第411話 共に在る未来 10
「今の声、ティアじゃねえのか!?」
「……急ごう。嫌な予感がする」
同時刻。
無数の量産型と予期せぬ強敵との接敵に打ち勝ち、急いで世界樹の方へと向かっていたラント、アリシア、ラクシヴ、エヴァンの四人。
自己再生能力を持つラクシヴ以外は目に見える程の傷を受けており、特にエヴァンは左腕が複雑骨折を起こし、無数の打撲痕と裂傷を負っていた。
三人は身体中に走る痛みを気合で我慢しつつ移動している最中、自分たちがとてもよく知る者の悲鳴が聞こえた。
これだけの偽物が跋扈している中で、その声が本物である保証は無い。
だが、付き合いの短いラクシヴを除いた三人は、それが不思議と彼女の声であると確信できた。
その感情を根拠に三人は一気に足を早めた。
それから少し遅れて、ラクシヴもそれについていく。
一瞬の疑いを持っていたのは間違いない。自分にはそれを確信できるような結束も無い。
しかし、信じている皆が感情を大きく傾けたのならば、間違いないのだろう。
友達を想う優しさに胸を熱くしながら、ラクシヴは共に走るのだった。
そしてそれから間もなく、四人は世界樹ユグドラシル前の大広場、大我とティアが戦いを繰り広げた場所に辿り着いた。
そこで目の当たりにしたのは、誰も可能性として考えられなかった光景だった。
「大我……大我ぁ…………いやだよ…………」
「ティア、治癒魔法は大我には効かないんだ……何か、何かできないか……! ダメだ! 考えても考えても脳死を遅らせるしかできねえ!!」
今までの明るく軽い雰囲気からは想像もできない剣幕で必死に考えに考え、か細い希望を手繰り寄せようとするエルフィ。
剣の柄を握ったまま、そこにあるかもわからない微かな希望に縋るようなか細い声で涙を流すティア。
その間には、胸を剣に貫かれ、血を流し生気を失った大我がいた。
何が起きたのか考えている暇はない。四人は一気に青ざめ、痛みすらどこかに消える程に走り出した。
「おいお前ら!! 何があっ……」
「みん……な…………ぁぁ…………」
最も早く駆けつけたのはラントだった。
状況も掴めぬまま、己の中で膨れ上がる不安を抑えつつ声をかける。
その声に応えたのはティアだった。それでも彼女は、剣から手を離さずにいた。
「わたし……わた…………ああ……ごめんなさい…………わたし……ああぁぁぁ…………」
一体何を、皆になんていえばいいのか。
こうなってしまったのは他でもない自分のせい。自分のせいで大我が死んでしまう。
偽りようのない事実。だが、今にも張り裂けそうな気持ちから、ティアはうまく声が出せなかった。
「何も言うなティア!! 話は後だ。とにかく、今は大我を助けねえと!!」
「それができるんならやってるんだよ!! でも、どうやったってどうやったら大我が息を吹き返すのかわからねえんだよ……どうすりゃいいんだよ……」
ラントの言葉に、冷静でいられない状態のエルフィが声を上げた。
こんなにも取り乱し、絶望に苛まれいるエルフィの姿は見たことがない。
治癒魔法も大我には効かない。そもそも心臓を貫かれ、未だ出血も止まらず、なんとかマナによって血液を無理矢理動かし繋ぎ止めている状態。
完全な死が緩やかになるだけで、根本的な解決にはならない。
まさしく今、エルフィは八方塞がりとしか言いようがなかった。
「お前には死んでほしくないんだよぉ……こんな短い時間しか居られないなんて、俺は絶対嫌なんだよ……!! なあ大我……」
エルフィの声に、だんだん諦めの気持ちが含まれ始める。
こんなにも無力なのか、相棒がくたばろうとしている時、すぐ側にいるのに何もできないのか。
歯を食いしばり、頭を抱えて震え続けていたその時、たった一つ、唯一の救いの手が伸びた。
「────私なら、僕ならなんとかできるかもしれない」
暗雲立ち込める中で名乗りを上げたのは、大我以外で唯一の生体であるラクシヴだった。
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