今日の使えない語。

 携帯電話向けメールマガジン配信サービスのサイトを覗いていて、新しく創刊されるマガジンの宣伝を見つけた。最初の一ヶ月は無料のテスト購読期間で、その間に正式購読(有料)を申し込めば来月以降も送られてくるし、何もしなければ、そのまま立ち消えになるらしい。タイトルが何となく面白そうだったので、申し込んでみることにした。

 マガジンのタイトルは、「今日の使えない語。」。


 それから毎日一つずつ、言葉とその解説がメールで送られてくるようになった。これがまぁ、どこから探してきたのかというくらい、本当に使えないのだ。例えば。


『今日の使えない語。』

 「村松三太夫高直(むらまつさんだゆうたかなお)」

 解説:忠臣蔵で有名な、赤穂四十七士の一人。部屋住み。村松喜兵衛秀直(むらまつきへえひでなお)の長男で、父も吉良上野介邸討ち入りに参加。享年二十七、戒名は「刃清元剣信士」。


 ……誰だよ、村松って。忠臣蔵なら忠臣蔵で、大石おおいし内蔵助くらのすけとか堀部ほりべ安兵衛やすべえとか、他にもっと有名な人物がいるだろうに。

 かと思えば、こんな語が送られてきた日もあった。


『今日の使えない語。』

 「スカイフィッシュ」

 解説:謎の未確認生物UMAの一種。細長い棒の両側にヒレをつけたような形状で、時速八〇キロメートルから三〇〇キロメートルで高速飛行すると言われる。世界各地で、ビデオ映像に姿が捉えられている。


 ……いや、だから、この知識をどうしろと。

 というか、掲載する言葉を選んでいるのは誰なんだ。いったい、どういう基準で選んでいるんだ?

 毎日毎日、あまりにも役に立たない言葉が送られてくるので、次第に「今日はどんなのが来るんだ?」と楽しみになってきた、ある日のこと。

 メールの着信音に、待ってましたとばかりに携帯電話を開いてメール本文を表示させると、そこにはこんな文面が書かれていた。


『今日の使えない語。』

 「今日の使えない語。」

 解説:使えないメールマガジン。最初の一ヶ月はテスト購読期間で無料。一ヶ月が過ぎると、違う意味で使えなくなる。 ちなみに、今日が一ヶ月目。


 ……ひとしきり大笑いすると、早速、正式購読の手続きを開始した。

 明日も楽しみだ。

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