第284話
「うっ…………うえっ…………」
激しい戦いによってボロボロに傷ついた道の先に倒れる、自分と全く同じ姿の残骸を見てしまったティア。
自分が無惨に内臓をばら撒きながら死んでいるIFの姿を見せられたような気分。
身体の奥底からの嫌悪感と恐怖に襲われ、その場に蹲り、瞳を潤わせながら、手で口を押さえて吐き気を催した。
「う……ぁ………うえええっ………」
「見ちゃ駄目だティア。こっち向いて、深呼吸して落ち着いて」
地面に転がった、異形を曝け出した頭部はこちらを向き、まるで自分を壊した大我達をずっと、無機質に監視しているようだった。
既に機能は停止しているのに。
破壊された後も、残存した電力が身体の一部を痙攣させ、まるでゾンビのように姿を思わせる。
大我は残骸を視線の先に入れさせないように移動し、側にいるアリシアは、ティアと同じようにその場に屈み込み、優しい言葉をかけながら背中を擦ってあげた。
ショッキングな物を目に入れ、心に傷を負ったティアの姿を見た大我の胸に、この事態を引き起こした、まだ知らぬ敵への怒りを燃やす。
「ラント、これで終わりだと思うか」
「いいや全然。何が目的なのかも一体全体予想もつかねえ。何より、やっぱなんか嫌な予感がするんだよ」
明確な敵を倒した後なのに、どうしても残る不透明な感覚。
それはこの日、殆ど喋らず考え込み続けているエルフィを筆頭に空気として感じていた。
「あ、ありがとう……もう……大丈夫だから…………」
「とてもそうには見えないって。ほら、無理しないで」
息を切れ切れに、アリシアに支えられながらゆっくりと立ち上がるティア。
自分では大丈夫だと言うが、沈んだ顔色とまだ震えている声色からでは、心配させまいとする言葉に一切の説得力も乗らない。
大我達もティアのもとへと近づいたその時、アリシアが腰に着けていたエヴァンのナイフが、かたかたと振動しながら紅く輝き始めた。
「あ、そういや忘れてた。はいこれ。お兄ちゃんが大我に渡してくれってさ」
手に余る程ではないその動きようを深く気にすることもなく、アリシアは任せられていた伝言通りに大我へと手渡した。
「このナイフを俺に……? うおっ」
理由のさっぱりわからない自分への武器の受け渡しに少々戸惑う大我。
すると、紅く光るナイフは意味なくただ揺れる動作から少しずつ、指向性の感じる正確な挙動へと変わり、まるで強制的にどこかへ切っ先を向けさせようという力の動きを感じるようになった。
大我は咄嗟に手を開くと、それはコンパスの針のように回転していく。
そして、その刃はアルフヘイムの南門がそびえる方向を指した。
「これって、その方向に行けってことか?」
「たぶんな。さっきお兄ちゃん、良からぬことが起こるから、これはその闇を暴く鍵になるって言ってたんだ」
「嫌な予感当たんじゃねえっての……」
耳にした言葉から察するに、これは自分の元に来てほしいという印だと考察した大我。
二本のナイフのうち一本を渡したのは、おそらくはもう一本を発信機として、自身の位置を知らせる探索道具にするため。
それが今、特定の方向を指しているということは、エヴァンの身に何かが起きたのか、それとも緊急を要する事象が発生したのか。
大我は一旦、ナイフを腰に身に着けた。
「ともかく、これは今すぐに移動した方が良さそうだな」
「それなら俺も行く。戦力が必要なら、多いほうがいいだろ」
「あたしはティアを家に連れてく。さすがに落ち着ける場所にいさせないと辛いだろうから」
大我、ラント、アリシアはそれぞれに役割をその場で分担し、すぐにでも行動を始めることにした。
その三人の言葉になんとかついていかんと、ティアも私も協力すると、無理をして口にしようとしたが、アリシアが目の前に手を置き、無理をしないでと無言の意思表示をした。
ティアはその思いやりを跳ね返さず、少し悔しそうに、引き続き襲ってくる吐き気に苦しめられながらも身体をアリシアに任せた。
「そんじゃあ」
「ちょっと待て、大我」
やることは決まり、いざ行動を始めようとしたその時、ずっと黙り続けていたエルフィは、これまでに無いほどの神妙かつ真剣な声と表情で、三人の足を言葉で止めた。
「大我、お前は俺と一緒に、まず世界樹に行くぞ」
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