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「本当だよ。それに告白したのは奥さんが初めてだしね」

「ほぉ、そうなんですね」

「そうなんだよ。それまではされたことはあっても自分からしたことはなかったし。だから振られた時はちょっと驚いたな」

「え、振られたんですか」

 常盤さんが!?

「振られたよ、木っ端みじんにね」

「それは信じられませんね」

「本当だって。嘘じゃないよ」

 まぁ常盤さんが嘘を吐くなんて思ってないけど。そんな漫画のイケメン枠みたいな人、本当にいるんだな。

「彼女と出会ったのは立ち上げた会社が軌道に乗り始めた頃でね、彼女は短大を卒業したてだった。それまでは付き合った相手に恋愛感情を持ったこともあったんだけど、彼女は特別だった。一目惚れってやつかな」

 奥さんに一目惚れなんて、ロマンチックすぎるだろ。

「よく言うでしょ? 運命の相手に出会ったら、目が合った瞬間に“この人と結婚する”って分かるって。信じていなかったけど、本当にそうだったんだよね」

「それじゃあ、奥さんも同じように思われて、結ばれたんですか?」

「いやいや全然」

「え、全然っ?」

 片方が運命の相手だと感じたのなら、もう片方も感じていなければ変じゃいか。

「変だよね、彼女に訊いても全然感じなかったって言うんだよ。多分鈍かったんだよね」

「鈍い?」

「鈍感って言うの? 彼女、私がどれだけアピールしても気づかないんだよね。食事に誘っても断られるし、一緒に居たくてヘッドハンティングしたら普通に断られるし」

 どんなアピールの仕方だよ。普通に変だわ。

「どんなにアピールしても、あんまりにも反応がないからちょっと怒っちゃってね。こんなに好きなのにどうして気づかないのって言ったら、そうなんですか、全然気づきませんでした。早く言って下さればよかったのに、って言ったんだよ」

「え、言ったら結婚してくれたんですか」

「それとこれとは別だよ。それからも長かったんだよね。彼女凄く自由な子だったから」

 なるほど、だからこそ娘の志麻が生まれたわけか。

「でもまぁ、今はこうやって一緒に過ごすことが出来て本当に良かったよ。運命を感じたら自分から動いて行かないとね」

「えぇ、そうですね」

「ところで、花菱君は何か運命を感じていないの?」

「この仕事には運命を感じていますけれどね。ほら、こうやって常盤さんにも出会えたことですし」

 なんて、常盤さんよろしくウインクを飛ばすと突然右手がふんわりと包まれた。

「可愛いね、花菱君。私も運命を感じてるよ」

 はいはい、わかったからその手を今すぐどけてくれ。

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