プロットとか

ぜろ

第1話 戦え! 恐山戦士オソレンジャー

恐山戦士オソレンジャー


登場人物

・朔望月朔哉(さくぼうづき・さくや) 主人公 決め台詞『朔々(さくさく)行こうか』

・楽隠居オルガン(らくいんきょ・-) ヒロイン 女子高生 ゾンビ志願

・坂巻ドロレス(さかまき・-) 女子中学生ゾンビ 成仏反対委員会会長

・土倉ナボコフ(つちくら・-) 男子中学生ゾンビ ドロレスの奴隷 ドロレスをゾンビにした本人

・佐藤ドミートリー(さとう・-) 中年ゾンビ。実年齢は老人。角館(かくのだて)のゾンビ連まとめ役

・オソレンジャー 刀 白髪の中身ババア外見幼女 本名は『不恐邪』


ロシア名が多いのはロシアからの密入国者が多いからだ! 北国だからな!


・プロローグ

 季節風か貿易風か偏西風かサンタナか、近代になって公害のように降り注ぐようになったゾンビパウダーでゾンビ化してしまう人々が年に数十名いる世界。日本人は絶望的でも刹那的でもなかったので、大人しく役所にゾンビ証明書を発行してもらったり、他国に比べると比較的温厚にひっそりと暮らしていた。

 月のない夜に並んでいるゾンビを切っていく主人公。ゾンビは社会的弱者であるために成仏志願が多い。オソレンジャーに切られるとゾンビは成仏する。表情すら変えないルーチンワーク。

 学校で流れる噂。隣県でゾンビになって駆け落ちした学生カップルの事。数年前だがロマンチックな話として受け止められており、女子がきゃいきゃいはしゃいで話している。聞くともなしに聞いているヒロイン。ゾンビになったら歳をとらない、永遠に今のまま、青春を謳歌できる。生きても死んでもいない中間の夢のような存在になれる。浮き足立ったガールズトークは続く。

 薄暗い場所で黙って踏まれ続けるゾンビ少年。主であるゾンビ女子は罵声をこれでもかと叩き付けながらわあわあと泣くのを繰り返す。それを眺めながら、少年はこの時が永遠に続くことについてを考える。彼女は満足だろうか。自分は満足だろうか。考えるまもなくまた背中を踏まれる。痛みはないが、楽しいのかも判らない。


・出会い

 主人公とヒロインの通う中学。ダウナーな主人公は校内でもゾンビ退治屋として知られている。ただしゾンビの。ある日ヒロインに校舎裏に呼び出され、突然口に拳を突っ込まれる。ゾンビにならないと不満を言うヒロインに、ゾンビじゃないと告げる主人公。彼女はゾンビ志願。ゾンビも楽じゃないよと言い残して去る主人公。家に帰ると幼妻ごっこをして待ってるオソレンジャー。飯は江戸時代の粗食。おかずを作り足しながら、境遇。恐山の麓に捨てられていた以外は恐山と何の繋がりもない、なのにオソレンジャーを押し付けられている。今日はゾンビ志願の子に会ったよ。なったら殺そうのう。オソレンジャーはゾンビに容赦がない。子供は好き。電話が鳴る。県知事。ゾンビ害が秋田で出てる。孤児院が税金で賄われていたので抵抗できない。失敗したら尻を掘られる。県知事は代々何故か尻好きで、主人公がオソレンジャーを渡されたのも知事好みだったから。尻を守るために旅支度をする恐山戦士。

 それを盗聴器で聞いているヒロイン。先日学校をサボって訪ねた折に仕掛けておいた。オソレンジャーはいやに懐いてくれたが、ゾンビにとってオソレンジャーは敵なので複雑な気分。童、童と呼ばれたのは若干気恥ずかしかった。隣の部屋からは両親が怒鳴り合う声。自分に矛先が回って来ない事を願う。家の中はいつも喧騒に満ち、ヒロインの耳も幼い頃に空けられたピアスの痕で歪な形をしていた。脚には刺青すら入れられて、親の玩具になっている。プラスチック爆弾や盗聴器はいつか親をどうにかする為に覚えたり購入したりしていた。しかし今はゾンビと言う救いを見付けた。親が寝静まった後、先回りのため駅へ向かう。そこにゾンビがいるならば、自分はゾンビにならなくてはならない。

