何と言うか……そんなところは妹にソックリだな……。


「……ソフィさん、どうしたんですか?」


 ……本音では俺も避けて通りたい気分だが、それでもこんな状態の知り合いを無視するのも……ね。


「あ……ハヤト店長」


 そう思い声を掛けると、彼女はゆっくりとこっちに顔を向けた。

 何と言うか……幽霊の如く生気を感じない。昨晩あれ程飲んでも翌日元気ハツラツに入店して来た人物と同一とは思えないな。


「今日は……悪かったね。見苦しい所を……」

「いえ、そんな事は……」


 俺は何となく彼女が座り込むベンチから2人分くらい間を開けて腰を下ろした。

 彼女が落ち込む理由、それが妹のミフィさんである事は明らか……ミフィさん自身が語っていた“冒険者として実力が無い”事に起因しているだろう。


『姉の言う通り、私は魔導師として役立たずですから』 


 ミフィさんは自分の力の無さを嘆き、納得出来なくとも理解はしている様子だった。

 生死の関わる冒険者稼業では実力が全て……しかしどれ程正しくはあっても、姉として妹に厳しい事を言うのは精神的にキツイんだろうな。 


「あの後ミフィさんから聞きましたよ。元々ソフィさんは自分が冒険者として『炎の椋鳥』に加盟する事には反対だったって……」

「そう……聞いたんだ」

「初級以上の攻撃魔法を扱う事の出来ない自分は魔導師として未熟、そんな自分を姉は決して魔導師としては認めない……だから」

「そんな事、あるわけ無いだろ!!」


 しかし俺がそこまで言った瞬間、ソフィさんがクワッと目を見開いて立ち上がった。

 さっきまでの負のオーラが一転怒りのオーラへと変貌する。


「な、なんだなんだ!? アチチチチ!?」

「あの娘は魔力が弱く攻撃に魔法を転化するのが苦手なだけで、魔導師としては稀有な六属性全ての魔法を使役出来る極めて優秀な魔導師なんだぞ! 私のような『火』のみの単一属性のみの魔力が強いだけで戦闘にしか役に立たない魔導師など比べ物にならん!!」


 更に全身からブワリと、彼女の魔力も反応しているのかリアルに背後から炎が立ち上っている!?

 ギャアアアア!! 水だった噴水が!? 噴水がボコボコ沸騰し始めている!? どれだけの魔力がだだ漏れてんだよ!?


