わたしのおじいちゃん
わたしのおじいちゃんは、整理魔だ。
おじいちゃんの手にかかると、水道料金の領収書でも老人会のお知らせでも何でもかんでも穴を開けて、表紙をつけて黒い紐で綴じられてしまう。しかしその表紙というのが、グレーのボール紙なのだ。穴を開けるのだって、パンチなんていう文明の利器は使わない。千枚通しか、そうでなければキリだ。キリで開けた穴は大きさや位置が揃っていないので、見栄えが悪い。それ以前にボール紙の表紙もカッコ悪いのだけれど。
おじいちゃんは、いろんなものを封筒や箱に入れて片付ける。中身がわかるように黒のマジックで大きくタイトルを書いたあと、今度は赤いマジックで縁取りをする。おじいちゃんは「立体感をつけるためだ」と言うけれど、絶対に「立体感」という言葉の意味を間違って覚えていると思う。おじいちゃんの家には、そういう間違った立体感の字の書かれた書類封筒や菓子箱がいっぱいだ。一度、ビニールの梱包材が山ほど入った段ボール箱に「つぶすとパチパチ」と書かれていたのを見たときは、大爆笑してしまった。
おじいちゃんは、写真の整理も大好きだ。アルバムの表紙には、もちろん間違った立体感のタイトルが書かれている。中は、写真一枚一枚に、撮影した日付と「さーちゃんと土手につくしとりに行った。いっぱいとれたね」とか「さーちゃんの入学式。ピカピカの一年生!」とかのコメントが添えられている。
「家中の物にマジックで書いて回るのは、見た目がよくないからやめてほしかったんだけどねえ」
と、おばあちゃんは苦笑した。
「そーそー。わたしも昔、ノートの表紙に例の立体感で名前を書かれて、学校に持っていくのに困ったよ」
と、わたし。
「おじいさん、言っても聞かないからねえ。
でもねえ、今になってみると、この家は、どこに何がしまってあるか本当によくわかるんだよ。おじいさんはもういないのにね」
「そうだね……」
相づちを打って、私はぐるりと家中を見まわす。タンスの上の菓子箱、カラオケのカセットテープのラベル、本棚に立っているファイル。この家はおじいちゃんが整理したもの、おじいちゃんの思い出が詰まったものでいっぱいだ。
もうすぐ、おじいちゃんの、一周忌。
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