雲人が手伝ったおかげであの足の踏み場すらなかった部屋が片付いていき、綺麗にインテリアを仕上げることが出来たのである。

 ただこの手伝いで雲人が気づいたことは美雪はものを片付けることが全くできず、部屋の飾り付けも下手くそであるということを知った。というか色気のない飾り方をしていた。


「まぁ…こんなものか」


「ありがとう…」


 今度は先程とは違い素直にお礼を言っていた。流石に自分のダメさに気づいたのだろう。深々と頭を下げていた。


「お前って仕事はできるけどそれ以外ダメだったりして?」


 少し意地悪をしたくなった雲人は失礼なことを聞いてみた。流石にそれにはキッと雲人の目を睨みつけていた。

 しかし、図星のようなのか言葉には発するということはなかった。


「他にやることはないか?」


「あとは生活必需品と食料を買うくらいかしら…」


「なら荷物持ちが必要だろ?俺もいくぜ」


 まだここに来たばかりであるため、家具などはあっても大事な生活必需品などはまだ存在しない。


「ありがとう…」


 先程まで自分がバカにしていたにも関わらず、嫌な顔や拒否したような素振りを見せず、むしろ率先して手伝ってくれた彼に少し好感を美雪は持っていた。

 その後2人は北側ノースブロックにある巨大複合型商業施設 バロックモール へとやってきた。

 大きな商業施設だけではなく遊園地も隣接しており、平日でもなかなかの賑わいを見せている。

 今回は遊園地には要はなく商業施設の方である。



「で、何を買うんだ?」


「そうね…食料は鮮度を保つためにあとがいいからとりあえず生活必需品ね」


 そう言うと、雑貨屋へと向かっていった美雪である。それに続くようにして雲人も行った。途中でカートを手に入れてものを次から次へと入れていく。


「包丁…食器…お玉、鍋フライパン…」


「おいおい…調理器具ばっかりじゃねぇか…」


「大学時代は寮生活だっから必要なかったんです」


 そう言うと、次から次へと調理器具を入れていく。それだけでカゴはいっぱいになっていた。

 調理器具が終わると今度は風呂場やトイレなどに必要なものをたんまりとこれまたカゴいっぱいいっぱいいや、それ以上を買う気である。

 そんなキャパオーバーしているカートに他の客は物珍しそうにいや、若干引いて見ていた。


「持って帰る時きついぞ…」


「そのために先輩は車を出してくれたのじゃないですか?」


「いやこんなに入んねぇよ…バカか?バカなのか?」


 美雪のためにと思い、車を出していたのだったが、雲人の車はセダンタイプの車だ。そしてセダンというのは後ろの座席にそんなに詰めれるものではなく、トランクを使ったとしても雲人の荷物も入っている異常限界があるのだ。


「そういえば…冷蔵庫と電子レンジとオーブンがないわ…よし」


「いやまて!何が「よし」なんだよ!良くねぇよ!入んねぇって言ってるだろ!?」


「大丈夫でしょ?気合いがあれば入りますよ」


 美雪は表情崩さず淡々と冷酷なことを言ってのけた。彼女は雲人の車を壊したいのだろうか。これ以上はもう入らない。それなのにまだ食材も買っていない。だとすると、車の中はとんでもないことになってしまう。


「ウソだろ…」


「本気です」


 彼女には雲人の車のことなどどうでもいいのだろう。むしろ、ここぞとばかりに彼に意地悪をしているようでもあった。

 電化製品を自力で持って帰るかどうかはさておき、家電量販店のテナントへとやってきた。

 彼らがやってきた家電量販店 《カワカミ電機》は冷蔵庫にテレビ、電子レンジから固定電話、電気シェーバーにウォークマンなど様々な電化製品が部門別に置かれ、かなり豊富な品ぞろえである。


「まずは冷蔵庫ですね」


「一人暮らしだからそんなに大きいのは要らなそうだな」


「いいえ、大きいのがいい」


「…。あそ…」


 彼女からの返しはやけに冷淡で否定しがちである。しかしそのようなことに一々気にするのも面倒になってきた雲人だった。

 まずは冷蔵庫のコーナーへとやってきた。最近出たものでは瞬間冷凍が可能なものや冷蔵庫内の食材を把握して献立を考えてくれるAIが埋め込まれたものがある。


「ほぅー最近のやつはすげぇなさすが《ラスト・エデン》の科学力だな」


「科学も日々進歩していってますね。あとはその方向性が間違わなければいいんですが…」


「まぁ…人が作る以上、間違いってのは起こるものさ。その間違いを正すためにいるのが俺たちだろ?」


 この《ラスト・エデン》では小規模のものであれば報道されないような事件は多々ある。

 それだけではなく、政府そのものが圧力をかけて報道させないような黒い事件も然り。

 決してこの人工大陸は治安がいいとは言えない。

 つい最近も南側の方でテロ事件があったりしたのだ。大体の事件に絡んでくるのは西側と東側、つまり魔法と科学の対立というものだ。

 まるでかつて《旧人類》の時代にあった冷戦のようであると人類歴史学者は語っている。

 雲人たち双極管理監察官アフィスバエナはこの対立する二つの勢力の抑制と均衡を保つのに大切な役割を果たしている。


「そういえば、あなたこの前起きた南側での過激派テロ組織 《ナイトメア》が起こしたテロ事件を解決したのよね?」


「あぁ、そうだな…。てか一応俺先輩なんだから敬語とか使わないわけ?」


「別いいでしょ?私は尊敬する人しか基本的に敬語で話さないから」


 何とも傲慢な理由だろうか。これを聞いて雲人は開いた口が塞がらない状況だった。

 だとしたら、上層部の人間に対してはどのように話すのだろうか。敬語かはたまたタメ語か。どちらにせよぞっとしてくるものだった。


「まぁ…あのテロ事件を解決したってこともあるから一応敬語で話しますね」


「お前は一々、癇に障る言い方をするよな」


 傲慢の化身とも言うべきか、高学歴の人間との付き合いはいくつかあるがこれほどに無礼な奴はいないと雲人は心の中で感じていた。

 そんな話をしつつも、冷蔵庫の見ては性能などを見て買うかどうか吟味していた。



「まだまだかかりそうだな…。あ、そうだこの前買った電気シェーバーの洗浄液買っておこう」


 電気シェーバーの洗浄スタンドにつけるための洗浄液のストックがないことに気づいた雲人は折角来たのだから買っていこうと考えた。


「仁王。俺は電気シェーバーのコーナー見てくるから終わったら連絡してくれ」


「そうですか。わかりました。ごゆっくり」


 口調は相変わらずの冷淡ぶりであった。雲人からしてみれば可愛げのない女だと感じていたが、別に一緒にいても見るだけならば、いなくてもいいだろうと考え電気シェーバーのコーナーへと行ったのだった。

 平日にも関わらず、多くの人で賑わっているこのバロックモール。そんな中で明らかに場違いな黒いフード付きのローブを身にまとった不審者と呼ばれても仕方ないような人物がいた。

 すれ違う人々は思わず振り返ってしまうような異様な気配を感じていた。


「復讐を…」


 感情のこもっていない無機質な口調で恐ろしい言葉を発していた。フードか少しだけ見える鮮血のような赤い色の瞳には憎悪のようなものが感じられる。

 この人物が向かっている先にあるのは雲人達のいる《カワカミ電機》のテナントであった…。



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Real or Lie 石田未来 @IshidaMirai

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