第4話「パーティー」

“プレリュード冒険者ギルド”で、僕は正式に冒険者となった。あの魔法契約の後に周りにいた冒険者の人達に声を掛けられ、冒険者契約祝いと言いながら幾つかの飲み物や食べ物をご馳走された。


その中自己紹介を迫られると、この世界での名前は“シノ・コーセガル”なので毎回本名を言いそうになり戸惑ってしまった。これからこの名前に慣れていかなければならない。


「とりあえず、シノ…で呼んでもらえるようにしたら何も支障は無いかな…」


飲み物や食べ物を食べ終わり、椅子に座りリラックスしながら1人言を呟いた後、冒険者の魔法契約を応対してくれた受付嬢のレイナさんが手を振って受付カウンターから声を掛ける。


「シノ・コーセガルさん!冒険者ギルドの仕組みについて説明がありますので、こちらへ来て下さい!」


「あっ、分かりました!今行きます」


素早く席から立ち、受付カウンターに行く。受付嬢のレイナさんは面向かっていつも笑顔で話していて、現実の世界では見たこと無いようなほど可愛い…と思ってる場合では無かった。


「魔法契約で、新たに冒険者となった人を祝うという文化がこのギルドでは染み付いていて…少々ビックリしましたよね、シノさん」


「いえいえ、祝ってもらえて嬉しい限りです。良い文化ですね」


「ありがとうございます!さて、ギルドの仕組みを説明する前に…魔法契約のときに忘れてしまっていた、私の自己紹介をしっかりとさせていただきますね」


レイナさんは、被っていた受付嬢の目印となる帽子を外し、胸に当てる動作をしながら礼をした。透明感のある白いロングヘアーがフワッと動き、頭には少し小さな猫耳が付いていた。僕は少し驚きの表情を出してしまった。


「私は、プレリュード冒険者ギルドの受付チーフ、レイナ・ユクレストルと申します!冒険者ランクB級のセリオンです!よろしくお願い致します!」


礼をした後、また満面の笑みを僕に向けて浮かべた。黄色く大きい眼がまぶしい…じゃなくて、現実の世界で見ていた2次元の美少女を本当に具現化させたようだった。


自己紹介の中で種族名だとは思うが、明確には分からない単語があったので、質問してみる。


「こちらこそ、よろしくお願い致します!セリオン…って種族の名前なんでしょうか」


「そうですね、セリオンは獣人族の総称として呼ばれていて、この世界の4大種族なんです!ヒューマン、エルフ、ドラフと並んで人口が多い種族ですね!」


レイナさんが帽子を被り直している間、僕は手帳とペンを腰のポーチから取り出し、メモしていく。


「なるほど…教えていただきありがとうございま…」


「あれ…?シノさんは、不思議な文字を扱っていますね。SIVS(シブス)文字書法を使わない方なのですか?」


この世界の人達から見たら、確かに日本語の文字は不思議な文字に見えるだろう。ここは別世界の話をすると混乱してしまうので、少し変えて話した。


「少し変わった文化がある地方で育ちましたので…SIVS文字書法とは何でしょうか」


「よし!こちらを見ていて下さいね」


レイナさんは1枚白紙をカウンターの道具箱から取り出し、それに手をかざした。すると、この世界で使われているであろう、未だに少し読めない文字が次々と文として浮き出てきた。


「文字が…!」


「世界の標準文字、SIVS文字をこのように魔力で書くことができる魔法です!シノさんは珍しくもSIVS文字書法を扱わない文化の地方で育たれた方でしたので、ご紹介させていただきました」


これは、いち早く習得すれば文字の読解が出来ないという壁を乗り越えていける一歩になりそうだ。このことについてもメモをした。


「初めて知りました…ありがとうございます」


「少々話が逸れてしまいましたね、ではギルドの仕組みについて説明させていただきます!」


レイナさんが説明用の資料なる本を取り出し、こちらに見せながらギルドの仕組みについて説明をした。




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ダーアンファングの冒険者達が所属するギルドの仕組み。ギルド協会が定めたものだ。


冒険者にはそれぞれ、協会が開く試験の結果に応じて冒険者階級が与えられる。階級は低い順から、『E/D/C/B/A/AA/AAA/S』となっており、上の階級になるには試験を合格しなくてはならない。新たに冒険者となった者はE級から始まり、階級を示すバッチが肩に付けられる。


