第2話 戦え! 恐山戦士オソレンジャー3
匿名電話で京都の大文字山の送り火に紛れて大量のゾンビパウダーがまかれるという情報が入る。中国やロシアからの密輸船もとみに多くなっていることから三大霊嬢全員に呼び出しが掛かる。ついでに行きたがるオルガン。義務教育までは面倒を見るが高校には行けそうにないので、今のうちに修学旅行代わりに遠出をしてみたいとのこと。途中でかちあったロザリアは髪を真っ黒に染めてかむろにしていた。が、ゴスロリのまま。喪服だから脱ぐつもりはないらしい。化粧をしていないと意外と若く見える、と言うと、十六歳だよと言われる。十八歳ぐらいかと思ってた。
京都では高野散を操る小学五年の四つ子の雪之丞(ゆきのじょう)セレス・パラス・ジュノー・ベスタとも合流。霊嬢達も女ばかりなので居心地の悪い咲哉。問題の大文字山に向かう一行。時々視線は感じるが、敵意はないのに訝る。大の字に辿り着くと、一組の夫婦がオルガンを呼んだ。オルガンとよく似た風貌の夫人は、恒星月(こうせいづき)チェンバロを名乗る。いわく、オルガンの母親であると。オルガンが生まれてすぐの頃にゾンビになってしまったチェンバロは授乳もままならないので妹にオルガンを託して夫のホルンと共に日本ゾンビ国化計画を立てていた。島国だしゾンビパウダーの密輸もたやすい、何より山岳地帯が多いので一斉に人々を感染させる事か容易だからと。十三歳になったあなたとなら一緒に生きていける、言うピアノにオルガンは真夏なのに穿いていたデニールの厚いストッキングをナイフで裂いた。隠されていた入れ墨は百合の花。もう片足にはスズラン。どちらも毒草だ。子供の肌は柔らかいと言って義両親は泣き喚く五歳の私にこんなものを彫った。両腕の袖をまくると斑にタバコの痕がある。今更本当の両親が出てきたところで入れ墨は消えない。傷はなくならない。子供を捨てるほどにゾンビでいるのが嫌だったのなら、ゾンビにはならない。ゾンビにもさせない。言い放つと同時に四方八方からチェンバロの郎党が襲い掛かって来る。雪之丞四姉妹は弾込めのリズムを整えながら高野散でそれを打倒し、改修されて持ち手が鉄になった比叡斬は中距離の敵を倒していく。オルガンは以前作ったプラスチック爆弾を両親に投げつけるが、それはオソレンジャーに弾かれた。ゾンビを殺すのは僕の仕事だよ。倒れる両親は、ゾンビパウダーの袋を開けようとするが、その手はオソレンジャーに断ち切られる。
大量のゾンビパウダーが回収されたところで、オルガンは一筋涙を流す。それをロザリアが悲しい時は泣いて良いのよ、私もリルカの葬列では泣きじゃくってばかりだったのだからと諭す。糸が切れたようにオソレンジャーを抱き締めながら泣きじゃくるオルガン。ゾンビにはならないと決めた彼女の背中を撫でる四姉妹。親がいない自分には解らない事だとちょっと疎外感の咲哉。思い出すのは前任者の事。この剣を使うことで沢山の繋がりが生まれる。君が家族に選ぶだろう人ともきっと出会える。だからどうか、大切にしてくれ。
咲哉はオルガンに声を掛ける。なあ、僕達一緒に暮らさないか? 義両親もろくでもないみたいだし、今まで通り家政婦やってくれればいいから。お兄さんそれってプロポーズだよ、と騒ぎ立てる雪之丞四姉妹。最近の子は進んでるのねえと笑うロザリア。そう言えば結局あの電話は誰だったのだろうと思ったところで小さなバラックが見付かる。中にいたのはドロレスとナボコフだった。ゾンビだって一枚岩ではない、国全体をゾンビ化するなんて馬鹿げてる。そう思って裏切ったのだが、二人捕まってしまっていたらしい。お腹が洗いたいとぴぃぴぃ鳴くドロレスに抱き着いて、オルガンはまた少しだけ泣いた。
青森に帰ると相変わらず何もない。旅行はまあ楽しかったのだろう。他所の町が見れたし夜の京都は綺麗だった。そうだ、映画に連れて行ってやればよかったなと咲哉は携帯端末で知事に電話を掛ける。食い扶持が一人増えたので増給して下さい。あと出来れば2DKの部屋に引っ越したいです。1DKで十分だよとオルガンは言うが、そこはきっちりしておくべきだと断る咲哉。知事は残念そうに了承する。君は巣立ちが早いねえ、などと言いながら。だから、そんなんじゃない。多分きっと、そんなんじゃない。でもオソレンジャーは僕に家族を連れてきた。僕が大人になって誰かにオソレンジャーを託す時。そのいつかまたの時にも、彼女は誰かに誰かの家族を連れて来る。そういう存在なのかもしれない。殺すだけじゃなく、与えることもできる。何と言っても宝刀なのだから。もしかしたら賽の河原から子供も連れて来るのかもしれないな、と咲哉は小さく笑った。子宝、とも言うからな。もっとも中学生の自分達にはまだまだ遠い未来の話だが。
とりあえずオルガンには高校の修学旅行でまた京の町を見せてやろう。
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