第5話「神紋章」

冒険者ギルドの依頼掲示板前でローゼさん、フェリジアさんの2人にパーティー勧誘を受けた僕はあの後、受付カウンターへ戻りパーティー加入の申請を済ませた。これで3人パーティーの成立だ。


僕たち3人はテーブルを囲い、軽い飲み物と食べ物をつまみながら改めて自己紹介をしていた。


「私は冒険者ランクD級のヒーラー、ローゼ・クラールハイレンです。えっと…ある程度の傷ならすぐに直せます!よろしくお願いします」


「私は冒険者ランクD級のローグ、フェリジア・ブランモーネだ。見ての通り狼属のセリオンだ。力と素早さには自信があるぞ。よろしくな」


「僕はシノ・コーセガルです。先ほど言った通り、ついさっき冒険者登録をしたばかりのランクE級の剣士です。よろしくお願いします」


僕が自己紹介をした後、ローゼさんが手を挙げて質問を投げかけてきた。


「あの、シノさんの出身ってどの辺りなんでしょうか」


「出身…?えーっと…」


これは困った。別の世界から来たことを言っても絶対に2人には理解されないだろう。そう推測した僕は、冒険者登録のときの場面を思い出し、すぐさまポーチから“ファングカード”を取り出した。ファングカードは、この世界の身分証明書として必ず国民は所持しているというもの、と受付嬢のレイナさんから聞いた。身分証明書ならば、出身などの情報も記載されているはず。


あった。≪東(イースト)大陸 - シロード町≫。今いる都市プレリュードと同じ大陸という点では、生まれた町から冒険者になるためにここに来た、と言えば納得がいく。


「東大陸のシロード町出身で、その町で鍛錬してから冒険者になるためにここプレリュードに来ました」


「そうなんですね!私たちはこのプレリュードで生まれ育ったので、もしかしたら一緒なのかな…と思いまして」


「なるほど…」


フェリジアさんもテーブルにあるポテトチップスのような食べ物を食べながら話し始めた。


「私とローゼは昔っからの幼馴染で、冒険者になるために協会が設立した冒険者学校に通ってたんだ。大体1年前にその学校を卒業して、晴れて冒険者になったのさ」


「冒険者学校…」


冒険者になるための学校。想像ではあるが、恐らく魔法や剣術の授業を毎日受けるような感じだろう。現実の世界の学校よりも断然面白そうだ。行ってみたいなと心の中でそっと思った。


「そういえば、シノは今何歳なんだ?私とローゼは16歳なんだが」


「ちょっとフェリジアちゃん、年齢まで…」


ローゼが少し慌てた動作をするが、一応ここで年齢も明かしておいた方が良いだろう。現実の世界だと、まだ誕生日は迎えていない高校2年生だったので16歳。同い年だ。


「16歳です」


僕が年齢を口にしたその時、2人は一瞬固まった。


「…ってことは、シロード町の冒険者学校に通ってたのか?」


「シロード町にも学校ありますからね」


「いや、通ってませんでした…」


『『 えっ!?  』』


また2人は驚嘆した表情を見せ、驚きの声を上げた後、フェリジアさんが凄い勢いで立ちながら話した。


「冒険者学校に行かずに冒険者の魔法契約を通ったのか!?」


あまりにも大声だったので、周りの冒険者の人たちも気にし始めていた。それに気付いているのか、ローゼさんがあたふたと慌てている。


「フェリジアちゃん、声大きい…」


「あっ、すまん…少し取り乱した」


フェリジアさんは深呼吸をした後、一旦落ち着いて席に座る。


「…シノさん、冒険者になるには一定の魔力が必要になるんです。その魔力を得るためには普通だと、冒険者学校で“魔石”を得て、魔力獲得の儀式を習っては成功させなければならないんです」


