百発百中

 薫子かおるこお嬢様は、大河原おおがわら財閥会長のご令嬢であると同時に、カリスマ占い師カオルコという顔も持つ。カオルコの水晶玉占いは百発百中、占いの結果通りに宝くじが当たった人、事故に遭って怪我をした人、結婚相手が見つかった人など、枚挙にいとまがない。<カオルコの占いの館>は連日大盛況、テレビや雑誌の取材が引きも切らず、特に若い女性の間ではスーパーアイドル並の人気を誇る。

 ……というのは、表向きの話。

 実のところは、一人娘を溺愛している会長が、お嬢様の「占い師になりたい」という夢を叶えるため、お嬢様には内緒で我々部下に命じているのだ。金に糸目はつけない、娘の満足のいくようにしてやれ、と。

 要するに、お嬢様の〝占い〟が実現するよう、我々が日夜、陰で努力しているのである。占いの館に監視カメラや盗聴器をしかけ、占い客の顔写真を撮り、お嬢様と客の会話に耳を澄ます。

 宝くじで三億円当たるでしょう、みたいな占いならば、まだ話は簡単だ。客に尾行をつけ、宝くじを買うところを見届けて、その番号が当選するよう裏から主催者に手を回す。大河原財閥の財力と権力があれば苦もなくできる芸当だ。

 会社帰りに追突事故に遭うでしょう、なんて占いになると、我々は、加害者を準備しなければならない。ただこれも、金を積めば引き受ける人間はいるものだ。客の通勤ルートを調べ上げ、大怪我にならない程度に追突させる。勿論、車の弁償や治療費は我々が全額持つ。

 運命の相手に出逢うでしょう、などという占いは非常に厄介だ。我々が準備した異性を、客が気に入るとは限らないのだから。彼または彼女の過去の交友関係を徹底的に調査し、好みそうな異性を多数取り揃えて、不自然でない状況での出逢いをセッティングする。そのうちの誰かとめでたく恋に落ちてくれると、我々はほっと胸をなでおろすのである。

 こんな苦労を、お嬢様は全く知らない。知らないから、今日も呑気に「入試に合格するでしょう」とか「空き巣に入られるでしょう」とか、適当な占いを繰り返している。やれやれ。

 しかし、今日はいつもと様子が違った。

「ねえ、中田。私の占いは、百発百中よね?」

 占いの館からの帰り道、リムジンの中で、お嬢様は尋ねた。私は大袈裟おおげさうなずく。

「勿論でございますとも」

「本当に、そう思ってる?」

 訊き返す、その表情は心配げだ。

「どうかなさったのですか、お嬢様?」

「実はね……」

 歯切れの悪い口調で、お嬢様は言う。

「帰り際に、中田のことを占ってみたの」

 嫌な予感がした。まさか、私が事故に遭うとか言うんじゃあるまいな? そうだとしても、本当に怪我をするのは御免だ。何とか、〝事故に遭った振り〟で誤魔化せないか……。

 内心で算段する私に、お嬢様は、死刑宣告のように告げた。

「中田。あなた、ハゲるわ」


 翌日。

 嫌がる私を仲間が数人がかりで押さえつけ、私の頭は、坊さんのようにツルツルになった。

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