第9話【没】月蝕屋敷の犯罪

登場人物

・本条静紅(ほんじょう・しずく)―― ニセ探偵・十五歳

・西園慧天(にしぞの・えでん) ―― 探偵・十五歳

・保志彦浮(ほし・ひこうき)  ―― 教師・二十九歳


・城金海人(しろがね・かいと) ―― 葬儀屋の創業者、故人

・城金潮(しろがね・うしお)  ―― 葬儀屋の社長

・城金美咲(しろがね・みさき) ―― その妻

・城金みなも(しろがね・みなも)―― その娘


・笠原流(かさはら・ながれ)   ―― 潮の弟


・須田星治(すた・せいじ)   ―― 宇宙人・建築家


 慧天が静紅に差し出したラブレター。それはみなもが彼に宛てたものだった。いつものように同伴で断りに向かうと、ラブレターは嘘で、週末の誕生会に来て欲しいと言われる。町外れの月光屋敷、今は寂れて月蝕屋敷。そこは彼女の父の持ち物だからと。保護者同伴で良いならと了解し、二人は週末をそこで過ごすことになる。


 月光屋敷には見知った教師・保志もいた。城金家とは長い付き合いらしく、主人の潮とも気安くしている。屋敷の内部説明……玄関ホールを見下ろす渡り廊下の手摺りは作りが特殊で、等間隔に並ぶポールで代用されている。それぞれの上部には月の満ち欠けがオブジェとして付けられ、全部並んで一か月分の満ち欠けが表されていた。少々腐食している。また、屋敷は正面から見るとごく普通の四角だが、裏は抉れたように丸く切り取られたデザイン。そちら側は全面窓ガラス。夜や天気の良い日は上から見ると三日月形に見えるとか。中央部は広間に面していてバルコニーがある。内側は庭だが、手入れはされていない。

 屋敷は恒常的に使用しているのではなく、近く売りに出すことが決定しているらしい。最後なのだからと、みなもがここで誕生会を開きたがった。他の友人達には自宅で祝ってもらったらしい。ちょっとみなもと静紅に微妙な空気(片思い相手に来て欲しかったのに、保護者が幼馴染かよ!と言うオーラが仄かに?)。夕飯は和やかに進むものの、流と保志の間に妙な間が流れることも。小さな怒鳴りあいも勃発。

 食後はそれぞれで団欒。子供達+美咲、潮と保志、流。外は満月。城金家の男はみんな満月狂いらしい。爺は屋敷を立てるほどだし、普段物静かな潮は保志と酒を交わしながら出来上がり。流はいつも部屋に篭って不貞寝している。美咲と潮の出会いも、大学の天文サークルで、だったとか。途中美咲が家事で席を外す。潮は酔い潰れ、保志がそれを抱えて部屋に下がって行った。バルコニーで母発見、月問答(笑) 部屋に戻る。二人は同じ部屋、一回の隅。翌朝、ぎゃー。


 みなもが朝に窓を開け、外に流の死体を発見。屋敷の月側、内側の芝生に転がっている。流の部屋が上だったのでそこから転落したんだろう。警察も転落死と所見。しかし静紅は違うと言ってしまう。部屋の窓は鍵こそ開いていたが閉じていたし、窓は下半分の腰位置までしか開かない。じゃあ誰が? 保志がしょっぴかれる。夕飯のことや、昨晩の深酒で疑われ。

 慧天が保志じゃないと言い張るので、静紅は犯人探しを手伝うことに(ここはなんかロジック立てるとですorz)。みなもに案内を頼む。玄関ホールに面してる手摺りが一本ぐらぐらしていたので、美咲に連絡したり。流の部屋は覗くだけ、油絵がどっさり。描いてたらしい。窓の鍵が開いてたのは換気の名残だろう。色々みなも越しに皆の流の印象を聞き出す。彼女の両親とは折り合いが悪かったらしい。保志とも必然的に仲が悪く。今回も実は、呼んでないのに来たとか。

 流は現在妻と別居状態。子供が出来たから籍を入れたが、流が働かないので臨月も働き続けた妻は流産し、離婚寸前らしい。また、流の保険の掛け金支払いは潮がしていた。奥さんも余裕ないから。受取人もずっと潮のまま。屋敷を売ることを考えているし、潮が犯人か? しかし証拠は?