「な…なるほど」


この世界だと、冒険者になるには冒険者学校へ通うという道のりが通常通りになっているようだ。それを知らずに学校へ通わずに冒険者になれた、という点で2人は驚いているのだろう。フェリジアがまた一つ質問を投げかける。


「冒険者学校に通っていないとなると…冒険者ランクAAA級やAA級が家族にいる家系だったりしないか?」


「いや…いなかったです」


「じゃあどうやって魔力を手に入れたんだ…?自力で魔石を採集して、魔力を獲得するにも難しすぎる」


どうやって説明しようか頭の中で迷い続ける。


この世界にはまだあまり詳しくない状態で、魔力を得た方法の嘘を付くと後々大変なことになりそうだ。ここは仕方ない、2人はまだ気付いていないであろう両手の紋章にある神の力を説明するしか納得のいく理由が無い。しかし、2人の神の名前は現実の世界の神話上のものだ。この世界では通じないだろう。そこだけは注意しなければならない。


僕は両手に力を込め、光らせた手の甲の紋章をゆっくりと、2人に見せた。


「…これが理由です」


その瞬間、2人は目を丸くして完全に固まった。そしてローゼさんが身体と声を震わせながら言う。


「し、し…しん……」


「…えっ」


2人は先ほどフェリジアさんがやったように、席からとんでもない勢いで立ち、叫んだ。


『『 神紋章(しんもんしょう)!!!!!!? 』』


周りの冒険者の人たちも“神紋章持ち?”“マジかよ…”と一斉にどよめき始める。


大変な状況になってしまった。こんな状況の中、僕はどうすればいいのか分からない顔をしながら心の中で思った。


アマテラス、ハデス、何とかしてくれ―――





-----





あれから少し時間が経って―――


流石にあの状況で冒険者ギルドの集会所に居続けるのはマズいと思い、3人でプレリュードの町中にあるカフェへ移動した。移動し終わり、席についてから僕はかなりの疲れで溜息をついた。


「とりあえずこれで落ち着いて話せますね…」


「本当にすみません、でも…まさかシノさんが神紋章所持者だったなんて…」


ローゼさんが輝かしく憧憬するような目でこちらを見ながら話す。フェリジアも同じような目で見ていた。


「そりゃあ魔法契約をできるわけだ、納得がいったよ」


“神紋章”。僕の両手にあるアマテラスとハデスの力が授かれたことを示す紋章を2人はそう呼ぶ。しかしながら、移動中にも少し話したが、2人は不思議がっていることが1つあるという。


「でも、シノの持つ2つの紋章は学校の授業でも見たことがないし、どの本にも載ってなかったなぁ」


「そうなんですか…」


フェリジアさん曰く、学校の授業では魔法やそれにまつわる神話、歴史についてみっちり勉強を強いられるため、実際の神紋章の形は授業で覚えるという。


ローゼさんは持っていたポーチから教科書のような本を取り出し、探し出したページをこちらに見せながら話す。そのページには、神紋章と呼ばれているであろう紋章の形が多く載っていた。


「太古の昔から、この世界には多くの神が存在していると様々な書物や遺跡物を通じて伝えられています。その神々はこの世界に住む種族たちに魔力を与え、魔法を伝えました。その起源が神紋章であり、神から直々に手の甲に授かれる神聖な紋章…そして、授かれた人の家系で代々受け継がれるものなんです」


僕はこの世界に来る前の、アマテラスとハデスとのやり取りを思い出した。この世界の歴史における太古の昔に、僕に2人の神の力が授かれたように…魔法が人々に伝えられたということだろう。


