物忘れ
大学に着いてから、家に携帯電話を忘れてきたことに気がついた。カバンの、いつものポケットに入っていない。
一人暮らしをしている私は、前に使っていた目覚まし時計が壊れて以来、毎朝、携帯のアラーム機能で起きている。新しい目覚ましを買おうと思ったことは何度かあるけれど、買い物に出かけると、そのことは綺麗サッパリ頭から消えているのだ。
今朝は、昨日マナーモードにしたのを忘れていたのが原因で、アラーム音が鳴らなかった。振動はしていたのだろうけれど、気がつかなかった。ふと目が覚めたら、一コマ目に遅刻ギリギリの時間。もちろん朝ごはんなど食べている時間もなく、慌ててバタバタと仕度して家を出てきたので、携帯をそのまま枕元に置いてきてしまったらしい。
昔から、とにかく私は忘れっぽい。筆記用具や教科書を忘れて、友だちに貸してもらうのはしょっちゅう。スーパーのレジで支払いをしようとしたら、財布は家に置きっぱなしだった、なんてこともよくある。決してサザエさんを笑えない。
家に携帯を忘れてきたとなると、とても気になるもので。
今頃、誰か友だちがメールをくれて、「返事が来ない」とムッとしているんじゃないだろうか、とか、こんな日に限って、「親戚が病気で入院した」みたいな緊急の用件で電話がかかってくるんじゃないだろうか、とか。一日中、そればかりが気になって気になって仕方がない。
四コマ目の授業が終わった途端、サークルにも出ずにまっすぐ帰宅した。朝の慌てぶりそのままに、散らかった室内。とりあえずカバンを机に置いて、枕元を見る――が、携帯電話がない。
ベッドの下や、脱ぎ捨てて丸めてあったパジャマの中など、そこら中を探してみたけれど、やっぱりない。携帯とは全然関係なさそうな、台所や風呂やトイレまで探してみたけれど、それでもない。おかしい。もしかして、朝は持って家を出たけれど、大学に着くまでの間に落としたのだろうか?
とにかく、自分の携帯に電話をかけてみようと思ったけれど、部屋に固定電話はないので、カバンをつかんで近所の電話ボックスへ走る。公衆電話に十円玉を投入し、プッシュボタンを押す。発信音。誰か、近くにいる人が出てくれますように……。
そのとき。
どこからか、ヴーン、ヴーン、という音が聞こえてきた。
……カバンの中だ。
朝、慌てて家を出た私は、いつもとは違うポケットに携帯を放り込んだのを、忘れていたのだった。
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