chapter02 サービススタッフの資質-従業要件 良識・協調性・清潔感・忍耐力-

「失礼しましたぁ!!」


「!!」


「ちょっと、邪魔よ!!」


 いきなり美術室から出てきた派手な女子高生に邪魔呼ばわりされた私は、一瞬考えをめぐらせたものの、それをすぐに止めて横に避けた。


「全く郷中さとなかの奴、「あなたにはサービス業は向いてない」なんて言いやがって…もう私はとっくにサービス業でアルバイトをしているんだってーの!!」


 先生が聞いているかも知れないということを考えてか考えずか、その女子高生は歩きながら怒鳴り散らしている。


「…とりあえず、郷中先生のところへ行ってみよう…」


”トントントン…”


「どうぞ~鍵はかかっていないわよ!」


「失礼します!」


「…あなたは、パソコン部副部長の嶋尻真琴さんね!」


「私のこと、ご存知なんですか?」


「ええ、知っているわ。ていうか、あなたや煉君を知らないなら、このけやき商の中じゃ「もぐり」でしょ!」


「…確かに、そうかも知れませんね…パソコンの全国大会で優勝して、テレビ局の取材まで受けた訳ですし…」


「そういうことよ。ところで、私に何か御用かしら?」


「はい。若林先生から、これを届けてくれと言われまして…」


「ありがとう!商業科の先生方で今度考える企画案なの。助かったわ!」


「いえ、私は先生のところにこの封筒を運んだだけですから…」


「ところで、ずいぶん派手な女子高生が、さっきここから出てきたみたいですけど…」


「何だか、とっても不満そうな様子でしたが…」


「外であの娘が騒いでいるのを聞いていたわ…これだから、あの娘には「サービス業」は向いていないって言ったのよ…」


「どういうことですか?さっきの人は、3年生の先輩なんですか?」


「そうなの。本人も家庭も就職を希望していて、本人がレストランでアルバイトをしているものだから、卒業後も「サービス業」で働きたいって思っているんだけど…」


「正社員としてサービス業に従事しようとする際の「」に、彼女は適していないと私は思うの。」


「「従業要件」といいますと…」


「サービス業で仕事をするにあたって、ね。まず第一に…」


を持っていること!!」


「良識…というと「お年寄りには親切にする」とか「公共物は大切に扱う」といったことですか?」


「そういうことね。良識のある人というのは「」のことで、対人関係を十分に意識して行動できる人のことを指すわ。その根本には、「対人関係」「道徳」「公衆道徳」「公共心」の理解があり、自分よりも「」「」で考えられるかが重要になってくるわ。」


「サービス業は、だから、相手をおもんぱかる姿勢を持てなければならない。その姿勢が彼女には欠けているわね。」


「実は、さっきあの先輩がこの教室から出てきた時、私とぶつかりそうになったんです。その時も、私のことを邪魔だと言って避けさせたんです。いくら自分が最上級生だからって、見ず知らずの人に向かって「邪魔」なんて言えるのは、相手の慮れない証拠、ということでしょうか…」


「そうかも知れないわね…」


「さて、従業要件の第二だけど…」


「適切な行動ができ、調がある!!」


「サービススタッフとしての適切な行動と言えば…マニュアル通りに接客ができること。協調性は…同僚や先輩と協力して仕事をしていけること。とかでしょうか…」


「ちょっと違うわね…」


「適切な行動というのは、マニュアル通りの接客に留まらず、こと、ね。」


「普通に接客するだけでなく、要望に対する+@をするわけだから、なの。」


「例えば、嶋尻さんが銀行窓口に行ったらすご~く混雑していて…

・番号札を渡して「少々お待ちください」と言われるのか…

・番号札を渡して「30分程度お待ち頂きますが宜しいでしょうか」と言われるのか…

 真琴さんなら、どちらの言われ方の方が「あぁ、私たち客のことを考えて接客されているな」と感じるかしら?」


「それは、具体的に待ち時間がどの程度になるかを教えてくれている、後者の言われ方の方が、お客様のことを考えて接客しているな、と感じます!!」


「そうよね!」


「協調性は嶋尻さんが言っていた通りよ。お客様には色々なタイプがいるから、の。」


「そんな時、他のサービススタッフとの協調性を大切に仕事をしていれば、自分が困った時には助けてもらえるし、他のサービススタッフが困っている時には助けに入れる…」


「そういった環境が、お客様に満足して頂けるサービスを構築していける、という訳ね!!」


「団結力の強いクラスが体育祭や文化祭で活躍するのと同じなんですね!!」


「そういうことね。」


「次に、第三だけど…」


について理解できる!!」


「清潔感というのは、取り扱っている商品が清潔であること、でしょうか?いや…むしろ「従業員」が???」


「その「どちらも」に清潔感が必要なのよ!」


「例えば嶋尻さんが魚屋さんに行ったとして、売り物はすごく新鮮でピチピチしているけど、売っている人の髪の毛がボサボサだったり、汚れが酷いエプロンとかをしていたら、購入したいと思うかしら?」


