第6話【没】茅ヶ崎ばじるの華麗なる日常

 付き合いも良く友人も多いタイプ、隣のクラスで甘い物好きで明るい女子・茅ヶ崎ばじる。彼女は絶対にカラオケに行かない。歌うのが下手なわけではなく音楽祭では独唱を任せられるし、甘味巡りをすることから付き合いが悪いわけでもない。そう言う事もあるだろう、別にどうとも思っていなかった鵜住慶司だったが、友人・淡野の野次馬根性に引き摺られてそれを探る羽目になる。

 面倒臭いと思いながらも乞われる度に案を出すが、悉くにばじるは引っ掛からない。断り難い状況として先日の音楽祭の打ち上げとしてクラス全員でカラオケに行くプランを立てても、約束の待ち合わせ場所にボックスを使おうとしても、フードメニューのデザートが絶品だと言う情報を吹き込んでも、『カラオケはちょっと』と断る。どうやら特定の場所が苦手なのではなく建物が駄目でもないようだが――実は相当に歌が嫌いなのか。だがある日昼休みの音楽室で偶然歌いまくっているばじるを目撃した慶司はそうでないと確信し、興味を持ち始める。

 ボックスの中にあるものの何かが苦手なのだとしたら何か。閉鎖空間や暗がりか、音割れの騒音か。掃除用具入れに閉じ込めてみたり近くで子供を泣かせたりしてみるが、やはりそう言った様子は見られない。他に何があるかと考えていたところで、彼はばじるが決して雑巾掛けの掃除をしないことに気付く。また、持っているハンカチがシルクの高級品だったり、教室の戸を開けるのにいつも足を使っていたりと、行動の奇妙さを見付けて行く。考え込んでいた所で、粟野に気分転換のカラオケへと連れ出される。

 一人で歌う粟野に付き合っているのも暇で、ぼんやりとムービーを眺め続ける慶司。曲のコードが載った雑誌には口紅の広告が載っている。女優が手に商品を持って突き出しているそれに、薀蓄好きの粟野が何気なく、どうやって撮影してるんだろうなーと漏らす。

 次の日の音楽室で、慶司はばじると対峙していた。相変わらず一人でラジカセを掛け歌おうとしていた彼女に、彼は自分の推理を話す。カラオケに行かなかったのはムービーがあるからで、その中のタレントがばじるだからだと。顔は違うが、所々で映る手はばじるの物だ。

手専門のタレントがいて、彼らは商売道具である手に関して細心の注意を払う。雑巾掛けしないのもドアを開けないのもシルクのハンカチもその所為だと。自分の手だという証拠はないと言うばじるに、慶司はその手を取る。生命線が手首まで伸びてるのはあんたぐらいだ。

 ばじるの母親が手タレントで、その様子を見て過ごしてきた彼女は自然と手を気遣うようになり、同じように手タレントとして活動するに至ったらしい。後日から彼は、ばじると共にカラオケデザート行脚の旅に駆り出される。適度な艶を保つには脂肪が必要らしいが、詭弁にしか聞こえなかった。

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