頃は四月。気候はうららか、桜も満開。いやぁ、春だなあって感じだ。

 昨日うちの高校に入学したばかりの一年生たちが、真新しい制服を着込んで、次々に校門をくぐってくる。校庭の至るところで、新入生を勧誘しようとする部活の連中に呼び止められて、どっさりとチラシやパンフレットを渡されている。懐かしいなあ、俺も去年はああだった、とその様子を眺めていると、

(何だあれー)

(変なの)

(関わりあわないほうがいいって)

 キリで刺すかのような冷たい視線を向けられて、俺はうっとたじろいだ。

 違うんだ、これには事情があるんだ! お願いだから聞いてくれ! と心の中で叫んでも、新入生たちは俺を大きく迂回うかいするように歩いていってしまうので、誰にもワケを話すことが出来ない。

 ……そりゃまあ、俺にだって彼らの気持ちはわかる。

 校庭のど真ん中に、グレーのトーテムポールみたいなコスプレしたヤツが突っ立っていたら、俺だって避けて通りたい。

 だがこれだって、立派な新入生勧誘なんだ! 何たって俺は〝考古学同好会〟なんだから!

 今俺が着ている着ぐるみだってトーテムポールではなく、石人せきじんという、考古学的には立派な代物なのだ。大昔に我が福岡県のここらへんを治めていた、筑紫君つくしのきみ磐井いわいっつー豪族の墓と言われる古墳から出てきた、要するに石製のハニワで、石馬せきばと一緒に並んでいる……なんて、説明したってわかってもらえるハズもない。俺だって、会長に教えられるまで知らんかった。

 〝着ぐるみを着て新入生を勧誘する〟という会長の意志をくつがえせないのはわかっていたので、せめてもーちょっと有名なヤツ(シェーのポーズをしたハニワとか)にしましょうよ、と訴えてみたのだが、今年の流行は石人だ、と聞き入れてもらえなかった。

 というわけで、春の温かな陽射しを浴びつつ、新入生たちの冷たい視線にさらされている、という現在の状況に至る。段ボールで作った着ぐるみの中、内心泣きそうになっていると、

横井よこいくん、疲れた?」

 急にたずねられ、俺は慌てて返事をした。

「いんや、まだまだ大丈夫っす!」

「そう? 今朝はあと少しだから、がんばろーね」

 すぐ隣りに立っていた会長が、やさしい声をかけてくれる。石馬のコスプレをしているせいで、顔は見えないのだが……。

「似合ってるわよ、横井くん」

「ホントっすか!!」

 その言葉に、俺は天にも昇る心地になる。何せ俺は去年、ゴーグルをかけた土偶のコスプレをしていた陽子ようこ会長に一目ボレして、会長以外一人も会員のいなかったこの会に入ったのだから。

 朝のひとときを陽子会長と二人で過ごせるのならば、新入生どもの冷たい視線なぞ何のその。いくらでもかかってこい!

「ガンバりましょうね、会長!」

 頃は四月。気候はうららか、桜も満開。そして、陽子会長の隣り。

 いやぁー、春だなあ。

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