第417話 共に在る未来 16
「どうしたどうしたァ!! さっきのデカブツの方がよっぽと見えてたぞ!!」
「こいつァ面白えなあ。まさかあん時見たオブジェみてえなのがこんな風に動くとは。だが、こんだけいるなら壊しても問題ねえな!!」
「まるで神話の一節のようね。だけど、誰だってそう簡単に神に裁かれはしないわ」
「骸の群れ等、今更拙の敵では無い!!」
セレナとの戦いを経た彼らには、当然ながらダメージが蓄積されていた。
だが、幸いにもアルフヘイムへと突入してから間もない頃だったこともあって、世界樹までの移動の間にそれなりに回復の期間を設けることができた。
それ故に、本調子とは決して言えないが、満足に戦うだけの力を取り戻すことが出来たのだった。
戦ったことのない自動兵器に怯むことも無く、駆けつけた四人はひたすらに数の暴力を蹴散らしていった。
電撃を纏いては雷速の体術で貫き、自慢の雷魔法で薙ぎ倒す。
より強靭な、より豪快な土魔法で吹き飛ばし、大砲の如き拳で破壊する。
己が動かずとも強大なる魔力を引き出し、まるでここが氷の世界であるかのように敵対者の時を止めていく。
一体、また一体、正確かつ確実に急所を貫き、金剛の如き荘厳さを持ちながら武の力を以て叩き砕く。
「はは……こんなの見せられたら、俺も負けるわけにはいかねえよ!!」
その姿は、ラントの士気を、そして皆の闘志に火をつけていく。
たとえ力が削がれていても、誰かの奮闘する姿を見て奥底に眠る戦意が、力が引き出されることは珍しくない。
目が眩むような大群はこの時点で、戦況に大きな楔が打ち込まれていた、
しかしそれでも、ノワール側の軍勢がただで終わるわけではなかった。
その頃、肉の繭を見守るティアとアリアは、ただじっと、息を飲むような緊張感で張り詰めたまま願い続けていた。
表面が小さく蠢くまま、状態は一向に大きく変化する様子はない。
ただ唯一、大我を背まで貫いた剣が、 少しずつ繭の外へと出始めていることを除けば。
「………………」
「………………っ……」
現状お互いにできることはない。
じっと成功を願い待ちつづけていたその時、ついに剣が肉の繭から取り出され、地面にからんと音を立てて落ちた。
二人の表情がハッとして、一気に注目が集まっていく。
直後、それまで剣が突き出ていた位置に、人間の口が現れた。
「ようやく剣を抜けたよ。心臓の傷も塞がった」
「大我は……大我は大丈夫……ですか?」
「たぶん一命は取り留めた。でも、まだ油断は全然できないです。もう少し治療の工程が必要だから、まだ完全じゃないかな」
一命は取り留めた。その言葉だけでも、ティアはとても救われた気持ちになった。
少なくとも死に至ることは無い。今の自分にできることはないけど、それでも死んでしまったら大我に謝ることさえ出来ない。
ようやくほんのわずかに頬が緩んだ直後、ラクシヴは言葉を続ける。
「それでなんだけど、ティアにお願いがあるんです」
言葉を向けられるとは思っていなかったティアは、はっと肩を叩かれたように顔を正面に向けた。
「出来る限りでいいから、たくさん食べ物を持ってきてほしいんです」
「それはどういう……?」
「大我の身体に無理させたから栄養失調状態なの。私が栄養を作ることも出来なくはないけど、流石にもう大我と同一の細胞を作るのに精一杯で、それが出来るだけの余裕が無いんです。だから、お願いします」
ラクシヴは、ティアが風魔法を使い自由に舞えることを知っている。
だからこそ、この状況では彼女に任せるのが最適だと考えていた。
少しでもいいから、大我の助かる確率を上げたい。その為にできる事はなんでもする。
そんな意思を、ティアにも託したのだった。
それは確かに、ティアの胸にも伝わった。
「……わかりました。頑張ります」
もし、心がズタズタになった時のままの彼女であれば、すぐにそれを受けることはできなかっただろう。
大我を助けたい。どうしても生きてほしい。そんな願いを胸に、ティアは可能な限り食べ物のありそうな付近の建物を思い出し、走り出した。
希望の種は少しずつ目を出していく。しかし、それを害する存在もただでは終わらない。
皆がひたすら量産型と自動兵器を破壊し続けていたその時、地面に転がった無数の残骸が、突如カタカタと動き始めた。
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