第416話 共に在る未来 15

 二人の到着は、皆にとっては天の助けとも言える程の安心感をもたらした。

 実力面で対抗できていようとも、先の見えない数の暴力では何が起こるかもわからなかった。

 消耗戦では確実に分が悪い現状、迅怜とアレクシスの存在は非常に大きなものとなった。

 それとはまた別に、エヴァンにはもうひとつに気になることがあった。


「……そういえば、他の皆は」


 セレナへ力を合わせて立ち向かう為に共に待機した仲間達。

 少なくとも二人が到着したということは、先の戦闘にある程度の区切りがついたと判断した方が自然となる。

 ならば、他のみんなは一体どうしたのか。そう思考した次の瞬間、戦況にさらなる変化が訪れた。

 空中を飛行する無数の自動兵器。その周囲に漂う劈くような冷気。

 直後、敵対者に刃を突きつけるかの如く、いくつもの鋭く巨大な氷柱が生成された。

 それは一切の容赦無く放たれ、装甲の上から機体を貫き爆散させた。


「これは……!」


 攻撃はまだ終わらない。

 次々と訪れる情勢の変化に思わず放心状態になっていたラント。

 そんな彼の背後に、三体の量産型が襲いかかろうとする。


「やべっ!」


 ラントはそれに早めに気づき、振り向きつつも防御態勢を取ろうとした。

 だが、敵はそれから数秒とも経たず視界から消失した。


「神依縁ッ!!」


 視界の外から放たれた豪槍の如き飛び蹴りが、量産型を蹴り砕いた。

 迅怜とアレクシスに続き、新たに加勢した者達。

 その剛力と盛大なる氷魔法。それはさらに注がれていく希望の一滴だった。


「すまぬ。少々遅れてしまった」


「良かった。皆倒れてはいないみたいね」


「が、劾煉さん……!」


「よかった。流石に一人だけ倒れたなんてことはないとは思ったよ」


 セレナとの戦いを終えた者達は誰一人として欠けていなかった。

 先走って乗り込んだ二人の後から、劾煉とクロエがさらなる戦力として加勢してくれたのだった。

 そして、エルフィの元へと、アリアに制御権を改めて明け渡したルシールが駆け寄ってくる。


「あ、アリア様……無事だったんですね!」


「はい。ルシールのことも問題ありません」


 絶望的な状況とも言っても過言ではなかった戦地から無事に生き残った主人に、エルフィは胸の中に支えていた二つの大き過ぎる不安の一つが抜け落ちた気持ちになった。

 しかし、その一方でとても言い出しにくい事実があった。

 当然アリアは、最も心配している事案の一つであるそれを問う。


「……大我さんは大丈夫ですか? 姿が見当たらないようですが……それに、そこの繭は」


「………………実は」


 エルフィは、この方に隠していても意味は無いと、正直にかつ要点を纏めて話した。

 大我が心臓を貫かれ、ラクシヴが全力で心臓と身体の治療にあたっていると。

 アリアはそれを聞き、隠せない不安を見せた。

 そして、心を引き締めんとばかりに表情に緊張を走らせた。


「──事情はわかりました。何れにせよ、現在ユグドラシルの設備が使えない以上、私にはどうすることもできません。元々B.O.A.H.E.S.である分、不安は一切拭えませんが……信じることにしましょう。それしか道はありません」


 己が作ったからこそ、存在の脅威を一番知っている。

 この時、アリアは運命の因果を認識せずにはいられなかった。

 かつて封印した危険な存在が、巡り巡ってこのような役回りを負うことになるなんて、と。

 どう転ぼうとも、今の自分は他と変わらない存在に過ぎず、この戦いの中でどうすることもできない。

 己の役目は、再びユグドラシルの中へ戻った時に再開されるのだ。

 思考内に残る最悪のパターンと数え切れない程に導き出される失敗の演算結果を押さえ込みながら、アリアもまた信じる者として大我の回復まで待機することとなった。

 この新たなる加勢、そしてさらに、彼らを慕う者、共に戦う者の手が繋がることで、戦況は大きく変わっていく。

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