「うおおおわあああ!? 落ち着いて下さい!! 言ったのは俺じゃなくてミフィさん本人であって……」

「…………あ」


 瞬間、冷静になったのか怒りの炎が一瞬で消え去った。

 彼女の周辺は漕げ跡が残っているし、噴水からは物凄い湯気が立ち上っていて、周辺から恐る恐る遠巻きに見ている市民の皆さんが……。

 一人衛兵のお兄さんと目があった……あ~大丈夫ですよ~~~お騒がせしました。


「……ゴメン、つい」

「いえ、俺もデリカシーが無かったようで……」


 ソフィさんは自嘲気味に額に手を当てて再びベンチに座った。石のベンチだから良かったけど、木製だったら燃え尽きてただろうな。

 しかし、今のソフィさんの言葉……ミフィさんの認識と随分ズレがある気がする。

 元々ミフィさんだってソフィさんを尊敬していたし、今だって思ったより姉妹の仲が悪いようにも思えないけど。

 そんな事を思っていると、ソフィさんが静かに語り始めた。


「私たち姉妹は冒険者の家の娘でね……ある日両親が依頼中に他界してからは二人だけで生きて来たんだ」

「その辺の事はミフィさんにも聞きました。自分も大変な時なのに、姉は冒険者として必死に稼いでくれて、おかげで今自分は生きていられるのだって……」

「そ、そう……あの娘がそんな事を……」


 俺の言葉にソフィさんが少しだけ表情を和らげた。


「…………とっくに嫌われていると思っていたけど」


 彼女たちの仲がこじれ始めたのはミフィさんが『炎の椋鳥』に加盟してかららしい。

 どんな依頼であっても『戦闘』の生じる依頼だと自分が外される……その事についてソフィさんは頑なで、姉に認められない事でミフィさんも思い悩んでいた。


「店長……魔法陣技師って聞いた事ある?」


 ソフィさんが唐突にそんな事を言い出して俺は首を傾げた。


「魔法陣……技師? 語感をそのまま考えれば魔法陣を作れる人って感じですが」

「うん、まあそんな認識で合ってるよ」


 魔法陣とは、描かれた文字や図形で魔術的な意味を持たせて、大気や大地から魔力を取り込み、防護の結界を発動したり、あるいは増幅して魔法を発動する装置。

 最近では試しの洞窟にあったのも『魔物を発生させる』という禁呪を用いた魔法陣だったらしいけど……そのくらいのイメージしか俺にはないな。


「ある程度の魔法陣は魔導師として基礎中の基礎、私も簡易的な魔法陣なら多少は描けるわ」


 そう言って彼女は右手のグローブに描かれた魔法陣を見せてくれた。

 五方星に何やらこの世界の文言が刻まれたそれは、彼女が得意とする『火』の魔法をある程度増幅してくれる物なのだと言う。


「でもね、より強力な魔法陣を作るには絶対に必要な物が3つあるの」

 

 そう言うとソフィさんは自分が纏っているマントの肩の辺りを指差した。


「店長、軽くでいいからこの辺を叩いてみて」

「え? いや、それは……」


 突然そんな事を言われても……。

 喩え冒険者で、魔導師だとしても確実に彼女は素手でも俺より強いはずだけど……それでも女性に手を上げる事には抵抗が……。


「大丈夫大丈夫、絶対君がゲス男の称号を受ける事は無いからさ」


 俺の躊躇を看破するように言うソフィさんにそう言われて……俺は渋々拳を軽く握って、本当に軽く彼女の肩の辺りを叩いてみた。

 カキン!! しかし俺の拳は彼女の体に当たる事無く、光り輝く何かに阻まれて乾いた音を鳴らした。


「うお!? 何だ今の、魔法障壁!?」


 真っ先に浮かんだのは魔導師が良く使うって言う『魔法障壁』って魔法だけど、確か使う場合には呪文の詠唱とかあったと思ったけど!?

 俺が疑問に思っていると、ソフィさんは若干得意気に黒いマントを脱いで、裏地を広げて見せてくれた。


「物理防御のみじゃないわ。魔法による攻撃、更に毒や麻痺、石化や即死系のトラップにまで効果を発揮する高性能……」

「こ、これは!?」


 俺は思わず息を飲んだ。

 複雑、精密、そんな言葉すら生温いほど精緻に描かれた魔法陣、それがマントの裏地一面に描かれていた。

 それは数学的幾何学とも魔術的文学などとも表現できるだろうけど、俺の口から出たのは最も単純な感想だった。


「芸術だ…………」


 そうとしか言えなかった俺に、ソフィさんは満足気に頷いた。


「魔法陣を描けるのは深い『魔導の知識』、適応出来る『魔法の属性』、そして魔力の流れを把握して感覚的に描く事の出来る独創とも言える『芸術的感覚』……それらが必要不可欠になるの」


 その言葉でこの魔法陣を描いたのが何者なのかハッキリする。

 『魔導の知識』と『芸術的感覚』については分からないけど、魔法陣は適応する属性の物しか描けないとソフィさんは言っていた。

 つまり魔力の高低は関係なく“六つの属性魔力”を持つ者は全ての魔法陣に精通する事が出来るという事で……。


「私たち『炎の椋鳥』は全員、この全属性防護の魔法陣の恩恵を受けているわ。これが無かったら、私たちは一人として生き残っていないでしょうね」

「ミフィさんが、この魔法陣を!? あんな自信無さ気な顔して、とんでもない魔導師なんじゃないか!!」

「……だから言っただろ? あの娘は戦いにしか向かない私なんかよりよっぽど優秀な魔導師なのさ。それこそ魔法陣技師としては稀代の天才と言えるくらいにね。それこそ宮廷魔術師として王家に仕える事だって夢じゃ無いし、勧誘された事だって一度や二度じゃ無いんだ」


