第495話
「うおおおおおおォォォォォ!!!」
全身を発奮させ、燃え上がらせるような叫びを上げる大我。
今の彼は、目の前の視界がとても澄んでおり、音がはっきり聞こえているのに聞こえていないような、しかし意識に直接届き完全に認識できるような、ゾーンの領域に入っていた。
一瞬だけ空を見て、降り注ぐ岩石の軌道を頭の中に入れる。どのタイミングで落ちてくるか、どれだけの岩石が自分の下へとやってくるか、感覚的に覚える。
間もなく三発程当たりに来る。大我は、その場でサイドステップを行い瞬間的に軌道を変え、自分へ当たるはずの岩石の流星を回避していった。
衝突の瞬間、砕けて破片が吹き飛び、散弾のように飛び散っていく。大我は最初の一回だけそれに命中し、ダメージこそ幸いにもなかったものの、これによって動きを封じられるのはまずいと直感的に判断し、より大きく避けるように己の動きを調整した。
(目標を見誤るな! あいつは確実に真っ直ぐ向かってくる!! 絶対に目をそらすな!!)
余計な思考を介入させないよう、何度も己に言い聞かせながら、山を転がる巨岩の如く接近してくるラントを見定める。
最初に落下した数発から、途中で岩石の軌道が大きく変わることはないと確信し、記憶のままに足を動かして当たらないように警戒する。
だが、動き続けなければいずれ命中してしまう。その場に留まり続けることは出来ない。
勢いを乗せて、己の奥義に身を包んだラントは、迷いなく全力で接近する。
空からの流星、正面のラント。まだグランドシンパスは続いているはず。そこには無限の攻撃の可能性がある。
とにかく避けながら機を伺い、全力でラントの攻撃を受け止め、全霊を込めた反撃を叩き込む。
最初はそう考えていた。しかし、無限の攻撃の可能性を意識した通り、大我に襲い来るは様々な角度からの土魔法だった。
「っ!?」
直後、大我の足元が揺れて地面が陥没し始めた。足元から一気に崩しに来たのだ。
態勢が崩れれば、攻撃も防御も効果がいくらか下がってしまう。それはガードが崩れるのとほぼ同義。
このような現象は起こしてくるだろうと、頭の端で予測まではしていた。だが、ここまでクリティカルに突いてくると、わかっていてもどうにもならない。
このまま同じ場所にいては、上からも下からも突き崩されていく。考えていた通り、すぐにでもここから足を動かそうとした時、まるでそれをわかっていたかの如く、彼の背後から何かが勢い良く隆起したような音が派手に鳴った。
「くっ…………! やりやがる……!」
大我の背後で突出したのは、巨人が見下しているのかと錯覚するような巨大な壁だった。
しかもそれは、絶妙に陥没した彼の周囲、その後方部分を囲うように出てきており、完全に逃げ道を潰すべく現出させたものだった。
ここから大きく回り込んで逃げるうちに、もうラントは全力のストレートを叩き込んでいるだろう。
流星を全て回避するような余裕も、これによって打ち捨てられた。完全に袋小路に陥ったのだ。
ここで、大我の意識に楔を打ち込んだ流星の拳撃、メテオストレートが、強く思考を蝕んだ。
次の一撃は、確実にそれクラスのパワーを持つ必殺の一撃。なれば、文字通りこれで決着をつけてしまえる威力を持っている。
まさに、ラントと共鳴し支えてくれる大地の力。ここまで完璧にかつ早急に絶体絶命の状況に追い込んでくるとは思ってもいなかった。
「━━━━━━━━━━━━」
だが、大我はここで、悩むのも惑うのも止めた。自分の中で、直感的に導き出された、これしかないという結論。それに己を託したのだ。
全力で走り、右腕に力を溜めるラントの目にも、その異変は感じ取れた。
「そうか━━━━そう来やがったか」
大我は構えた。流星が降り注ぐ中でも、己が色んな人から学んできた構えを取り、動かないことを決断したのだ。
そうすれば流星が命中し、彼の身体に確実なダメージを与える。それは現実となり、まさにいくつもの岩石が彼の身体にぶつかっていた。
だが不思議なことに、彼はそれを耐えていた。痛みを覚える様子もなく、殆ど仰け反る気配もなく、不動を貫いていた。
「いいぜ、お前がその気なら、望み通りに叩き込んでやるよ!!」
ラントは怖気づくことなく、むしろワクワクした。まさかそんな選択肢を取るとは思いもしなかった。
彼の無謀にも近い勇気と根性、そして底知れぬ胆力に敬意を払いながら、ついに拳がまもなく届くという範囲内にまで入り込んだ。
「こいつで!! 終わりだァァァァァァァァ!!!!」
地面がさらに陥没し足跡が出来る程に左足を踏み込み、弦から矢が放たれるが如く、思いっきり引いた右腕が、大我の方へと放たれた。
瞬間、ラントの右手や腕には不思議な風を感じたが、それらも全て嵐を越える龍の如く貫いていった。
「がはっ…………!!!」
ラントの拳は、大我に届いた。これまでにないくらいに手応えがあった。威力も申し分なし。文句のつけようが無いほどの当たりぶりだった。拳は確かに、彼の鳩尾辺りへと届き、衝撃を響かせたのだ。
大我の口からは血のしずくが飛び、ひび割れ陥没した地面に落ちて染めていく。これ以上ないほどに命中が反映された現象だった。
だが、ラントは直感的に思った。何かがおかしい。間違いなく当たったし、受け止めはしたが威力は相殺しきれていないはず。今にも倒れそうになっているはずだ。
なのに、この不可解な感覚はなんだ。なぜまだ、気持ちはまだ終わっていないと感じている。
その正体は、すぐに現実へと現れた。
「なっ……!?」
ほんの三秒程の静寂の直後、なんと、叩き込まれたラントの腕を、大我が思いっきり両手で掴んだのだ。
意識も飛んだかもしれないと、一撃を喰らい下へ傾いていた大我の顔が上がる。
口周りが地にまみれた彼の顔は、楽しそうに笑っていた。
「━━━━━━捕まえた……!」
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