卑弥呼

 中国の歴史書の『魏志ぎし倭人伝わじんでん』には、邪馬台国やまたいこくの女王の名は卑弥呼ひみこ、って書いてありますよね。これ、考えてみたらひどい名前じゃありません? 〝いやしい〟って字がついてるんですよ。女王様なのに。

 でも先生。邪馬台国があった三世紀くらいの日本には、漢字はまだ来てなかったんでしょう? だから、これは日本人が当てた漢字じゃないってことですよね。邪馬台国からの使節が魏に行ったときに、日本人が〝ヒミコ〟って言うのを聞いて、中国人が勝手に〝卑弥呼〟って漢字変換したんですよ、きっと。

 私が思うに、卑弥呼の名前で重要なのは漢字じゃなくて、ヒミコって音なんです。多分、ヒミコのヒはお日さまのヒで、ミコは神社の巫女さんのミコ。要するに、太陽神に仕える巫女、っていう意味の名前なんじゃないかな。ピッタリだと思うんですよねぇ。

 邪馬台国だって、ヤマタイって音がヤマトにちょっと似てますし。いかにも、大和やまと朝廷と何か関係がありそう。

 それは置いといても、卑弥呼の漢字表記には意味なんてないってのは確かですよ。ね?

「お前が言いたいことは、よーくわかった」

 ずっと黙って聞いていた先生が、口を開いた。

「しかしな。日本史のテストでは、漢字が正しく書けとらんと点はやれんな」

 そう言うと、解答欄に〝卑弥子〟と書かれた私の答案用紙を、無情にも突き返した。

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