百発百中
……というのは、表向きの話。
実のところは、一人娘を溺愛している会長が、お嬢様の「占い師になりたい」という夢を叶えるため、お嬢様には内緒で我々部下に命じているのだ。金に糸目はつけない、娘の満足のいくようにしてやれ、と。
要するに、お嬢様の〝占い〟が実現するよう、我々が日夜、陰で努力しているのである。占いの館に監視カメラや盗聴器をしかけ、占い客の顔写真を撮り、お嬢様と客の会話に耳を澄ます。
宝くじで三億円当たるでしょう、みたいな占いならば、まだ話は簡単だ。客に尾行をつけ、宝くじを買うところを見届けて、その番号が当選するよう裏から主催者に手を回す。大河原財閥の財力と権力があれば苦もなくできる芸当だ。
会社帰りに追突事故に遭うでしょう、なんて占いになると、我々は、加害者を準備しなければならない。ただこれも、金を積めば引き受ける人間はいるものだ。客の通勤ルートを調べ上げ、大怪我にならない程度に追突させる。勿論、車の弁償や治療費は我々が全額持つ。
運命の相手に出逢うでしょう、などという占いは非常に厄介だ。我々が準備した異性を、客が気に入るとは限らないのだから。彼または彼女の過去の交友関係を徹底的に調査し、好みそうな異性を多数取り揃えて、不自然でない状況での出逢いをセッティングする。そのうちの誰かとめでたく恋に落ちてくれると、我々はほっと胸をなでおろすのである。
こんな苦労を、お嬢様は全く知らない。知らないから、今日も呑気に「入試に合格するでしょう」とか「空き巣に入られるでしょう」とか、適当な占いを繰り返している。やれやれ。
しかし、今日はいつもと様子が違った。
「ねえ、中田。私の占いは、百発百中よね?」
占いの館からの帰り道、リムジンの中で、お嬢様は尋ねた。私は
「勿論でございますとも」
「本当に、そう思ってる?」
訊き返す、その表情は心配げだ。
「どうかなさったのですか、お嬢様?」
「実はね……」
歯切れの悪い口調で、お嬢様は言う。
「帰り際に、中田のことを占ってみたの」
嫌な予感がした。まさか、私が事故に遭うとか言うんじゃあるまいな? そうだとしても、本当に怪我をするのは御免だ。何とか、〝事故に遭った振り〟で誤魔化せないか……。
内心で算段する私に、お嬢様は、死刑宣告のように告げた。
「中田。あなた、ハゲるわ」
翌日。
嫌がる私を仲間が数人がかりで押さえつけ、私の頭は、坊さんのようにツルツルになった。
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