3年の間に恋愛してない奴は、島流しへ

ちびまるフォイ

恋愛島の鈍感主人公

「恋愛をしないことは罪です!!

 恋愛ができない人間はすべて島流しとします!!」


偉い人が決めた法律により、

未恋愛期間が3年以上続いている人間は強制的に拉致され

恋愛島と呼ばれる場所へと島流しされる。


俺が島に閉じ込められたのは、対象となる20歳の誕生日だった。


「うそだろ……本当にこんな場所があったんだ」


どこかで都市伝説なんじゃないかと甘く見ていた。

島には恋愛を3年以上していない人間が強制的に連れてこられていた。


「みんな、集まってくれ。島に新しい人が来たよ」


まるで転校生でも紹介するように呼びかけると、

島にちりぢりになっていた人たちがぞろぞろと好奇心に駆られて集まる。


「この人が今日から恋愛島にやってきた人だよ。

 なにかとわからないこともあるけど、

 積極的にコミュニケーションをとっていこうね」


「よ、よろしくお願いします」


まばらな拍手が起きた。


ここにいる人間はすべて恋愛経験にとぼしい。

黄色い歓声だのは夢のまた夢だ。


紹介が終わるとみんなぞろぞろと自分の場所へと戻っていく。

無人島のようなサバイバル空間なので家などはない。


「あの、俺はどうしたらいいんですか?」


たまらず島にいるナビアンドロイドに尋ねた。


「恋愛すればいい。恋愛を認められれば島から脱出できる。

 性的なことをしたりすると、ペナルティとして殺されます」


「恋愛ったって……」


へい彼女、とでも声をかければいいのか。なんだそのチャラ男。


恋愛島での生活がはじまって数週間すると自然と生活には慣れた。

そのうち、恋愛もあるのかと思っていたが、相変わらずなかった。


「恋愛ってどうやって始まるんだろうな」


「それはもう自分からアピールするんですよ。

 好きかどうかなんて関係ありません。

 自分が好きになっているふりをすればいいんです」


「えっ」


「だいたいの人は、自分が好きな人を好きになります。

 偽物でも言い寄られれば興味を持って、本当の恋になりますよ。

 そんなもんです」


「ええ……ドライですね……」


「恋愛映画だの恋愛漫画だのの見すぎですよ。

 あなたはロミオでもなければ風早君でもない。

 この島に流された恋愛不適合者なんですから、努力して恋愛してください」


アンドロイドはオブラートという概念がないのか

研ぎ澄まされた刃物のような言葉で切りつけてくる。


「恋愛かぁ……」


特別したいとも思わないのはなぜだろう。

欲しくもない高級車を買わなくちゃいけないみたいな気分だ。


「あ、あの……」


「はい?」


ふと顔をあげると知らない女が立っていた。


「今って時間、ありますか?」


「はい、なにかあるんです?」


「いえ、そういうわけじゃなくて……その……や、やっぱりいいです!」


女はどこかへ行ってしまった。いったい何なんだ。

この出来事を恋愛島にいるほかの男に話したところ、みぞおちに蹴り入れられた。


「ぐっほぉ……な、なにするんだよ……」


「この野郎!! 自慢か!? 自慢しに来たのか!?」


「ち、ちがうよ……相談したかったんだって……」


「そんなのあらゆる角度から見て、お前に好意があるんだろうが!!

 そもそも!! 女子から声をかけられるシチュエーションじたいそれだろうが!!」


「マジか」


「もちろん受けるんだろ? 愛をはぐくむんだろ?

 やっとこの孤島から現代文明に戻れるんだぞ? 受けるだろ?」


「う、うーーん……」


「なんで悩むんだよ!? お前あれか!?