「その魚屋さんが安かったとしても、私なら多少鮮度が落ちたり値段が高かったとしても、スーパーに行って個装されたものを買うと思います。」


「そうよね。つまり、清潔感があるというのは、商品よりも、それを売ろうとしているサービススタッフの身だしなみに清潔感があるかどうか、にかかっているという訳なのよ。」


「さて、従業要件の最後は…」


のある行動!!」


「お客様からクレームが入った時は、例えそれがお客様側に原因があるとしても、耐え忍んだクレームを聞く、といったことでしょうか?」


「正解!!」


「サービス業は「お客様第一」に考えて行動しなければいけない。これは即ち、自分の感情を(自制)し、お客様あってのサービス業の観点を忘れずに、(社会性)を身に着けて接客できるか…これが「忍耐力のある行動」という訳ね。」


「誰もいないコンビニに入ると、たまに店員さん同士の大きなしゃべり声が聞こえてくることとかありますよね…」


「そうね。それは、ソーシャルインテリジェンスを持ち合わせていれば「いつお客様がいらっしゃるか分からない」「お客様がいない時でも、お客様がいらっしゃるつもりで仕事をしよう」という発想になるから、店員同士の大きなしゃべり声がお客様に聞こえるといったことは起きないはずよね!」


「他にも「お客様との世話話で自分の主観をあまりはっきりとは言わない」(=自分自身では主観だと思っていても、その意見が「店」の意見と捉えられてしまいかねないから)」


「「クレーム対応では、直接関係のない事象でも苦情と受け止め、お客様の気に障ることを言わない」」


「「説明をなかなか理解して頂けない時は、表情や話し方等にも注意を払う」

などが挙げられるわね。」


「確かに、先生がおっしゃった4つの視点で考えると、先ほど出て行った先輩がサービス業に従事するのは難しいと思いますね…」


「なまじ、アルバイトができてしまっているから、変なところで自信を持ってしまっているのね…」


「でも、。お客様からのクレーム対応や、難しいお客様対応は、アルバイトがやることは少ないのよ。」


「そこのところを、あの娘が理解してくれれば、アルバイトでの経験もある訳だから、就職先もスムーズに見つかるはずなんだけどね…」


「嶋尻さんは、将来はどういう風に考えているのかしら?」


「私は、鉄道会社に就職して、将来は運転士になりたいと思っています。父が鉄道関係の仕事をしているものですから…」


「そうなの!素晴らしい夢ね!!確か嶋尻さんは、選択授業で秘書やマナーについて学んでいたわよね!!」


「はい!足達先生の「秘書・接遇」の選択授業で、検定のことを中心に勉強してます!!」


「それなら、就職活動が始まる前までに、マナー系の検定をたくさん取得しておくことね!面接や働きだしてから、絶対に活きてくるはずだから!」


「はいっ!ありがとうございます。」


「それじゃあ、私は部活に戻りますね。」


「部活も頑張ってね!」


「はい!失礼しました!!」



chapter 3 に続く



-検定問題にチャレンジ!!-


 ホテルのフロントスタッフ寺田良和はマネジャーから、「お客様サービスとは、お客様が求めていることに一つプラスした対応をすること」と言われた。次は寺田がお客様の求めに一つプラスしたことである。中から「不適当」と思われるものを一つ選びなさい。

(第35回 サービス接遇実務検定3級より)


「1.周辺の道路地図を見せてもらいたいと言ってきたお客様に、観光マップもあると言った。」


「2.体温計を借りたいというお客様に、頭痛薬か風邪薬なら用意してあるのでどうぞと言った。」


「3.パソコンで列車の時刻を調べてもらいたいというお客様に、よければ印刷しようかと言った。」


「4.モーニングコールを頼みたいと言ってきたお客様に、部屋の目覚まし時計のセットの仕方も教えた。」


「5.駅までのタクシーを呼んでもらいたいというお客様に、シャトルバスもあるがと言って発車時刻を教えた。」


「不適当」なものは…















「4.モーニングコールを頼みたいと言ってきたお客様に、部屋の目覚まし時計のセットの仕方も教えた。」


-解説-


「部屋に目覚まし時計があるのは、お客様も分かっているはずです。そんな状況で、お客様はモーニングコールを希望したのですから、それにはそれなりの理由があるはずでしょう。なのに、時計のセットの仕方を教えたなどは、お客様の求めに一つプラスした対応にならないので「不適当」ということになります。」

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