AAA級は魔王に立ち向かえる強さを持つ者を基準にしているが世界で未だに8人しかおらず、S級はそれ以上の強さを持つ別格の者を基準にしているが該当者がいない状態だった。


世界各地には、プレリュード冒険者ギルドと同じようにギルド集会所や協会所があり、そこに様々な人々から受け付けた依頼が集まる。冒険者達はこれらの依頼を遂行していく役目があり、依頼の報酬で自身の生計を立てている者が多い。


依頼には難度の高いものほど、階級制限が付いており、階級が制限未満の冒険者はその依頼を受けられないようになっている。ドラゴン級の大物討伐を例に上げると、A級以上でないと依頼を受けられない。


協会が定める一定の冒険諸費用は協会が負担する…など、様々な説明を受けた。


「こちらの仕組みを集めて記載した簡易版マニュアルがあるので、渡しておきますね」


「丁寧に説明をありがとうございます、分かりやすかったです」


レイナさんは嬉しそうにまた笑顔で元気よく話してくれた。


「いえいえ!これからシノさんの冒険者生活がより良いものになりますように、願っていますね」


僕はありがたい言葉を受け取り、答えるように返事をした。


「はい!」




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ギルドの説明を受けた後、僕は依頼の内容が書かれた紙がびっしり貼られている依頼掲示板を手帳の文字ガイドと照らし合わせながら見ていた。E級なので今受けられる依頼は薬草採集、スライム討伐と難易度が低いもので数が少なく、悩んでいた。


「まず階級を上げて受けれる依頼を増やしても良さそうだけど…どうするかなぁ」


階級をD級に上げれば、受けられる依頼が大幅に増える。アマテラスとハデスの力を授かったので、この力で試験に挑めば行けるのではないか、という考えも出てくる。


しかしながら、試験を受けるには少しばかりの依頼達成の実績と料金がかかると説明で聞いたため、料金は手持ちで何とかなるとしても、実績がゼロの状態のため、それをすぐに実行に移すのは難しそうだ。


すぐ側にあったソファに座り、現実の世界では有名な考える人のポーズを取りながら少しの時間悩み、結論に至った。


「1人でE級の依頼を地道にこなしていくところから始めるか…よし」


ソファから立ち、受ける依頼を決めようとしたとき、控えめな女性の声が左側から聞こえた。


「あの…!そこの剣士の方…!」


左を振り向くと、そこには杖を持った賢者に見える姿をしているヒューマンたる水色の髪の少女が前に立ち、短剣3本を腰に携えた盗賊のような姿をした青髪の獣人…セリオンの少女も後ろにいた。声は水色の髪の少女からのようだ。


「僕のことですよね……?どうしましたか?」


セリオンの少女が明るめの表情で二カッと笑いながら話した。


「さっき、新しく剣士の少年が冒険者になったって聞いてさ!恐らく君のことじゃないかなって思って、ローゼと一緒に探してたんだよ」


「そうね、貴方のことを探してたんです。依頼をこなすのに十分なパーティーの人数が無くて困ってて…」


賢者の姿をしている少女が一旦深呼吸をする動作をしたように見えた後、僕の目をしっかり見ながら握手を誘うように手を差し伸べた。


「私達のパーティーに入って、依頼に協力していただけませんか!」


パーティー加入のお誘いがこのタイミングで来るとは思っていなく、しかも少女2人のパーティーからだった。少し驚嘆してしまい、おどおどしてしまう。


「な、なるほど…パーティーに…分かりました、やりましょう!」


でも、この巡り合わせはきっと何かの始まりだろう。僕は少女の手を握った。


「僕はシノ。シノ・コーセガルです。よろしくお願いします」


少女の表情が天気が晴れたかのように笑みを浮かべ、元気よく言った。


「ありがとうございます…!私はローゼ。ローゼ・クラールハイレンです!よろしくお願いしますね!」


そして、後ろに立っていたもう1人の青髪の少女とも握手を交わす。


「ありがとう、私はフェリジア・ブランモーネだ。よろしくな」


2人の冒険者少女と出会い、僕の冒険者生活は本格的にスタートした。授かった2人の神の力を発揮して、現実の世界で読んでいたライトノベルのように“チート”の無双が始まるまで、あと少しだろう。

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