第437話

(奴等が全力でこちらへ挑むのは理解できる。それしか無いからな。だが、アリアの支援がスペックに比べて明らかに小規模だ)


 ルシールの身体を借りているとはいえ、本来ならばもっと大々的な支援攻撃が出来るはずだと、ノワールは踏んでいた。

 現時点では大我達からの攻撃は払えているし、問題は見られない。

 しかし、これまでの戦いの記録を見るに、ただただ猪突猛進だけで挑みに来るとはとても思えない。

 フロルドゥスの百鬼夜行を、身一つで命を懸けて戦い尽くした大我はともかく、それ以外まで同じようにしているのは逆に不自然極まりない。


(念の為、外部からのアクセス履歴を探っておこう。いくら権限を奪ったとしても奴はアリアだ。何をするかわからない)


 ノワールの用心深さが、未知なる方向からの攻撃を警戒させ、さらなる防御態勢を築き上げる。

 彼女は元々、非常に取るに足らない存在。それが今日まで消去されず生き残り、世界の敵となるにまで至ったのは、この用心深さにあるからこそだった。

 発見される可能性を常に考慮し、知覚されない程小さな領域を奪うという気の遠くなるような行動。

 その神経質なまでの猜疑心は、現実世界で初めての戦いでも遺憾なく発揮される。


(メモリを幾らか割くことになるが、予期せぬ好機を与えることに比べれば大したことはない)


 どれだけの小細工を施そうとも、ノワール側の優位は変わらない。

 それでも彼女は、堅牢な城とも言える程の万が一を常に思考の隅に置いている。

 無理に攻める必要は無い。向こうから手札を切り続けてくれるなら、それが尽きるまで叩く。そこに攻めを混じえた時、大我達はだのような行動に出るか。

 疑いの渦が、絶えずノワールの思考を包み込む。


「はあああああっ!!!」


 大我はいくら押し返されようとも効いてるような素振りも見せず、足元を爆破させながら距離を縮めに行った。

 同時にエルフィも、彼の速度に追いつくように飛びつつ詠唱を構えておく。

 その隣を、風を身に纏いつつ蛇行して走るティア。

 可能な限り固まって動かず、いつでもそれぞれ分かれて攻撃に入れられるようにと意識の準備をしておく。

 魔法を纏い、高速で接近する二人の姿は、普通ならば怯むような圧のある光景。

 ノワールは一切の動揺も見せず、冷静に二人の機動やエルフィ、アリアの支援体勢を視認する。

 その間は二秒。判断は次の段階へと移行し、杖を光らせ、ほぼ詠唱も無しに無数の火球の雨を降り注がせた。

 後方のアリアにまで余裕で届くような、回避可能領域すらも埋め尽くす広範囲の放射攻撃。

 三人はバリアを身に纏い、大我とティアはダメージを最小限にする為にしっかりと弾の軌道見逃さぬように移動コース上の火球に注目し、速度を緩めず左右に分かれて走り続けた。

 先に大きく距離を縮めたのはティアだった。接近中に剣を両手で握り、祈りの詠唱を唱えて竜巻を剣と一体化させる。


「っっ!!」


 突風が形になったような速さで近づき、刃が届く所までたどり着く。

 一切の迷いなく、ティアは己の擬似人格に新しく刻まれた太刀筋を振るった。

 だが、その刃はノワールには届かなかった。


「私が与えた剣術など、そのまま通じると思っているのか」


「きゃあああっ!!」


 刃の最も力が死ぬ箇所を杖で受け止め、わずかに切傷を作る程度で済ませるノワール。

 わかりやすくも力の差を歴然と示す煽りをぶつけながら、諦めていないティアの二の撃である風魔法の発動が成される前に、意趣返しの如く圧縮された風弾を腹部へ叩き込みふっ飛ばした。

 なんとか直前で身体を屈めて、クリーンヒットだけは避けたティア。

 しかし、体内の奥の奥に響く痛みが、彼女の歯を食いしばらせた。


「そして……君には本当に残念だと思っている!!」

 

 振り向きざまに、彼女が検索した戦闘プログラム通りの鋭利なハイキックをカウンター気味に放つ。

 その先にあるのは、赤炎と電撃を纏った大我の拳。

 衝突の瞬間、大気を揺らがせる程の衝撃波が響いた。

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