 そもそもどうして保志じゃないと言い張れるのか、静紅は慧天に尋ねるが、曖昧に頭をふるふるしているだけ。みなもとの事もあって、なんとなく苛々。二人が一休みしている間に流の部屋に向かう、途中で手摺りをずらーっと撫でながら。窓から下を覗き込もうとした所で、殴られ。


 夢で色々昔語り。小学校の時、ウサギが逃げて殺された。鍵を掛け忘れたんだろうと生き物係の静紅が責められた。慧天はその疑いを晴らして、真犯人が担任だと言い当てた。担任は教室の窓から飛び降りて死んだ。二人の目の前に落ちてきた。(この辺は他の場面では複線をちらちら振ります。屋敷に行く途中、小学校の前を避けるとか、死体を見てから色々思い出すとか) それから慧天は引っ込み思案になったし、静紅はそれを引っ張るようになった。そういえばあの時は頭から落ちてぐちゃーになったっけ。うーん。眼を覚ます。

 慧天が泣きながら謝ってる中で眼を覚ます。何か夢で見たような。とりあえず二人で、屋敷の中を周る。やっぱり馴染んでない人が居るとそっちに気をやってしまうから、と言う言葉に、ちょっと優越感。また手摺りをぐりぐりやりながら歩いてたら、一本折れてるのが。古いなーと。

 家の中を終わった庭をぐるぐる。発見現場でバルコニーに頭ごっちんしてみたり、芝生をごろごろしたり。解けた。潮が居ない広間で、静紅が代わりに探偵ショー。■


 まず、流は殺された。事故ではないし、犯人は保志じゃない。保志だとしたら静紅が襲われるのはおかしい。他に犯人がいると言っているようなものだ。だとしたら、嗅ぎ付けられて困る何かを持つ誰かがいる。

 流は転落死だった。部屋の窓の真下に落ちていたし窓の鍵も開いていた、だが、そこに関連性があるとは限らない。事実は、『そこに転落死体が落ちていた』それだけのことだ。芝生は死体の形に潰れている。腕や脚にそんな力は掛からないから不自然だし、死体にも草の汁などはなかった。何よりあの窓から飛び降りてもあそこには落ちない――屋敷の月側が全面ガラス張りなのは、上から見た時に三日月形に見せるため。つまり、月側の壁は垂直ではない斜面なのだ。一階の窓ガラスに落ちてしまう。

 流が転落したのは窓からではなく、玄関のホール、そこを見下ろす渡り廊下からだ。手摺りがポールになっているし錆びているから、強い力が掛かれば折れてしまう。一本でも外れれば、痩身の流はすり抜けて落ちるだろう。ホールには絨毯が敷いてあるから、頭からの出血などには至らなかった。それを引き摺って芝生に置き、犯人は彼を自殺に見せ掛けた。


 子供三人は一緒にいたし、廊下を渡るときに死体は見なかった。そこにあったのかもしれないが、移動させたのだとしても、この三人は除外できる。残るは大人三人。美咲はバルコニーで月を見上げていた。そこに出るには広間の窓からか、外から直接入るしかない。しかしバルコニーは通らなかった。月問答している視界の端に、もう死体はあった。月を見上げていたから気付かなかっただけで。そもそも死体が移動させられたものである以上、全面ガラス張りの月側で、暗がりでも正確に流の部屋の真下に死体を置けるのは住人だけだ。保志ではありえない。静紅を殴ったのも、手摺りの修理をしていた美咲が。

 そこまで言い掛けて静紅は止まる。流の部屋に向かう時、手摺りを撫でて行った。欠けていなかった、修理は終わった後だったんだろう。誰かが手摺りを折って襲ってきたのなら、慧天の推理は間違いになる。そもそもその時間、慧天とみなもと美咲は一緒にお茶していたはずで。


 潮登場、それは自分のしたことだと告白。慧天顔を伏せる、みなもに父母両方が犯人だと言いたくなかったらしい。

 いつも満月は不貞寝で過ごす流が、昨日は美咲に接触してきた。酔ったようにふらふらで、みなもにとある秘密をばらしたいと言って来た。だから突き飛ばしたら、うっかり落ちちゃった。秘密と言うのは、実は十六年前の満月の日にも同じように流が美咲に接触してきて、そのまま強姦。みなもはその時の子かもしれない、と言うこと。保志も潮もそれを知っていたから、流とは折り合いが悪かったのだ。


 結局美咲だけが自首。静紅が襲われたことは、『なかったこと』に。みなもを気遣って潮の犯行を黙っていた慧天の気遣いを無駄にしてしまったとへこたれる静紅だったが、多分コレで良かったんだよ、と慧天は言う。小学校の時のことも後悔してない。余計なことを言ってしまうと言うけれど、余計な言葉なんてきっとないから、僕もいつかヘッドホン外すよ。今はまだ二人一緒で居る時だけだけど。だから、みなもはダメだ。ちゃんとフッて来たらしい。

 保志がのっそのっそ釈放されてきて、『ご苦労様』と。曰く、「自分が捕まってりゃ、その無実を知ってる奴が奮闘してくれるだろー」と、カツ丼食ったりリゾート生活していたらしい。そもそも捕まってもおらず、ただ事情聴取を無理矢理警察署で受け、そのまま入り浸っていただけだとか。潮や流達より年下っぽいけど、そういやどういう繋がりなんだ? と尋ねると、設計者の息子だとあっさり。『須田』=『star』=『星』=『保志』。そもそも原案は俺なんだけどね、などとオチを残して、終了。

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