第383話 騎士の矜持、憧れへの道筋 2

「トップを神の管理下に置けば、警察組織が頂点から腐敗することはない。民への滅私奉公を自ずと遂行し、人々の模範的なロールモデルとなる。よく考えてるじゃない」


 ユグドラシル内から、アルフヘイムの戦いを眺めるアリア=ノワール。

 街の中で引き起こされる戦いを確認しては、まさしく神のように見守る。

 神の座を乗っ取り、リリィを支配下に置いたノワールだが、彼女に対しては一際冷たく、やや嘲笑的な視線を送っていた。


「性能自体は他のロボット達よりも強く造られてるけど、その代わり自律した擬似人格が存在しない。ただ所属する街の状況を報告し、与えられた命令に従い動く操り人形。通常稼働時は他と変わらないから気づかれないけど」


 実質的にはただの神の使いである為、リリィは簡単に操作権を奪われる存在となっている。

 神の座が入れ替わるという事案自体が本来存在しないこともあって、そんなことは想定されてもいない。

 故に、今こうして戦闘人形として仕向けられたのだ。


「自分の意志が無いから、上が変わればすぐその通りに従っちゃう。裏切る事もない都合のいい人形だから、駒としても最適よね。さ、どれだけ足掻いてくるのか見せてもらおうじゃない」



* * *



「ぐっ! 団長! 一体どうされたんですか!?」

 

 エミルはそれを、自らの刃で受け止めてみせた。

 その瞬間、剣と剣を通して強く感じる物があった。

 この刃は、今までに手合わせしていたリリィのそれとは違う。

 正確で、一点への殺意に溢れ、冷淡に力強い。

 だが、その突きの形、速度、正確さ。それはリリィの剣使いという確信があった。

 それだけに、エミルはこの状況が飲み込めなかった。

 

「敵性体の抵抗を確認。引き続き、戦闘態勢を継続します」


 話が通じない。ぶつけた質問の答えにもなっていない。

 ひどく単調で固すぎる言葉を口にした後、リリィは剣を振るい、さらなる攻勢を仕掛けた。

 力を乗せた縦斬り、まるでいきなり刃が現れたように錯覚しそうな横切り、その間にも逃さない足元への蹴り。

 息づく暇もない攻めによって、エミルは全てを捌きながらも防戦一方となった。

 

「なんのっ……!」


 だが、ただ一方的にやられ続けるエミルではない。

 動の流れ、その隙間に見えるわずかな瞬間。

 刃を受け止め続ける中でそれを見切り、次の一手へ繋げるチャンスを求め、縦斬りが放たた刹那に、力を込めて剣を振るい弾いた。

 振り下ろし、力が乗り切る前の衝突。にも関わらず、リリィの刃は重力が乗っかったように重かった。

 懐ががら空きになり、ついに訪れた反撃の好機。

 エミルはそこに鎧の重さも乗せた蹴りを入れようとした。

 だがリリィは、まるで腕と身体が別々の生物として動いているかのように、反動を受けている最中でも脅威的な反応速度で後方に身体を傾け、威力を殺して蹴りを受けた。

 人間らしい動作を無視した、戦闘行動だけを思考しているリリィの挙動。

 結局、最初に手に入れたチャンスは、大した痛手も負わせられないままに終わってしまった。


「あのような動作、団長は今まで見せたこともなかった……いや、そもそもすることもなかった」


 自分の知っているリリィ団長ではない。その考えが、わずかなぶつかり合いの間にもより強くなっていく。

 互いに距離が離れ、突然の衝突によって始まった戦いのインターバルがようやく訪れた。

 エミルは剣を一旦下ろし、疑念と戸惑い、不安とわずかな怒りが籠もった声で問うた。


「…………リリィ団長、せめて話を聞いてください。一体どうしたのですか。団長、何があったんですか」

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