 一方成仏反対委員会。ドロレスが金切り声を上げながらオソレンジャーに活動がばれた事をナボコフに八つ当たりしている。されるがままでいるナボコフ。ちょっと牧場を襲って生肉食って、この世にいたいだけなのに。思春期特有の情緒不安定に泣き出すドロレスをドミートリーを始めとした大人達が慰めようとするが、ナボコフは面を入れられる。ドロレスは存命時剣道少女だった。胴も思いっきり食らって地を這うナボコフに、泣き喚くドロレス。他の大人ゾンビが頑張って生き延びようと励ます。ナボコフはその様子をぼんやりと見詰めている。


・ゾンビトーク

 ローカル線を乗り継いで秋田の角館(かくのだて)に向かう主人公。竹刀袋にオソレンジャーを隠して、音が鳴らないようにメンディングテープでガチガチに固めてる。オソレンジャーさんですかと声をかけてくる中学生。どうして判ったのかと問うと、剣道部なら胴や垂れを入れたバッグも持っているはずですから、と言われる。なるほどと納得していると、僕の好きな人は剣道部だったんですと少年は言う。いつも重そうにしていて大変そうだったなあ。過去形を問うと曖昧にごまかされ、同じ駅で降りたはずなのにすぐに見失ってしまう。少年の学ランに隠された、それでもいやに凹んだ腹を思い出しながら、主人公は地図を見て件の牧場に向かう。主の娘に案内を受け、主に襲われる厩舎へ。電車で窮屈だったオソレンジャーは、その辺に放す。

 牧場で主人公を見付けストーキングするヒロイン。先回りして待ち構えていた。人型になったオソレンジャーに見付けられ、先日の童だと懐かれる。主人公に見付かりそうで気が気ではないが、自分に懐いてくれる童女は素直に可愛らしく、一緒に体験モノやお土産を見て回ってはちょっと楽しくなったりする。同時に、親さえいなければ自分もこうして普通の少女のように振舞うことが許されるのだと、より強くゾンビへの憧れを持つ。主人公に見付かりそうになって慌てて姿を隠すと、日は暮れかかっていた。

 人質がいれば大丈夫だとドロレスをなだめる成仏反対委員会。牧場の娘でも攫おう、上手くすればずっと手出しさせないで置ける。ナボコフの提案に、現実的ではないと思うドミートリー。ゾンビとして数十年を死に損なっている彼には、永遠と言う物は判らないし、判りたくもない。そっと腹を撫でさするクセは抜けない。ドロレスはナボコフをなじりつつ、提案自体には希望を持つ。殺されずに済むのなら、今がずっと続くのなら。お願いされてゆらりと立ち上がり武装する大人達。ドミートリーは元ロシアンマフィアで武器の調達を担当していた。ゾンビ達の中で子供なのはナボコフとドロレスだけだった。


・ゾンビトークその2

 子供と遊んでいた、と言うオソレンジャーと夜陰に潜みながら、彼女との出会いを思い出す。十歳の時、前任者は若い男で、同じ孤児院出身だった。家族が出来るんだと言って嫁の肩を抱き、彼はオソレンジャーを主人公に託した。君にも家族が出来る。抜いた刀は当時の主人公より少し年上の様相をした少女に転じた。ゾンビでない確認にがぶりとこぶしを噛まれ、驚いたこと。その日から一人と一本で暮らしてきたこと。それを後悔したことはあまりない。思い出に浸っていると十人ほどの成人男性ゾンビがそろりと入ってくる。月のない夜、オソレンジャーの鍔鳴りに浮かぶような彼らの姿に主人公は戦闘。全勢力とは考えにくいから何人か残して本拠地を探らなければと、鞘を付けたまま戦う。すると女の短い悲鳴が響き、生肉(牛とか)と一緒に去っていく一団を見付ける。陽動に引っ掛けられた、悲鳴は牧場の娘か。もし自分の失態でゾンビが不用意に増えるようなことになれば、尻を掘られる。しかし娘は無事で、第三者の存在に驚きつつ、主人公は地元民の娘にゾンビ達の溜まりそうな場所を訊く。