 宮廷魔術師……あんまりこの世界の基準は分からないけど、王家のお抱えになれる程の実力を彼女は持っているらしい。

 しかしここまで妹自慢をしていた姉ソフィさんは、そこまで言い切ると溜息を吐いた。


「……なのに、あの娘は……冒険者になると言って聞かない。それどころか危険な戦闘の依頼が多い『炎の椋鳥』に入って……どうしても前線に出たいと言い張るし……」

「はあ……」

「あの娘の魔法は魔法陣の作成として生きる稀有で希少なモノなのに……魔力の高低差が生き死にに関わる冒険者など続けて……万が一があったら……」


 絶対に考えたくない事を打つ消すように歯噛みして頭をかき乱すソフィさんに、俺は納得せざるを得なかった。

 ようするにお姉ちゃんは妹が心配で仕方が無いのだ。

 その上、ソフィさんは妹の実力と才能を正しく理解しているからこそ危険な前線には出したくない。

 本当なら冒険者稼業以外に就いて欲しいけど妹が納得しないから、ならばせめてパーティーの後衛として冒険時には待機要員として置いていた。

 だけど本日、妹にとっては幸運にも、姉にとっては不運にも前線で活躍できる可能性である『車霊』の兆候が見つかった。

 姉としても戦闘要員としても、安全圏で待機していて欲しいソフィさんとしては容認出来ず取り乱してしまった……それが全容らしい。


「……難しい問題ですね」


 姉として心配する気持ちも、こうして聞いてしまうと理解出来る。

 しかし……同時にミフィさんが抱いている気持ちだって理解出来るのだ。

 だって彼女は……。


 ガンガンガンガンガンガンガン…………


 しかし俺が言葉を発しようとしたその時、商業都市の各所に設置された鐘楼がけたたましい音を鳴らし始めた。

 時刻を知らせる時とは全く違う連続の音……それは!!


「緊急時の警戒音!? 一体何があったの!?」


 突然の警報にソフィさんも落ち込んだ表情を消して、プロとしての顔立ちに戻り立ち上がった。

 そう連続の鐘の音は警戒音。

『何らかの緊急性の高い危険が迫っているから、一般市民は速やかに建物の中に退避せよ』である。

 この世界には魔物という存在があるせいかこの手の警報が極マレに発生するらしく、周囲にいる市民たちも慌てた様子だが近くの建物に避難して行くのが見える。

 対照的に都市を守る側である兵士たちは警戒しつつ市民を誘導したり、全方面を警戒して危険へと備える。

 そしてそれは冒険者であるソフィさんも同様の役目を担う事になる。


「野党や魔物の襲来かしら? それとも……!?」


 想定しうる危険を自問自答していたソフィさんだったが、不意に上空を見た瞬間に頬をひくつかせて言葉を失った。

 真似して俺も上空へと視線を向けて……見なきゃ良かったと後悔する。


「……あれか」

「……マジっすか?」


 上空にいる為に遠近感が分からないが……近くを飛んでいて逃げ出したオオクチバシ(全長1メートル)が豆粒に感じるのだから、それ相応の大きさだろう。

 となれば、単純にオオクチバシが50羽は必要な大きさで……。

 全身黒い鱗に覆われ、蝙蝠のような巨大な羽を持ち、トカゲのような顔だが二本の角と鋭い無数の牙を持つ圧倒的な存在。

 ファンタジー世界のド定番、他人事であったら一度は見てみたいと思ったけど、その辺の感動は全く感じられない……。

 湧き上がって来るのはただただ原始的な、本能的な恐怖のみ。


『ギャオオオオオオオオオ!!』

 

 それの叫び声一つで、あれ程賑やかで騒がしいはずの商業都市トワイライトから、一瞬の間喧騒が完全に消え去り静寂が訪れた。


「黒龍……」


 ソフィさんの乾いた呟きだけが俺の耳に届いた。

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