メルヘン喫茶

「……メルヘン喫茶? 何だぁ、そりゃ」

 オレは訊き返した。「メイド喫茶の親戚か何かか?」

「学園祭の模擬店だよ」

 嫌々ながら、という感じで、ダイスケは言った。

「今度の土日、ウチの姉貴の高校で、学園祭があるんだ」

 ダイスケにはイッコ上の姉貴がいるのだが、とにかく昔から頭が上がらないらしい。これまでにもさんざん、姉貴に関するグチを聞かされている。

 で。

 今回は、その姉貴のクラスが学園祭で『メルヘン喫茶』という喫茶店をやるから、客を連れてこい、と命令されたのだそうだ。

「姉貴、店で出すメニューのレシピを持って帰ってきて、家で練習してるんだぜ。料理オンチのクセに。毎晩毎晩、失敗作を食わされるオレの身にもなってくれよ」

「そりゃ大変だな」

 他人事なので、気楽にオレは言う。

「しかし、メルヘン喫茶っつーのは、どういう喫茶店なんだ」

「姉貴の話だと、教室内、木やら花やらで飾りつけるんだとさ。それこそ、メルヘンに出てくる森の中みたいなイメージで」

「ふーん。それでメルヘン喫茶ってわけか」

「で、店員の制服が、動物のコスプレ」

「……は?」

 思わず訊き返すオレ。「……コスプレ?」

「店員、みんな猫耳とかシッポとかつけてるらしいぜ。それで、語尾に『にゃん』とかつけて喋るんだとさ」

「……それは、『メルヘン』とは違う世界なんじゃないのか?」

 むしろ、オレが最初に言った『メイド喫茶の親戚』のほうが正しいような。

 想像してみよう。花でいっぱいのメルヘンチックな店内。店に入ったオレは、窓際のテーブルに座る。エプロン姿に猫耳とシッポ、首には鈴をつけた可愛いウェイトレスがおしぼりと水を運んできて、にっこりと微笑みながらオレに言う。「ご注文が決まりましたら、お呼びくださいにゃん」

「……行きてぇ」

 なんて夢のような世界なんだ。

「マジで!?」

 驚いたように、ダイスケが叫ぶ。「姉貴に、絶対一人は連れてこいって言われてるんだよ。マジで、行ってくれるか!?」

「おう!」

 大喜びのオレとダイスケは、土曜に学園祭に行く約束をした。


 そして、土曜日。学園祭当日。

 ダイスケの姉貴の高校に着いたオレたちは、真っ先に『メルヘン喫茶』へと向かった。

 花でいっぱいのメルヘンチックな店内。店に入ったオレたちは、窓際のテーブルに座る。

「……どういうことだよ、ダイスケ」

 座るなり、オレは小声で文句を言う。

「姉貴のクラス、女子が二割しかいねぇんだよなぁ」

「聞いてねぇぞ、そんなの!」

 エプロン姿に猫耳とシッポ、のど仏のある首に鈴をつけたウェイターがおしぼりと水を運んできて、野太い声でオレに言った。

「ご注文が決まりましたら、お呼びくださいにゃん」

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