chapter02 「五勘定」って何!?
「煉せんぱ~い!」
私はパソコン部の部室であるパソコン室に入ると、いつもの調子で先輩を呼んだ。
「美琴か?また早いご到着だな」
「はい。部活始まる前に、また先輩に簿記のことを聞こうと思って…」
「そうか…。で、今日はどんなことで悩んでいるんだ?」
「「資産」「負債」「純資産」「収益」「費用」の分類で、頭が大渋滞しちゃうんです…」
「なるほど…ちょっと待ってろ」
そういうと、先輩はホワイトボードに行き、何かを書き始めた。
「こんな図は、授業で見たことあるか?」
「はい!簿記の先生が書いていました。確か、「Tフォーム」って呼んでいました!」
「これは「
「総勘定元帳?」
「簿記には、たくさんの「勘定科目」が存在している。例えば、紙幣や硬貨の有り高は「現金」、銀行から借りたお金は「借入金」といった具合に、会社の財産や成績に変動が生じた時、これを一般的に「取引」と呼んでいるけど、取引が行われる度に記録を取るんだ。」
「私がコンビニで買い物をした時にも、コンビニ側は「商品」って財産がなくなって、「現金」って財産が増えるから、記録を取るんですね♪」
「「取引」がたくさん行われている現場では、記録は一括して行われたり、コンピュータで行われたりしているけど、美琴の言う通りだ。簿記で、この記録を取ることを「仕訳」と呼んでいる。」
「簿記の先生も言っていました。「簿記は『仕訳』に始まって『仕訳』に終わる」って。」
「取引の記録である「仕訳」を間違えてしまうと、全てのデータが間違ったものになってしまうんだ。だから、仕訳って大事なんだよ。」
「なるほど!」
「で、仕訳をした結果を転記して、各勘定科目の残高を数字上ですぐに追えるようにしたのが「総勘定元帳」なんだ。」
「「資産」と「費用」は、増えたり発生したら左に記入し、減ったら右に記入する。」
「てことは「負債・純資産」と「収益」は、増えり発生したりしたら右に記入して、減ったら反対の左に記入するって訳ですね♪」
「その通り。簿記上で、左側のことを日本では「借方」、右側のことを「貸方」と呼んでいる。これは、日本に複式簿記を輸入した「福沢諭吉」が、左側に書いてあった「debit」を「借方」と翻訳し、右側に書いてあった「credit」を「貸方」と翻訳したことに起因するらしい。」
「えっ、あの「一万円札」に書かれている、あの「福沢さん」ですか?」
「そう。簿記を勉強する人がよく間違えるのは「借りたから左側」「貸したから右側」って覚え方。これだと、お金を貸した時に使う「貸付金」は、貸した時に「右側」に書くことになるだろ?」
「確かに。でも、「貸付金」は、後でお金を返してもらえるものだから…」
「そう。貸付金は「資産」に分類される。資産は増えた時には左側に記入するから、「お金を借りた時は借方」「お金を貸した時は貸方」って覚え方は間違っていることになる。」
「なるほど!先輩、ここまでは私にもよく理解できます。問題は、「資産」「負債」「純資産」「費用」「収益」には、それぞれどんな勘定科目があるか、なんです。勘定科目にどんなものがあるのかは暗記でどうにかなりそうですけど「増減した時にどっちに書くか」が分からないと「仕訳」できないんです…」
「確かに、仕組みは分かっても、勘定科目がどれに分類されるか分からないと、俺でも仕訳はできないな…ちなみに、勘定科目の暗記は絶対にしないこと。勘定科目は、分解して考えれば暗記しなくても理解できるものが多いからな。」
「は~い」
「まずは「資産」だな。「資産家」なんて言葉もあるけど、資産は「会社が持っていて嬉しいもの」が分類される。「会社」を「俺達」に変換して考えてもいい。」
「確かに「現金」はたくさん持っていて損することはないし、むしろたくさん欲しい位ですよね。それに、銀行に預けている「預金」の残高も、多ければ多い程良い訳ですし。」
「そうだな。「現金」や「預金」以外にも、後で返してもらえる「貸付金」や、店舗を運営するために必要な「建物」なんかも、資産に分類される」
