第8話【未定】キツネさんと僕らは○○部 疑心暗鬼の館
乙茂内美女(美少女)の提案で夏を彼女の家の別荘で過ごすことになる百目鬼耳目・佐伯経子、そして犬吠埼哮太。しかし到着の日は生憎の悪天候で、その辺りにある雑貨店から食料を買う。三日分。そして地元の漁師さんにちょっと孤島めいた島にある乙茂内島(仮称)に着き、まずは掃除。十年は使ってないから懐かしいなあと言う別荘は大分ガタが来ていて、屋根の穴塞ぎをしていた哮太はふと小さな森の中に子供の影を見付ける。どうしたーと声を掛けると逃げてしまう少年。
こんなことがあったんですよ、と、のレトルトシチューキツネさん、スティックメロンパンの百目鬼、ゼリー飲料の乙茂内にカロリーメイトの哮太は話す。誰一つまともな飯じゃねえ、と思いながら乙茂内に訊いてみるが、ここは完全に乙茂内家の所有地なので子供がいるはずがないと答える。じゃああの子供は?
次の朝、目を覚ますと大量に買ってきたはずの食糧が半分程度になっていた。居間の作り付けの金庫を使いましょうとキツネさん。どんどん降って来る雨と風。ラジオからは明後日までの天気が続くと言われ、流石に青くなる乙茂内。どうしよう、こんな予定じゃなかったのに。勉強ほどほどして、海で遊んでもらおうと思ってただけなのに。ほろほろ泣き出す乙茂内の肩をぎゅっとする百目鬼と出遅れる哮太。ニヨニヨしているキツネさん。
取り敢えず島を一周して来るわ、とレインコートで出掛けたキツネさんは、夜になっても帰って来なかった。スマホは圏外。取り敢えず今日は寝よう、という百目鬼にひそひそ話をされる哮太。解りましたと頷いて、異様にうねっている階段を上がり、百目鬼はキッチンに消える。
夜半、がちゃがちゃ金庫のダイヤルを回す音に哮太は二階から電気をつける。すると照らされたのは三人の小学生。逃げようとするのを包丁を掲げた百目鬼に脅され、起きてきた美女と一緒に捜査。昨日の食料を取ったのは自部たちだ。昼から何も食べていなくてつい。どうしてここにいるの? 泳いで遊んでたら流されて、乙茂内島だと思ったら宝探しがしたくなって。宝探し? 乙茂内家の財産の一部が隠して在るんだって大人達が言うのを聞いていたから。
ブラシで髪をくるっくるに整えていた乙茂内は、ため息を吐く。それはこの館そのものの事よ。異様に低い階段の擦り、全部鍵のないドアで繋がった客間、何より壁中に張られたマジックミラー。おじいちゃんはお金を持ってから人間不信なって、こんな館を立ててずっと住み込んでいたの。裏に畑まで作ってね。今はもう草ボーボーだけど。それにしてもどうやって入ったの、家の中。低い位置にある窓の鍵が開いてたからそのまま。そこには食料もありました、と言うので部屋に向かうと、ドアを閉められ閉じ込められる。あんた達だって本当は宝探しに来たんだろう、こんな館が宝であるものか。本当だよ! と言いながら部屋の隅に置いてあったつるはしをドアにぶっこむ乙茂内。あれで結構力が強い。しかし男の子、哮太はそのつるはしを受け取って思いっきり振り下ろしドアの大半を壊す。逃げた小学生たちを掴まえたのは、髪をしとどに濡らしどこか妖怪めいた様子のキツネさんだった。
管理小屋みたいなものの中に無線機があったんだけど壊れていてね。こっちに道具がないかと戻ってきたところで子供の声がしたから、後ろから入り込んでみたの。ある意味激しくグッドな選択です。言いながら、自分のゼリー飲料を縛られている子供たちに与えて行く乙茂内。そんなにやったらお前の分がなくなるぞ。モデルにダイエットはつきものだよ。少女向け雑誌の読者モデルをしている乙茂内。それにしてもドアの修理は大変だなあ。勿論君達の親が出してくれるんだよね? とにっこり問うと、三人は少し行った市の少年院から逃げて来たのだと言う。海に出れば見付からないと思って。取り敢えずその潮臭い頭を洗ってらっしゃい、と縄を解く乙茂内。すごすごとバスルームに消える三人。お待ちなさい、とキツネさんが止める。逃げて来たのは最近じゃないわね。食料は盗んでいたみたいだけれと、島の中に食べられる果実はあったし事実食べて捨てた種も見つけた。宝探しは古い言い訳ね。貴方達本当は、ここに住むつもりだったんでしょう。ずっと司直の手を、逃れるつもりだったんでしょう。
