第435話

「どれだけ策を練ろうとも無駄だ。私が全て跳ね返してやる。何度向かってきてもな」


 ノワール側も、何か作戦を共有したであろう事は察している。

 能力の大部分を奪ったとはいえ、アリアは元々この世界樹という現世界の根幹、そして未だ全てを読み込み終えられない程の膨大なデータベースの管理者。

 まだ把握して切れていない急所や抜け道がある可能性も否定できない。

 優越感は捨てない。だが油断はしてはならない。彼女達の電子頭脳に干渉できない以上、戦いの中でそれを察するしかない。

 その場で仲間内のみで作戦を共有するという行為は、思考に楔を打ち付けるという副次的効果ももたらしていた。


「やってみろよ。俺『達』は諦めが悪いぞ。こっちはいくらでも死にかけてんだからな!!」


 大我達には、それを乗り越える意志がある。

 勝とうとするのではない。勝たなければならない。

 仲間達の、戦う者を信じて待つ人々の意志が彼らには乗っている。

 それは間違いなく、勝利へのエンジンとなる。 


「大我! もう一回正面から突っ込むぞ!」


「おう!!」


 女神の使いではなく、共に戦う相棒としてエルフィが導く。

 彼の眼に迷いはない。大我は足元を思いっきり踏みしめ、足元を爆発させ加速し、再び高速で接近していった。


「…………理解はしているが、諦めが悪いのは本当に厄介だな!!」


 彼らのこれまでを理解せずに放言したわけではない。だが、力の差が目に見えてもこうして立ち向かってくるのは不愉快だ。

 ノワールは構えを取ることすらなく襲撃を待ち構えた。

 勢いを乗せながら、大我の振り被った豪快なパンチが叩き込まれる。

 ノワールはそれを、最低限の動作でわずかに後方に後退り避けてみせた。

 大我の攻撃はまだ終わらない。受け止められる、避けられるなんて結果は承知の上。

 より鋭く、より速く、ストレートや回し蹴り、足刀蹴り、回り込みながらの裏拳。直感とノワールの回避位置、自身の姿勢が最も速く叩き込める攻撃の判断が、現実の行動となって具現化する。

 だがそれらも、ノワールは手で、杖で受け止め、しっかりと攻撃のコースを見極め回避し、そのどれもを受け流してみせた。

 

「はああああっ!!」


 左手で叩き込んだアッパーカット。ノワールはそれを予測していたかのように片手で受け止める。

 しかしそれを承知していたか、それとも一瞬一瞬の中で下された本能的な最良の判断なのか、大我は怯む時間すらもなく、受けられてからすぐに身体を引き、加速する右ストレートを打ち込んだ。


(速い。いちいちの攻撃に迷いが全く無い。映像データとして見てはいたが、実際に戦うとこうも厄介か)


 止まらぬ暴走列車ほど怖いものはない。しかもそれが理性を持っているとなれば、本格的にどんな対処を直感的に生み出されるかんからない。

 ノワールは、受け止めた左手をわざと離し、同時に風に誘われるように後方に身体を傾け、わずかな動作で再び後方へ軽やかに跳躍した。


「逃さねえよこの野郎!!」


 そのコースを待ってましたと、エルフィは事前に準備していた魔力を開放し、巨大な火球を一瞬で練り上げる。

 距離を取られないうちに、それを思いっきり放ち、風を吹かせて加速させた。


「黒炎のアグニ!!」


 一時的な退路を読んで見るからに強力な攻撃を放たれても、ノワールは焦る様子も驚きも見せない。

 対応可能だと至極冷静に観察、判断し、杖を輝かせ黒炎を練り上げる。

 まるで剣のような形に揺らめく黒炎は、エルフィの火球へと射出され、空気が痺れるような爆裂を発生させた。

 重い衝撃に爆煙が吹き、世界樹の内部が揺れ動いたような錯覚を覚えさせる。

  

「はあああああっ!!」


「おおおおおおおおっ!!!」


 しかし、それでも攻撃の時間は止まらない。

 煙幕の中から、走る勢いで煙を吹き飛ばし、大我とティアが共にノワールへの接近を試みた。

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