「確かに、会社が持っていて損するものではないですね♪」
「次に「負債」だが、これは資産の逆で「会社が持っていると嫌なもの」が分類される。高校1年で勉強する範囲内で出てくるものは、後で返さなきゃいけない「借入金」とかだな」
「(しまった!この前、お姉に借りたお金返すの忘れてた…また怒られるぅ…)」
「美琴!?どうした?」
「いえ。何でもありません。返さないで怒られるのは、誰でも嫌ですよね!」
「???…話を戻すぞ。で「純資産」は、会社を作った時の大本のお金のことだ。「会社設立に際し、¥1,000,000を元入れして営業を開始した」この仕訳は習ったよな?」
「はいっ!元入れっていうのは、店長さんが自分のお金をお店のお金として提供したって意味で、会社側から見るとお金が増えているから…
(借方(左側))現 金 1,000,000
/
(貸方(右側))資本金 1,000,000
って仕訳になります♪」
「その通り。この時、右側に書いた「資本金」っていうのが「純資産」つまり会社の大本となっているお金って訳だ。「純資産」は、最初は「資本金」しか出てこないから、「資産」と「負債」の違いをしっかり理解しておけば大丈夫だ」
「「資産」「負債」「純資産」を集めた財務諸表が「貸借対照表」だ。会社の「健康診断書」のことだけど…」
「はい!この前先輩に教わりました♪」
「この「健康診断書」を、会社の利害関係者、最近じゃ「ステークホルダー」って言うらしいけど、これに該当する人が見て、会社の健康状態を把握して、投資を決定したり、経営者に経営改善を求めるっていう訳だ」
「簿記で正確に仕訳をして、企業の健康診断書を適切に表示することが大事ってことですね♪」
「そういうことだな」
「次に「費用」と「収益」の話だ」
「「費用」は「会社からお金が出ていった原因」のことだ。」
「「費用」の一つに「給料」ってありますよね。給料は、私たちから見ればもらえるものだけど、会社から見たら、確かにお金が出て行く原因ですよね…」
「その通り。会社の費用のうち、「給料」が大きなウェイトを占めることも多いんだ。「費用」の見分け方としては、頭に「支払」という言葉がついたり、後ろに「費」という言葉がつくと、大概は「費用」に分類される」
「なるほど!!確かに、お母さんが家の家賃を振り込んだ場合、これを会社が行えば「支払家賃」になりますよね!お父さんが飲み会でお金を使えば、これは会社では「交際費」ってことになりそうだし。全部、お金が出ていった原因ですね♪」
「で「収益」は費用の逆で「会社にお金が入ってきた原因」のことで、頭に「受取」がついたり、後ろに「益」がつくものを指している」
「私の銀行口座にも、年に2回、ほんの少しだけ「利息」が振り込まれてます。これを会社が受け取った場合は「受取利息」になりますね♪」
「費用と収益を集めた財務諸表が「損益計算書」。「損」は「費用」のことで、「益」は「収益」のこと。費用と収益を計算する書類って意味だな。この計算書で、収益が費用よりも多かった場合、会社は儲かったことになるから「純利益」が算定されるんだ。逆の場合は「純損失」だな。」
「なるほど!!先輩の言うように、簿記で使われている言葉は、区切りよく分解すれば、意味が通じるものばかりなんですね♪」
「その通り。「暗記」なんかするより「理解」してしまった方が、よっぽど勉強もはかどるはずさ」
「先輩、今日もありがとうございました。これで、明日からの簿記の授業、また頑張れそうです♪」
「お疲れ様で~す。」
「あの声は…」
「おう、真琴か。お疲れ様!」
「げ。お姉…」
「どうした、美琴?」
「煉先輩。私、クラスに忘れ物してきたんで、ちょっと取りに行ってきますね…
失礼しま~す」
「あれっ?煉先輩、今、美琴としゃべってませんでした?」
「ついさっきまで、ここにいたんだが…」
「???」
「???」
…
chapter3 に続く
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