窓には哮太、玄関には百目鬼、バスルームには乙茂内。逃れられなかった三人を再び縛り上げて、衛星通信携帯を取り出した百目鬼に通報された三人は、もう一度泳ぎたかったな、と呟く。こんな夜にそんなことしたら『引っ張られる』わよ、とキツネさん。美女を見る。
この一帯は時化になると堤防をすぐに抜けるほどの水が溜まるの。それもお爺ちゃんがここに別荘を建てた理由。見えなくなるような小島だから、秘密を隠しておくには丁度良かったの。だからその秘密が宝なんだろ。息巻く少年に、セピア色の写真を見せる。乙茂内とよく似た少女が袴姿で写っていた。金庫の中身はこれだよ。私のお婆ちゃん。君達は知らないだろうけれどレコードって言うCDみたいなのもあって、それは全部お婆ちゃんがアイドル時代に撮ったもの。そして夭逝した伝説のアイドルとしか聞いてないけれど、こうやってお婆ちゃんに囲まれることがお爺ちゃんの夢だった。ここは夢の島だった。なんだよそれ、そんなもんの為に。毒づく子供の頭をパシーンと叩き、哮太が言う。思い出は絶対だ。誰にも口を出すことが出来ない。お前らが何をしたのかと同じように。
ぽろぽろ涙を流す一人。僕は父さんと母さんに殺されそうになったのを、逆に殺しました。俺は車で人を撥ねました。僕は爺ちゃんの人工呼吸器を外しました。ぽつぽつと自分の罪を告白していく子供たちに、うん、うんと相槌を打つのは美女。ぎゅっと一人ずつ抱き締めて行く美女。管理小屋に食料を見付けたのでついて行ったキツネさんと百目鬼。五人しかいないが、食料は二人分だ。さてどうしようと、美女が真っ先に椅子を引いてインスタントのコーヒーを淹れる。面倒なので、哮太もそれに倣った。ふとは半分こして食べなさい、笑う美女は自室に引っ込む。ふむ、と納得した哮太も同じように。マジックミラーからリビングの様子を見ると、案の定一番ガタイの良い少年が独り占めにしていた。先に美女がだめっと叫んでつるはしを持ち出す。ビビった対象が落としたゼリーやクッキーや干し肉を懐に入れて行く。そして美女の逃げなさい、と言う言葉で二人は雨の中逃げていく。良いのか、と哮太が問うと、どうせキツネさん達に見付かるだろうし。とさらり答える。
後日何とか晴れて警察に連れていかれる三人。結局二人も自首したらしい。「明日晴れる呪文として寿限無聞かされるとは思ってなかったよ」とは地元の警官。無線機直すところまでは良いけれどその後は何なんだこの人は。
美女は俯いて、美女も将来はここに住もうかなあ、とぽつり言う。固定資産税がえげつないぞ、と言うと、そうだね、と笑われる。その笑顔が消える前に両脇から先輩二人に掴まえられる。さあ、水着の時間だ。連れていかれる声に、ぽんっとお巡りさんに肩を叩かれる。絞ってお付き合いした方がいいよ、あの三人じゃ。違うと否定するもなく去って行くボート。そして髪をまとめられた見慣れないビキニ姿の乙茂内に思わず見とれていると、なんかえっちぃよ、と言われる。わたわたする哮太。さっさと海行くぞ海! と手を掴んで、その華奢さにどきりとする哮太。別に好きでも嫌いでもない。まだ、多分。はにかみながら、ビーチへの階段はあっちのなの、と逆方向に連れられて、掴んでいた手が掴まれる。身体を焼くに任せるキツネさんと、フーコーの振り子(しかも下巻、いつの間に)を読み出す二人に、助けを呼ぶ哮太。にこにこ手を振るキツネさん。だから違う、そうじゃなくって、と思いながら水合戦する二人。携帯端末でそんな二人を撮って、にんまり笑い合う百目鬼とキツネさん。夏はやっぱり海よねえ。青春ですなあ。眩しくていい感じに焼けそうだわ。私包帯だから焼けないんですよね。脱いだら? それは、はがねのよろいを失うぐらい怖いですよ。くすくす笑い合う二人と、いつの間にか競争している二人。海の仲なら俺の足だって! そう、切れた靭帯だって。
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