 ちゃんと恋愛は両想いにならないととか、お互いの気持ちに気付いてとか

 青臭い高校生みたいなこと考えてるのか!?」


「ちがうよ、俺はただ……」


恋愛に関心が持てないだけ。


そう答えると、なんだか上から目線で「恋愛はできるけどしないだけだぜ」と

独身貴族のようなイヤミになりそうなのでぐっと言葉を飲み込んだ。


その後も、女からのアプローチは続いた。


「あの、おはよう……ございます」


「あ、どうも」


女側もまずは自分を認知して「知ってる人」になりたいのか

俺が島で起き出す時間を狙うようであいさつを始めてくる。


「今、みんなで島の食料を探しているんです。

 よかったら、どうですか?」


「はぁ」


次に、二人きりだと警戒されると思ったのか

島のみんなで食料探しという名の集団デート企画へと誘われる。


女としては露骨な好きアピールはしないまでも、

徐々に「この子、俺の事……」と意識してもらいたいというのが分かった。


「で、どうなんだ? 好きになったか?」


「いや……」


「なんでだよ!? お前ホモか!?」


「ちがうよ。お前だって、フランスの超高級マカロンもらったらどうする」


「なんだそのたとえ。マカロンなんて食ったことないし

 別段うれしくもないな」


「そんな感じ」


「女の子の初々しいアプローチを、マカロンにたとえるお前の心のなさが心配だよ……」


それからも女のアプローチは徐々にエスカレートしていった。

慣れてきたのか、鈍感だと思われているのかわらかないが

恋愛教本をそのままを実践するみたいなものばかりだった。


「あの、怖いので……一緒に来てくれませんか?」


「前にひとりで食料探してたよね」


●恋愛の極意1:男は頼られると嬉しい!!!



「あのっ……怖いので手つないでいいですか?」


「ごめん、さっきトイレ行ったあとで水辺まで待ってもらっていい?」


●恋愛の極意2:さりげないボディタッチ!!!



「私、実は……胸が大きいのが悩みなんです」


「前のめりにコケてもクッションになるじゃん」


●恋愛の極意3:プライベートな悩みを相談する!!!



自分では普通に受け答えしていたはずだが、

好き好きアピールを受け流してのカウンターを行うことに耐えきれなくなった女は


「私、あなたのことが好きです!!」


ついに伝家の宝刀を抜いた。


「持ち帰って、鋭意検討します」


「なんでビジネス対応!?」


その場では答えが出なかったので相談することにした。

男からは祝福と書いて「ぼうりょく」と読む優しさを受け取った。


「もちろん受けるだろ!?」

「やったじゃないか!?」

「現実に復帰おめでとう!」


「……うーーん」


「え、この期に及んでまだ何か悩んでるのか?

 断ったら断ったで、この島にいづらくなるぞ? 生き地獄だぞ?」


「考えたんだけどさ、俺がここで了承して現実に戻っても

 彼女の好意に釣り合うだけの好意を返せないと思うんだ」


「やべぇぞこいつ。恋愛こじらせてなんか言ってる」


「全然知らない人から好き好き言われてる感じ。

 嬉しいっていうより、なんで?って気持ちがまだ強いんだ」


などとのたまっていると、股間を蹴り上げられた。


「ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇよ。

 最初は好きじゃなくても、だんだんと恋に発展することもあるだろ!」


「というか、彼女のアプローチを無視しているのを見せられると

 こっちが劣等感でケツ毛燃えるんだよ! 周りの迷惑考えろ!」


「鈍感主人公のつもりか! ぶっ殺すぞ!!」


男からの非難ごうごうでけり出されるように女の下へと向かった。


「あの、やっぱり……ダメですよね。

 本当はわかってたんです、私はなんでもないってこと」


「いや、いいよ」


「え!? 本当ですか!?」


「うん、俺でよければ……」


かくして、俺たちはカップルになって島から脱出した。

彼女を好きになるための努力がはじまる。





3年後、俺はふたたび島流しされた。



「結婚島に流されたようですね。

 カップル成立から3年の間に結婚の話すらチラつかないと

 この島に流されるんですよ」


俺はいまだにあの時の告白を受けてよかったのかわからないでいる……。

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