まだ少しスムーズに文字を読むことはできないが、本のページを見ながらローゼの説明を聞く。


「現在でも、この神紋章を所持している人は数十人います。でも、所持者の家系として受け継がれた人しか持っていないはずなんです」


フェリジアさんは頷いた後、僕の目を見ながら疑問を投げかける。


「集会所で話したとき、確かシノは冒険者ランクの高い家族はいないと言ってたよな…」


「確かに言いましたね…」


「となるとまだ判明していない神紋章…なのか?実際に魔法契約は通ってるし、紋章はしっかり光る…」


ローゼさんが本を閉じてポーチにしまう。


「偽物ではなさそうですね」


「だな…本当に驚いたよ、シノは絶対A級以上に行けそうだな!」


「A級以上ですか…」


とりあえずは、2人に僕が神紋章持ちということで話しが通ったので、一旦落ち着いて良かったと思った。厳密に言うと僕の持っている紋章はこの世界における神紋章とはかなり逸脱したものだが、それについて話すことはできない。


「そういえば、細かく聞いてみたかったんですけど、どうしてローゼさんとフェリジアさんは僕を…」


質問を投げかけようとしたところ、対面する形で座っていたフェリジアさんがグイッと顔を近づけてきた。フェリジアさんの服装は露出が他の冒険者の人たちと比べると少し多く見える。現実の世界では二次元でしか見ることの出来なかったぐらいの美少女に変わりは無いので、本当に目のやり場に困ってしまう。僕は少し気が動転し、身体を後ろに引いてしまう。


「言い忘れてたけど…さん付けに丁寧な喋り方、堅いぞ。もうシノは私達とはパーティーメンバーなんだ。私のことはさんを付けずにフェリジアと呼んで良いからな」


「じ、じゃあ…フェリジアで」


フェリジアの不満そうな口調に押され、僕はお手上げ状態で恐る恐る呼び方を変えた。フェリジアは体勢を元に戻す。


「そうそう、堅いままだと仲良くなれる気がしないからなぁ…私からはシノのままで呼ばせてもらうよ」


「確かにそうだな…分かった」


僕が頷いた後、ローゼさんも少々遠慮がちな口調だったが、呼び方についての話をした。


「私のことは…何と呼んでも良いというかその、ローゼで良いですよ」


「じゃあ、ローゼで良いかな」


「はいっ、シノさん」


ローゼは笑顔で微笑み返す。透明感のある容姿で笑顔を見せられると誰が見ても非常に可愛いのでまぶしい…じゃなくて、一瞬見惚れてしまうほどだ。


改めて僕は咳払いをしてから、質問を投げかける。


「どうして、ローゼとフェリジアは僕をパーティーに誘ったのか聞きたかったんだ。恐らく他にもランクの高い冒険者の方がいたと思うし、そっちの方が良いような気もして」


フェリジアが首を横に振り、少し前のめりになって話す。


「実は…大体の冒険者は、既にパーティーに入ってることが多いんだ。今まで何人かに声をかけたんだけど…一向にパーティーに入っていない人がいなくてさ。そこで新しく冒険者になったシノの噂を聞いてパーティーに誘おうと思ったんだ」


「2人で今まで依頼をこなしてきましたけど、そろそろ人数を増やさないと魔物との戦いも厳しくなってきたので」


「そうなんだよ、最近になって魔物が少し強くなり始めたんだ」


アマテラスとハデスに教えてもらった、この世界の状況についての説明とフェリジアの発言は内容が合致していた。魔王の力が強大になり始めていて、魔物もその影響で強くなり始めているということだ。


その魔王を倒す頼み事を2人の神からされた僕は、大きな役目を負っていることを再度覚えさせられる。


「なるほど…分かった。僕の冒険者ランクはまたE級だけど、できる限りのことをするよ」


「ありがとう、シノ。じゃあ早速依頼を受けに行きたい…というところなんだけど、ちょっとお願いがあるんだ」


フェリジアが席を立ち、僕の隣に歩いてきた。するとフェリジアは僕の肩に手をポンと置き、とんでもないことを言い出した。


「私と1回、手合わせしてみないか?今の強さを知りたいんだ」


『『 えっ? 』』


僕とローゼは声を揃えて驚いた。


まだ戦いの訓練や練習を全くしていないのに、戦って大丈夫なのだろうか僕は―――

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