 ドミートリーに抱えられ、謝られながら運ばれるヒロインは、思わず悲鳴を上げたことを恥じていた。これが望みのはずなのに情けない。いやに大人しいヒロインに、ドミートリーが訝る。ゾンビの所に行くんですよね、と確認をするヒロインに、頷くドミートリー。私はゾンビになりたいんです。今齧ってくれても構いませんと言うが、ドミートリーは首を振り、君にはあくまで人質でいてほしいんだと諭すように言われる。訝りながら運ばれるヒロインは、一日前の同じ時間との違いにそれでも笑っていた。喧騒の聞こえない静かな夜はそれだけで幸せだった。一人きりでいることが、ただ幸福だった。

 ヒロインに少し人見知りしながらも、ドロレスは年を聞いたりおしゃべりをしたりする。生きてたら年上だったのよと笑うドロレスと、それを眺めてちょっと複雑そうな顔をするナボコフ。割と盛り上がってる二人に疎外感を覚えるが、近付こうとするとドロレスに睨まれる。ナボコフをゾンビにした前科のあるドミートリーははらはら二人を眺めるが、仲の良さそうな様子にほっとする。年の近い友達なんかいなかったから、嬉しいのだろうと。少し饒舌になるヒロインは、自分の親の酷さを笑い混じりに話す。興味深そうに、楽しそうにその話を聞いていたドロレスは、しかしゾンビになりたいと零すヒロインに、態度を豹変させる。


・助けに行く

 山影の古い集会所を襲撃する主人公。案の定ゾンビ達がたむろしているが、彼らは特に抵抗することなく次々にオソレンジャーに切られていった。様子がおかしい、一人捕まえてみると、成仏反対委員会で本当に成仏したくないのはドロレス一人だということが判る。他の地域ゾンビはまだ夢も希望もあった女子中学生だったのにゾンビになってしまったドロレスを憐れんで、その手伝いをしているだけだった。ならその一人だけを殺せばとこに問題はないな、と言うオソレンジャーに、しかし襲いかかってくるゾンビ達。彼女だけは守る、それがゾンビになった彼らの唯一のプライドだった。銃火器を持ち出すゾンビ達、それを容赦なくたたき切っていくオソレンジャーと、無表情に腐った返り血を浴びる主人公。真っ先に死んでいくドミートリー。ちらりと見えた奥へ逃げて行く少年の後姿は、片腕を失っている。主人公はタレコミをしたのが少年だと悟る。電車で会った少年。ここに来ることを知っていたゾンビ、ナボコフ。腐りやすい内臓は最初に取り除いてしまうから、ゾンビ達の腹は不自然に抉れている。奥、ドロレスの元に辿り着くと、ドロレスがヒロインの首を絞め上げていた。

 ナボコフもゾンビ志願だった、そしてドロレスをゾンビ仲間にした挙句二人とも家族に捨てられた。ナボコフと同じことを考えてるならこいつもゾンビにしてオソレンジャーに殺させてやる。そんなドロレスを必死で止めるナボコフ。ナボコフはドロレスが好きだった。しかしドロレスはナボコフを知らなかった。だから同じゾンビになろうと思った、でも間違ってた。だからその子は助けて。ヒロインは宙吊りになりながら、死にたくないと呟く。私だって死にたくも死に損ないたくもなかったとドロレスが泣き喚く。隙を突いて剣の峰でドロレスとナボコフを弾き飛ばす主人公とオソレンジャー。噎せて咳き込むヒロインに、これがゾンビの現実だと告げる主人公。生きてても生きてない、リビングデッド。およそ普通の食事は望めず、老化は身体が腐れ落ちると言う醜さを伴い、常に空腹と本当の死に怯えている。でもかわいそうに、半分は生きてるんだ。だから殺人はしたくない。ゾンビにしてオソレンジャーに切らせようとしたのが、その何よりの証拠だ。でも地域の産業に被害を出したからには成仏してもらうと告げる主人公。しかし息を整えたヒロインは落ちていたカラシニコフを拾いオソレンジャーの刃を薙ぎ払う。ゾンビ以外に効力を持たないオソレンジャーが刃を消して生首だけ出してヒロインを宥めあやそうとすると、ヒロインはゾンビ二人を庇って立ちはだかる。逃げて、と声を張り上げるヒロイン。戸惑う面々に、ヒロインは反動で吹っ飛びながらも銃を撃つ。自分や他人の生死に白黒付けるぐらいなら、いっそ灰色の存在になりたかった。生きた死体になりたいと思った。だから自分は死に損なっていたい『先輩』であるドロレスやナボコフを逃がす。その為に戦うなら、『人間』である自分が一番の盾になれる。

