第327話 決戦準備 2
「よしよし、お前ら本当に上手くなったな。立派に建てられたじゃねえか! しかもこんな短時間で!」
「いえ! これも師匠が俺達を鍛え教えてくれたおかげです!」
アレクシス率いるドワーフ達は、人々が雨風凌げる場所を早めに提供できるように、急ピッチかつしっかりとした土台と設計の元に、大人数を収容できる石壁の小屋を創り上げた。
あくまで仮住まいであり、これからもっと頑丈な建物を作る予定である。
それでも土魔法に長けた種族なだけあって、その造りは素晴らしく、これだけでもメインになり得るような出来の良さをしていた。
「何いってんだ。お前達の自力がそこまてたどり着けるだけあったってことだよ。自信持ちな! おっと、手伝いも来てくれたな」
「どうも、ドワーフの皆さん! バーンズ隊長から手伝いに行ってこいと指示を受けたネフライト騎士団第2部隊の者です! 俺達に出来る事があれば、なんでも言ってください!」
まるで義を重んじる連隊のような気合の入りまくった声で、手伝いの志願を申し込む隊員達。
その力の入り用を気に入ったドワーフ達は、肩を叩いて喜んで協力を受け入れた。
「おお、ありがたい! 俺達だけではこの避難所の人数全員分の世話をできるかわからなかったからな。それじゃ、そこら辺から木材の調達を頼みたい」
「任せてください! 行くぞお前ら!!」
種族を超えて協力し合い、人々の為に力を尽くす皆の姿に、しっかりと自分の教えを伝え続けてよかった……と、少し涙ぐみそうになったアレクシス。
これで心置きなく、バレン・スフィアの時よりも強固や意志で戦いに向かえる。
弟子の一人の肩を叩き、落ち着いた声で語りかけた。
「今のお前らなら、ここの事を任せておける。俺は行くから、あとは頼んだぞ」
そう言い残し、アレクシスは弟子達の側から離れていった。
弟子のドワーフ達は、それを引き留めることはできず、そして引き留める権利も無いことはわかっていた。
あの人は自分達よりずっと強い。どれだけの時間を使えばその領域にたどり着けるかわからないほどに。
だからこそ、師匠は今回も戦いに背を向けることはない。憧れの人の大きな背中を一心に見つめ、いってらっしゃいの一礼を全員で行った。
そしてアレクシスは、大地に根を張る大木を背もたれに待っていた迅怜の所へとやってきた。
「待たせたな迅怜よ。退屈だっただろう?」
「別に。軽く周辺を見回ってきたからな。今の所、俺達を狙ってる気配はねえ……が、うろちょろしてるのもいるな」
やや退屈気味な雰囲気を漂わせながらも、足元には狩りの成果を見せつけんとばかりに、監視役の偽ティアの残骸が転がっていた。
「今回は俺の仲間にも協力してもらってる。居場所を奪われたままじゃあ、気が立ってしょうがねえってあいつらも言ってたしな。」
お前も含めて相変わらず血の気が多いなと、同時にやる気があるのはいいことだと思いつつアレクシスはふっと小さく笑った。
「ここにエヴァンがいれば、もう少し骨のあるスパーリングになったものだがな」
「俺だけじゃ不服ってか?」
「誰もそんなこと言ってないだろう!? だが、味方がいた上で、エヴァンにあそこまでの傷を負わせた者がいる。それだけでも相当な脅威だろうな」
「…………まあな。認めたくねえが。あいつは強えからな。気合を入れねえと、俺達もいつやられるかわかんねえ」
「であれば、少々本気でぶつかってもいいか?」
「誰に向かって言ってんだアレクシス。本気でやってもいいんだぜ?」
「ははっ、いつまでも変わらないなお前は。それじゃあ…………」
静かに、そして強い仲間意識を感じさせながらも、やり取りの中でバチバチとした火花がぶつかり合う、
そして、ほんの一瞬の間に、アレクシスの強靭かつ豪快な拳と迅怜の雷撃をも裂くような神速の蹴りがぶつかりあった。
「本番前の準備運動と行こうじゃないか」
「その本番前に倒れるんじゃねえぞ!」
この先に待ち受けてるのは、誰も予想し得ない最大級の戦い。
その前にぶつかり合い、力量を改めて確かめ合うのはどこか不思議な心地よさがある。
二人の内心にある、治療中のエヴァンへの気持ちを少しだけ心の隅に置いておきながら、二人は避難所から離れた場所で、決戦に向けて高め合うために拳を交わしあった。
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