第436話
「芸のないことだ! 正面から戦い続ければ、いつか勝てると思っているか!!」
秘匿しつつ作戦を共有したかと思えば、することはわかりやすい正面突破。
大したことのないとノワールは切り捨てるが、それでも大我達は、正面から戦いに行くことを止める気配はなかった。
「だったらどうしたァ! 可能性があるなら、そこを信じて突っ走るものだろうが!!」
そんな安い挑発に乗ることはない。今はこれこそが、アリアが導き出したい現状最善の作戦のはず。
大我はそれを信じ、加速と共に炎を纏ったストレートを放った。
「殴るだけなら動物でも出来ることだ!!」
ノワールは受けることもせず、真横へ見事に回避した。かに見えた。
大我の拳が振り抜かれ切る前、彼の手の力はいきなりふっと脱力し、拳の進みが止まった。
視線は拳撃のコースを見ていない。既に回避したノワールを捉えていた。
大我は崩しかけの姿勢から、野生的直感で、体勢を整え、炎のジャブを叩き込んだ。
並の相手ならば、意図的とは思えないこのフェイントからのコース変更に戸惑い、一発は喰らってしまう。
だが、ノワールは常に油断していなかった。
彼の拳に対して、既に待ち構えているように杖の先端を置いていたのだ。
まるで合気道の達人の如く、渾身の虚を突いたジャブは左手でいなされ、今にも彼女の魔法が至近距離から叩き込まれようとしていた。
「黒炎の────」
「危ないっ!!」
攻撃を叩き込む前に差し込まれた、いわばカウンター。
時限爆弾のようなそれは、今から逃げたとしても多少の傷は免れない。
その可能性を跳ね除けてくれたのはティアだった。
彼女は走りながら魔法を組み、元々は加速の為に発動しようとしていた、竜巻を伴う風魔法を、自分を巻き込みつつ大我とエルフィへとぶつけた。
間一髪のところで、大我はノワールの側から離れ、黒炎魔法の発動を中断させた。
「危ねえ、助かった」
「もう、大我はいつもそうなんですから!」
お礼を向けて、再び直前までと変わらぬ状況に戻る戦況。
お互いにまだ大きな傷は負っていない。状況が傾くような出来事は、まだ発生していないのである。
だが、その時は確実に訪れる。その理由は、アリアの提案にある。
数分前に、彼女がティアとエルフィに共有した内容。それは「とにかく正面から戦いながら付け入る隙を作り出す」というものだった。
『良いですか。現在ノワールには、世界樹を元とする実質的に無限とも言える程の魔力があります。仮に長期戦を挑んでしまえば、確実に敗北するのは私達です』
『無限の魔力……』
『かといって、短期決戦に持ち込むのも危険です。現在の彼女のスペックは下手に判断できません。新たな身体を製造したとあれば、何をしてくるかわからないまま焦って勝負を急げば、それも死に繋がります』
強大な力を持っていると解っているが故に、敵側の取れる選択肢は膨大。
アリアですら把握できていなかった存在に対して無茶をすれば、負けられない戦いを自ら敗北に突き進んでしまうのと同じ。
しかし、無茶をしないわけにもいかない。矛盾しているようだが、それ程までにノワールという相手には分が悪い。
『だから、私がノワールへの対抗策をこじ開けます。いくらユグドラシルを掌握したとはいえ、たった数日で全てを把握しきれる程、規模は小さくありません。元々は私の一部。ルートを見つけ出し、力を削ぐ事は可能なはずです』
ならばこそ、この場で実力で上回るのではなく、力を失わせる方法が最善だと、アリアは演算結果を導き出した。
『私は、ユグドラシルにアクセスしながら後方支援をします。エルフィ、ティア、それまで大我さんと共に────』
この方法は当然、確実ではないし不確定要素が多すぎる。
だが、これこそが可能性に賭けた、現状の最も勝利へと繋がる光なのだ。
『全力で戦い、絶対に死なないでください』
ほんの一瞬の、電脳間のやり取り。結論は簡潔だが、困難であることは言うまでもない。
だがこうして今、仲間を信じて全力で立ち向かう大我を筆頭に、その作戦は少しずつ確実に進んでいた。
「おーし、まだまだ行くぞ!!」
可能性を手繰り寄せる為の真っ向からの攻勢。持てる力を全て使い挑む、その場で出せる最大限の策。
決して諦めず、どこまでも足を踏みしめて戦い抜く大我の存在があるからこその戦い方でもあった。
だが、当然ノワール側も、大我達の攻勢に対して何も考えていないはずがなかった。
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