夢の通信機

 小さい頃、ヒーローになりたかった。

 テレビの特撮番組はいろいろ見ていたけれども、特に憧れていたのが、五人そろってナントカ戦隊ナントカマン、のシリーズ。戦隊ゴッコ遊びをするときはいつも、自分がレッドになるんだと言い張り、友達に「マコトには無理だ」と言われてケンカになっていた。

 ナントカ戦隊の人たちは、ブレスレット型の通信機兼変身装置を腕にはめている。誕生日に親にねだって、そのブレスレットの玩具おもちゃを買ってもらった。もちろん、変身することはできないし、通信もできないけれども、同じ物を持っている友達と「こちら、レッド」「こちら、ブルー」と言い合って、戦隊の一員になった気分に浸っていたものだ。

 もう少し大きくなって、学校で初めてトランシーバーを触ったときには、感動した。本当に、通信できる! 思わず、「こちら、レッド」と言ってみたのは理の当然。できれば、腕にはめられるブレスレット型ならばもっと良かったのだけど。そう言って、周囲に笑われたのは、もう、何年前のことだろう?


 ある日曜日の朝。

 何となく目が覚めてしまったので、起きてテレビをつけたら、ちょうどナントカ戦隊の番組が始まるところだった。今の自分の歳よりもはるかに若い俳優たちが、地球征服を目論む悪の怪人と戦う姿に、久々に熱心に見入る。

 だが、そこで気付いた、衝撃の事実。


 ……今どきの戦隊は、ブレスレットをしていない!


 昔、あんなに憧れたブレスレット型通信機は姿を消し、代わりに登場するアイテムが携帯電話。彼らはみな、携帯電話で仲間と通信し、携帯電話を使って変身するのだ。いや、携帯電話で通信するのは非常に理にかなっていると思うけれども、そういう問題ではなくて。

 自分の、小さい頃の夢はいったいどこに行ってしまったんだ?

 この思いをどうしても誰かにぶつけたくて、思わず、日曜の朝だというのに恋人の携帯に電話して訴えてしまった。叩き起こされて不機嫌そうな相手の声が、電話の向こうから聞こえてくる。

「……あのなぁ、真琴まこと。それがもうすぐ三十路みそじの女の言うセリフか? だいたい、ピンクじゃなくてレッドになりたいってところから、おかしいんだよなぁ……」

 女がレッドで何が悪い。

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