第276話
「あー出会っちゃったかー。まあセレナの知ったことじゃないし。けど、実際に出会ったときはどんな反応するのか楽しみだなー」
一方、大我達の歩く街道から大きく離れた、視界にも届かないような建物の屋上にて、セレナがどこか視線を遠くへ置きながら、彼らの現状をしっかり把握しているような独り言を口にしていた。
彼女のいる場所は大我達からは見えるはずもなく、セレナ側からもいくつもの建物が邪魔して視界にすら入っていない。
それでも彼女は、正確に認識しているのである。
まるで、ティアやのその周囲の混乱する様を楽しんでいるような口ぶり。
直後、セレナははぁ……と、気怠げな溜息をついて背伸びをした。
「うーーん…………さてと、もう少し見てたかったけど……そろそろ時期的にも頃合いだし、うざったい引っ付き虫でも排除しとこっかな」
そう言うとセレナは、ちらっと地上に目線を向けた後、建物から建物へと軽々と飛び移りながら、南門の方向へと移動した。
ほんの一瞬だけ視線を差した先には、建物の影に隠れながら観察しているエヴァンの姿。
「……動いたか。これは僕に気づいてる……と見ていいかな」
細心の注意を払って観察していたはずだったが、予想以上の察しの良さを発揮されてしまったらしい。
通常の移動経路ではなく、それを無視した、本来必要ない移動方法を使っているのを見るに、発見されているのは確実
影に隠れるようにもしていたはずだが、一体どこにバレる要素があったのか。
そして、この行動は逃げているのではなく、誘っている。
しかし今それを考えていても仕方ないと、エヴァンは去った方向をしっかり見定めつつ、己の足で追いかけていった。
* * *
ティアと合流し、四人パーティでの行動となった大我達。
目ぼしい手がかりも無かった為、一旦ラントと合流して向こう側の収穫は無いかと、情報を取り纏めることにした。
その道中、周囲に人影の見当たらない裏道を歩きつつ一同は、今一緒にいるティアに対して、どうしても疑問が晴れずにいた。
耳飾りを片方していないのが本物。つけているのが偽者。ということなら、目の前にいる彼女が偽者ということになる。
だが、遭遇してすぐの印象が、あまりにもティア本人と瓜二つなのだ。
どこが違うんだと言われれば、着脱可能なアクセサリ以外には一切見当たらない。
顔も、声も、仕草も、反応も、性格も、そのどれもが同一としか言いようがない。一つの相違点だけでの判断を戸惑わせる程に。
変装や騙りだけでここまでのことが出来るのだろうか。
大我達は、彼女が本物であるかを確かめるため、いくつかの質問をぶつけることにした。
「ティア、変なこと聞くかもしれないけど……少しいいか?」
「え? 大丈夫だけど……何?」
「この前、シルミアの森での落とし物探すってクエストやったよな? その時の報酬っていくらだったっけ」
「たしか……1万ヒュームだったっけ」
「クエストの途中でハプニング起きたけど、どんなのに出会った?」
「カーススケルトンが5体くらい出てきて……一緒に戦ったっけ。あの時は大我に頼りっきりでごめんね」
「気にすんなって――――じゃあ、結構前の話だけど、俺を助けてくれた時のことは覚えてるか? 一番最初に出会ったあの時のさ」
「もちろん、絶対忘れるわけないですよ。あの時はふらふらしてて、今にも倒れそうなくらいで……そこで偶然私とアリシアが出会って…………それからずっと歩き続けて、アルフヘイムまで案内したっけ。今思うと、とても懐かしいね」
大我と出会った時のこと、アリシアと出会ったあの運命の日のことを質問した大我。
誰かを騙る偽者ならば決してわかるはずもない三人の大切な思い出。
それもきっちりと、話してみせたティア。一つの疑いの要素以外の、本人である証拠が強固に固められていく。
この時点で、アリシアは彼女を本物だと考え、大我も過去の欠けていない認識に、本物なんじゃないかと思い始めた。
だが、エルフィだけは懐疑的な態度を崩さずにいた。
「あー……疑って悪かったなティア。長年の付き合いでありながらなぁ」
「気にしなくても大丈夫だよアリシア。間違いは誰にだってあるんだから」
「どうしたエルフィ、ずっとしかめっ面して」
「…………やっぱ怪しいんだよなあ。またお前が持ってる手がかり、確認してねえだろ」
「そりゃそうだけど……」
「大我お前、ここの住人がどういう存在か忘れてねえよな……といいたいとこなんだが、俺の予想が正しければ、もっとわからないことだらけでよ……ああーもう頭が混乱しそうだ!」
世界の本質を認識できている大我とエルフィだからこそ切り込める疑いの角度。
だがそれが逆に、エルフィの頭の中をさらに苦しめていた。
実はそれは、うっすらと大我の中にも引っかかっていたのだ。
おそらく二人の考えていることは、近いものがあるはず。大我はエルフィに、二人に聞こえないように質問をしようとしたその時、進行方向から聞き覚えのある声が耳に入った。
「おー大我達! お前ら見つけられたのかー!?」
「ラント? もうそんな歩いてたのか」
ラントの声を聞き、目的の合流を果たした大我達。
まだ遠くにいるが、どうやら誰かと一緒に移動していたらしく、彼の後ろに誰かの人影が見える。
ティアは今、自分達の側にいる。であれば、アリシアと同じように協力者がついたのだろうかと思いながら、手を振りこちらだと合図を送った。
「こっちはまだだー! ティアと合流しただけだー!」
「…………ああ!?」
その返答を聞いた瞬間、ラントの声色は明らかに警戒心を持った物へ変化した。
同時に、それまでゆっくりな歩幅だった脚を一気に動かし近づいていくと、彼の後ろにいた人物の姿が露わになった。
「――――っ!?」
その人物は、紛れもなくティアその人だった。
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