第381話 分岐点 ②
バーンズ、そしてルシール達がそれぞれの敵と対峙していたその頃。
仲間を信じてその場を任せ、ユグドラシルへとそれぞれ向かう英雄と勇者達がいた。
一つは大我達。大きな戦力こそ失ってしまったが、エヴァンを筆頭に、将来に大きな期待を抱けるラントとアリシアもいる。
そう簡単にくたばる様な者ではない。事実、ユミルセレナを避けるようにして大回りで移動している最中も、決して倒れることなく目の前に襲いかかる敵を蹴散らし走り続けていた。
「うわっ!? なんだ今の音!?」
「気にしてる暇はない。走るよ大我、ラント!」
「は、はい! エルフィ、何か状況わからないか?」
「……ダメだ。何かしら通信出来る物がありゃ良かったんだが、ことごとく遮断されてる。見たまんましかわかんねえよ」
後方で鳴り響く途轍もない轟音と、その度に感じる大地の揺れ。
これが強者の戦いなのか、それとも超常的なぶつかり合いなのか。
肌で感じるだけでもわかる。あの戦場に自分達はおそらく足手まといでしかなかったと。
だが、それだけでは完結させられない。ただ先に行かせられた、向かったわけではなく、自分達は確かな役目を持って分かれ、先に向かっているのだと。
「頑張る他ないよな」
「ん、どうした大我?」
「なんでもねえよ。絶対にユグドラシルにたどり着いてやる!」
「どうしたよ改まってさ。んなこと言うまでもねえだろ。あたし達なら絶対に行けるさ」
「根拠のない自信だけでも危険だけどね」
「お、お兄ちゃん! あたしが鼓舞してんのに水刺さないの!」
「はは、ごめんごめん」
最終決戦までの道筋。その空気は、どこか少しだけ柔らかかった。
緊張感に包まれてはいるが、刺々しくはない。根底には絶対に自分達の世界を助けるんだという強い意志がある。
それを燃料に、大我達は止まらず走り続けていた。
* * *
一方、バーンズに後を任せ、ユグドラシルへと向かっていたエミルとエウラリアも、ひたすら走り続けていた。
敵は大方、ユミルセレナや大我達の方向に偏っている分、幾らか動きやすい。
だが、その奥で不安と共にどうしても思うこともあった。
「これ程の惨事、まさか現実になろうとは……」
「私達の街が、こんなに呆気なく……」
B.O.A.H.E.S.の襲撃という一大事が引き起こされた時は、このような事態はしばらくは起きないだろうと誰もが思っていた。
だが、それよりも大規模な、類を見ない程の大事が今ここに起こっている。
街を守ろうにも、個々の力だけではどうにもならない程の出来事が。
これまで騎士団が護り続けていた街が、人々にとって大切な場所が、圧倒的な力の前に崩されていく。
無辜なる人々を、無力なる人々を守る為に、それは決して看過できない。
暴れるユミルセレナの方へ走りたいという感情も一瞬は生まれたが、空気の揺れや激しい音から察するに、おそらく既に戦いは始まっているのだろう。
それぞれの作戦を、己の感情で崩すわけにはいかない。自分には自分の役目がある。
エミルは一度立ち止まるも、共に戦う仲間に感謝しながら、再び振り返ってユグドラシルへと走り出した。
そんな彼の心情を、エウラリアは察して何も言わずにいた。
「…………団長は無事なのだろうか」
その最中、彼にはどうしても脳裏に過ることがあった。
それは、ネフライト騎士団団長であるリリィのことである。
手紙からの指令により、隊長格は街を出るように言い渡された。
間違いなく、この状況を予期したが故のものなのだろう。
しかし、当の隊長は避難所にもどこにもいなかった。
おそらく、アルフヘイムに残ったと思われるが、それだけに、エミルには一抹の不安があった。
さらに、隊長不在の危険性を省みて、残した隊員達の安否も胸に引っかかる。
不安だらけの走り道。それでも引き返すことはできない。
「団長ならきっと大丈夫です。あの人の強さを、私達が信じられなくてどうするんですか」
「────そうだな。どうにも心に陰りが出ていたみたいだ。私もまだまだだ」
これまでの団長の強さ、勇敢さは自分達がやく知っているはず。それなのに不安がどうしても隠せないのは、胸の奥を強く保てていないからだろうか。
──それとも、とても嫌な予感がこびりついているのか。
エウラリアの優しく突き動かす言葉に自嘲し、エミルは再び走り出そうとした。
その時、ユミルセレナの方向から耳を劈く豪快な爆裂音が聞こえてきた。
さすがにそれには二人も怯み、足を止めてその方向を確認した。
自分達にも予期せぬ危険が及ぶ可能性があったからだ。
「ぐっ……!」
「ううっ……!」
一体どれほどの熾烈な戦いが繰り広げられているのか、完全に想像することはできない。
二人はあの場所で強大な存在と戦う者達に敬意を胸の奥で表しながら、再び振り返り走り出そうとした。
だが、その先の光景は、先程までとは違っていた。
「あれは……」
二人の方へゆっくりと向かってくる一つの人影があった。
その姿は慌てている様子も無く、とても堂々とした綺麗な歩き姿だった。
このような状況でそれだけの余裕を保てている。二人は剣に手を当て構えた。
その警戒は、はっきりと姿が見えた瞬間に解かれた。
「だ、団長!?」
エウラリアが驚きの声を上げた。
その人物は紛れもなく、リリィ団長だったのだ。
見間違えるはずもないその姿。エミルも、憧れの存在が無事であったことに胸を撫で下ろした。
だが、それはほんの一瞬。エミルの脳裏に、その姿の違和感が突き刺した。
リリィ団長の表情は、これまでに見たこともない程に冷たい無表情だったのだ。
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