第277話
「マジかよ……」
「えっ…………ええっ?」
それを見た大我達は、思わず側にいるティアの顔を見て、もう一度向き直し、さらに二度見した。
その姿は、何度見ても瓜二つ。そっくりどころの話ではない。まるで双子のような見姿。
大我達と合流したラントの第一声は、荒げた声となった。
「おいお前ら、そいつは誰なんだよ。偽者連れてきたのか?」
「ちょっと待って! 私は偽者じゃない! 私はれっきとした本人です!」
その言葉に、大我側のティアは真っ向から本気で反論する。
一方のラント側のティアは、信じられない物を見たという顔で、目を点にして何も言葉を出せずにいた。
そして彼女の左耳には、朝食時の通りに耳飾りが付けられていないままだった。
「…………マジにそっくりだな。声も見た目も全く区別つかねえ」
ラントですら、友達に化けたという怒りの前に戸惑いが噴出する。
そんな彼に対して、エルフィが一つ質問をぶつける。
「俺もそう思う。ところでさ、お前一回ティアと分かれて偽者探しに行ったりしたか?」
「あ? まあ一回だけな。そこまで広い場所でも無かったからすぐに合流したが。まさか、その間に入れ替わったとか言うんじゃないだろうな」
「ち、ちょっと待ってエルフィ! 確かに私は離れたけど、ラントの言う通りそこまでは……」
疑いをかけられた時の反論の声色も、戸惑いの表情も全く同じ。
生き写しとも思える程のそっくりさに、何も手がかりが無ければ混乱の渦に巻き込まれていたであろう。
だが、エルフィはあくまで疑いの意思を崩さないままでいた。
「まあ待てよ。そこのティア二人共、少し近づいて向き合ってくれるか」
ほんの一つの特徴以外は写し鏡のような二人を向かい合わせ、その中心にエルフィが飛び回る。
どちらかが本物でどちらかが偽者なのは確実。それをはっきりさせるならば、今は任せたほうがいいのかもしれないと、この場は皆、エルフィに一任させた。
「本当に私そっくり……でも、どうして私なんかに化けたんですか?」
「それは私も聞きたいです。こんなにそっくりに変装するなんて……」
「だから、そっちが偽者ですよね? 嘘つかないでください」
「それはこちらの台詞ですよ? 私はともかく、みんなに迷惑がかかるんですよ?」
「あーはいストップストップ! 両方から同じ声でなんか共鳴でも起きそうだよ」
自身が本物だと言い張る者同士の言い合いだが、ティアという優しいエルフの性質なのか、いまいち起こっていても緊迫感に少しだけ欠けているように感じた。
このままでは埒が明かない。エルフィはこほんと咳き込み、その正体を明らかにするための時間を生み出した。
「んで、今から二人に質問をぶつけるぞ。答える時は合図に合わせて同時に答えてほしい。そうじゃないと意味ないからな。準備はいいか?」
同時に縦に頭を振る二人のティア。
お互いに納得こそしていないが、実際に対面するとあまりにも何もかもがそっくりであり、間違われることに理解せざるを得なかった。
その真実を今、証明することになったのだ。
「まず最初。自分と両親の名前は?」
「「ティア=フローレンス。パパはエリックで、ママはリアナ」」
「初めて大我と出会った時、他に誰がいた?」
「「あの時一緒にいたのは、私と大我とアリシア」」
エルフィは、連続でいくつもの過去に起きた出来事や、自分でしか知らないであろうこと、エルフィとティアの間でしかしていなかったやり取りなど、大きく踏み込んだ内容まで質問としてぶつけていった。
二人のティアは、殆どの質問に難なく答え、少し悩む部分すらも同じように返していく。
質問を進めれば進めるほど、二人の顔はどんどん青ざめていった。
どうして自分しか知らないようなことを知っているのか。なぜそんなことまでわかっているのか。
それを聞いている大我達も、どちらが本物で偽者なのか、という根本的な疑問以外の、もっと深い部分に不気味な感覚を覚え始めた。
「…………じゃあ、最後の質問するぞ。今日の朝、家族と俺達で食べた朝食のメニューはなんだ?」
「えっと、小麦パンとマッシュポテトと、ベーコンエッグと牛乳」
「えっと…………あれ?」
最後の質問は、今日この日の、規則正しいいつもの朝の光景について。
その答えを難なく言ってみせたのは、ラントの側にいたティア。
そして、回答に詰まってしまったのは、大我達の側にいたティアだった。
皆の視線が、一気に刺すように寄せられる。
「……ということは、こっちが偽者ってわけか」
「ち、違うの! 少し忘れかけてただけで、頭の中から抜けてて……ね?」
まるで丸裸にされたかのような焦りを見せて、大我側のティアが震えながら、今にも泣き出しそうな表情で言い訳を口にする。
そんな彼女の前に、大我が睨むような顔で近づいてくる。
「ねえ大我、大我は私のこと信じて、くれる……よね?」
「…………さっき聞いたよな、左耳の耳飾り、どうして付け直してたのかって。少し触らせろ」
「う、うん…………」
その言葉に、それを示せば自分を本物だと示してくれるかもしれないと、おとなしく顔を横に向けて耳飾りを差し出し、それに大我が触れる。
右手の指で遊ばせて、感触を確かめる。その確認作業は、3秒と経たずに終了した。
「ティアが耳飾りを外してたのは、朝飯を作ってたときに跳ねた油がついたからなんだ。それで付け直したってのは、怪しいとは思ってた。ティア、ちょっと外した奴を貸してくれないか」
ラント側のティアは、自信を持って小さく返事し、大我の手に外した耳飾りを渡す。
表面に付着した油のべたべたとした感触が、はっきりと指に伝わってくる。紛れもなくティアの言葉通りの印象。
その最後の証拠を以て、どちらかが本物なのかどうか、一切の疑う余地は無くなった。
「俺も途中までは信じかけてたよ。出会ったときのことをあんなにちゃんと覚えてるって出されたらさ。けど、どこまでも中身までそっくりでいても、今日の一緒にいた時間は真似できないだろうよ」
自身の不甲斐なさも込めた、静かな怒りの声。もうここには誰も、偽者を本物だと信じる人物はいない。
しかし、偽者のティアは未だ、何が起きてるのかわからないと言うような顔で、怯え戸惑っていた。
「ち、違う……私、本物……で……偽者なんかじゃ…………ちが…………」
「いい加減にしろ! てめえの目的はなんなのか言ってみろ! どうしてティアのふりをしやがった!」
「ひっ…………ちがうの…………ちがうちがうちがう…………!」
ラントの激昂をトリガーに、驚き竦み上がる偽者ティア。その声色には、ただのフリとは思えないような、本物の悲壮感が込められているように聞こてる。
自身ですらどうしたらいいのか、どう答えればいいのかわからない様子。
恐怖に歪んだ顔の偽者ティアは、その場でゆっくりと後退りし始めた。
「とにかく、まずは聞かせてくれ。どうしてそんな」
「ちがう……わたしは…………わたしは…………!」
相手の姿形もあって、優しく諭すようにティアのフリをしたのかを問う大我。
今にも不安が爆発してしまいそうな涙声で、何度もちがうと言葉にし続けた偽者ティア。
だが次の瞬間、偽者の左手が大我の方へと向けられた。
そして、手のひらが、生物ではなく機構的に開放され、その奥から銃口の如き鉄の筒が姿を現した。
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