IV
「やっぱりかい!!!」
思わず叫んだ。いや叫びたくてたまらなかったのだ。なぜなら、彼女仁王美雪の新居というのは雲人の住むマンションと全く同じであったためである。
それにしても幾つかある《ラスト・エデン》管轄政府 《ヤハウェ》の所有するマンションで同じになるとは偶然というか運命というか。
「ここの708号室です」
「何!?俺の隣じゃねぇか!!!」
さらに驚く事が起きていた。それは彼女の部屋の隣である709号室が雲人の部屋であるからである。
まさかの出来事に唖然としていた。自分の相棒がまさか同じマンションの隣同士になるとは考えることなんてできだろうか。
「そうだったんですか?あーあ…残念」
「おい、どういう意味だ」
彼女の今にもため息ををつきそうな顔に納得がいかなかった。
こちらこそ、ため息がつきそうだと言うのに、そんなこと彼は考えていた。
とりあえず、ここの管理人の所へと行き、書類の提出と鍵を貰い、部屋へと入ることにした。
中は無造作に置かれたダンボールばかりであった。管理はしているとは言えどもやはり細かいところを見ると汚れやホコリがあった。
「掃除が必要ね」
「まぁ、そうだな。書類提出とかも終わったし俺は家でのんびりとするか」
とくに仕事がない今日はもう終わったようなものである。
それにこれはボランティア的なものであるため、残念ながら賃金は発生しないため、無駄なことである。
自分の部屋へと戻りのんびりと過ごすことにした。
その時、美雪は何か言いたげな表情をしていたが、見向きもしない雲人にムスッとしており一人で片付けを取り組み始めた。
ガチャ…
「ふぅ…とんでもないやつが相棒になりやがったな…大丈夫なのか?」
自分の部屋へと戻り新しくなった相棒に対して先が思いやられていた。
立場上では自分が先輩であるが、彼女とは同い年であり、向こうはキャリア持ちであるエリートである。
よく彼の職場で聞く話では、キャリア持ちの連中は雑草組(高卒ノンキャリア)を見下しており、独断行動をしがちであると言われる。
だからこそ、雑草組はキャリア持ちを毛嫌いしているものも多いのだ。
しかし、キャリア持ちは快速電車のように素早く出世をしていく。彼らが上司になれば、雑草組は嫌でも排除されるのだ。
「それにしてもあいつ…一体者なんだ?」
一応相棒についての一通りの資料は配布されており、目を通すことにした。
パラパラと資料をめくっていくと、彼女の経歴が写真付きで書かれていた。
「バベル大学出身…しかも首席!?…やべぇな…」
バベル大学とはラスト・エデンでは知る人ぞ知る学力が非常に高く天才を多く輩出する超有名大学であり、王者の証などと言われる。
そこに入学し、卒業するだけでも化け物の地味ているにも関わらず、首席というのはもはや別次元の話である。
「おいおい…とんでもねぇやつが相棒になっちまったじゃねぇかよ…持て余すわ!!」
雲人は思わず資料を叩きつけてしまった。しかし、そうなるのも無理はない。簡単にいえば、草野球チームに何十億稼ぐ超一流プレーヤーが混じっているような状態である。
想像しただけでもぞっとしてくる。この事態に落ち着いてはいられないが、決まってしまったものはどうすることもできない。
とにかく、今までとは違ったアプローチをしなければならないのだ。
「ふぅ…とりあえず落ち着くためにコーヒーでもいれよう」
台所に行き、戸棚からインスタントコーヒーの瓶を取り出した。そして、コーヒーの粉と給水器を温にして注いだ水をカップに入れた。
その時、壁から何か大きな破裂音のような音がした。それだけではなく、高いところから物が落ちてきたような音と様々な音が聞こえた。
「あいつ大丈夫なのか?」
とてもじゃないが安心できるような状況ではない気がしてきた。
コーヒーを口に含みゆっくりと喉を通らせていき、身体を落ち着かせていた。
コーヒー独特の香ばしさに加えて程よい苦味がたまらなかった。
ドサ!!!ドドドド!!!!
「………」
あまりの音に気になって味わうことが出来なくなってきた。仕方なく、彼女の様子を見に行くことにした。
「おーい…大丈夫か?」
「あ!!、ちょっと…!!」
気になって美雪の部屋に入っていくとそこには信じられない光景が広がっていた。
段ボールは雪崩が起きたように崩れ、ものは散らかり、足の踏み場もほとんどないような状況であった。
一体どのような片付け方をしたらこのようになるのだろうか。甚だ分からなかった。
「何があった?」
「いや、その…片付けを…」
「いやどう見ても片付けでなったような状況じゃないだろ?」
説明するにしても下手すぎると言わざる負えないほどの汚さ。むしろ、片付ける前の方が何も無くて綺麗だった。
ただし彼女は全く冗談を言っているような顔ではなかった。だとしたら本気でやってなったのかもしれない。
「もしかして仁王…お前片付けが下手くそなのか?」
「だ、黙りなさい!たまたまこうなっただけよ!!」
必死に醜態を隠そうとするものの、それは一人で隠せるものではない。
この時雲人はもしかしたら、学以外は意外とズボラなのではと彼女に対して思うようになった。
いくら散らかしてもこのようにはならない。
「で、どうすんだよこれ?」
「片付けるに決まってるわよ…」
「お前一人で?」
「…」
黙り込んだ。どうもこの女は素直じゃない。一言手伝って欲しいといえばいいものを押し黙ってはどうすればいいか分からないではないか。
ここで自分から声をかけるのはいけないと雲人は考えた。
「黙ってちゃ分からんだろ?」
「…って…」
「え?…なんて?」
「手伝ってください!!!」
顔を赤らめて恥ずかしさを出しつつ叫んだ。
この表情を見た時雲人はしてやったりの顔を心の中だけしていた。
エリートでも案外粗はあるのではないか?そんなことを考えていた。
「はいはい。さっさと終わらせるぞ」
このゴミ屋敷のような所一刻も早く人の住めるような環境にする。それが今日の仕事のような気がした雲人であった。
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