 ナボコフは撃つたびに吹っ飛ぶヒロインと、怯えて耳を塞ぎ泣きじゃくっているドロレスを見比べ、叫びながら二人の間に入っていく。オソレンジャーの斬撃で千切れた自分の腕を振り回し、ヒロインの弾丸も身体にめり込ませながら、斬られれた腕を振りかぶる。ゾンビ相手なので刀に戻るオソレンジャー。ドロレスが好きだと叫ぶナボコフ。彼女がゾンビでいたくないなら成仏したいのかと思った。でもそれは違った。彼女はそれでもこの世にいたい。だから守る。打ち込んで行く足裁きが、剣道のものだと気付くドロレス。ずっと見ていたから。しかし力量の差、主人公が腹に一薙ぎ入れると、学ランが切れて抉れた腹が露になる。自分のために勝手にゾンビになったナボコフは、何を思い詰めて。ドロレスは自分の竹刀でナボコフを薙ぎ倒し、切られそうになっていた彼を助け担ぎ上げる。取れた腕を投げてガラスを割った窓から逃げて行く二人。その窓に立ちはだかるヒロインの手にはプラスチック爆弾。集団でなくなったゾンビは無力、ならその前にここの地域ゾンビを成仏させるのが先かと、大部屋に戻る主人公。そこに列を作っているのは成仏志願のゾンビ達、主に力がなく控えていた女達だった。切り殺されたゾンビ達は綺麗に横に寄せられている。オソレンジャーを開放すると、少女姿の剣は簪をはずして長い髪を解き、その髪を広がらせながら踊り舞う。髪に触れたゾンビ達はぱたりぱたりと成仏していく。止めないの、とヒロインに聞く主人公。彼女達はそうなりたいんだから構わない、と答えるヒロイン。もしかしたらまた邪魔するかもねと笑うヒロインに、主人公は困ったような苦笑いをする。初めて笑った、と言われ、そっちもね、と言われる。


・エピローグ

 ドロレスとナボコフ二人を逃がした罰として知事に三時間尻を揉まれた主人公は憂鬱だった。しかし校舎裏にヒロインに呼び出され、今度は購買で買ったマスクをして行くと、もうあれはやらないと言われる。適当に成長して自分の命や親の命にもその気になれば白黒付けられるようになってしまった。だから自分は灰色になって白黒の世界から弾かれるべきだと思った。でも、ああ言うゾンビもいるなら、もう少し生きてみようかと思う。ゾンビを守る人間として、たまには邪魔もしてみようかと思う。だから家に付けた盗聴器は外さないでね。

 オソレンジャーが家族になった日、前任者は家族を失っただろうか。それとも彼女はあくまで代用だったろうか。子供が好きな霊刀。自分達を子供と断じた剣。いつか彼女を次に託す日が来る。多分誰かを愛して。それはあのゾンビ二人のような、どこか眩しい愛なのだろうか。まだまだ遠そうではあるが、今日も自分達は一日ずつ大人になって行っている。あのゾンビ達には出来ない尊い一日の積み重ねを。いつかは自分もヒロインも、大人になるから。

 駆落ちしたゾンビの噂はまだまだガールズトークの中で生き続けている。今年のゾンビパウダー情報は、やや強めたった。

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